日別アーカイブ: 2014年4月21日

リニア新幹線整備の理由(全幹法読み直し編)

リニア新幹線は「主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道」の条件に合致するので,新幹線である.この条件は,全国新幹線鉄道整備法という法律に書かれている.
この法律の冒頭には新幹線整備の目的が書かれているが,出だしがこうである.「高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ…」ふーん,そうなんだ,と思うかもしれないが,この法律が1970年に出来たものであり,時代背景が1969年制定の新全総だというと合点がゆくだろう.
「新全総」を含む一連の全国総合開発計画の基本思想は「国土の均衡ある発展」である.そしてそのバージョン2の新全総のインフラ整備の手法は「大規模プロジェクト構想」つまり高速交通の全国展開と大規模工業地の形成が主眼だった.田中角栄氏の「日本列島改造論」と言った方が分かりやすいだろうか.その頃の基本的な考え方が色濃く残っている法律である.
この法律の目的は,このように続く.「新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする」と.要するに,最後の部分に書かれた以下の三項目が目的である.

  1. 国民経済の発展
  2. 国民生活領域の拡大
  3. 地域振興

そんで,どんな路線にすべきと述べているかというと,「全国的な幹線鉄道網を形成するに足るものであるとともに、全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するものであつて、第一条の目的を達成しうるもの」と書かれている.

  1. 幹線鉄道網を形成
  2. 中核都市を連結

この二点のみ.上に書いた背景を理解すると,なるほど,と感じることだろう.しかし,制定後,40年以上にわたってこの法律はメジャーバージョンアップが無く,背景が代わってしまっているという状況が生じている.
さて,この法律に従って基本計画,つまり新幹線網の基本構想を立てる際には以下の各項目を考慮することが求められている.

  1. 輸送需要の動向
  2. 国土開発の重点的な方向
  3. 効果的な整備を図るため必要な事項

この部分については,40年を経た現在でも大きな問題は無い.つまり,この3項目が無ければ完全に時代遅れな法律になってしまっているのだが,「国土開発の重点的な方向」を考慮することで,時代時代の政策に合わせられるようになっており,「輸送需要の動向」を考慮することで,人口分布や社会経済状況に合わせられるようになっている.そして「効果的な整備を図るため必要な事項」を考慮することで,鉄道会社が民営化された昨今でも対応できるようになっているはずなのだが….法律の文面上では…
実際には,この法律が出来た1970年の直後である1973年に決められた基本計画,つまり新幹線網の全体構想はほとんど見直されること無く現在も残存している.国土計画が新全総から三全総、四全総,五全総(21cの国土のGD),国土形成計画と4回もバージョンアップしているにもかかわらず,具体策である新幹線は旧態依然なのである.国土計画のタイトルから「開発」の看板が下ろされたのは16年前.国土計画の根拠法が改正されたのが6年前,そして大震災,迫り来る大震災×2.
1970年代に基本計画を立て,直後に一部路線の整備計画を策定したところでオイルショック,低成長になり,ほとんど何も進まなかったため,実質手つかずのまま改定するのは忍びない,という関係者の心情は分からないでも無い.しかし,さすがにこれはまずくないか?