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特集:ゴムタイヤトラムの特徴と課題


● 目次
【1】はじめに
【2】輸送面
 (2-1)登坂能力  (2-2)加減速力
 (2-3)耐荷重の問題  (2-4)バスには変身できるが、鉄道には変身できない
 (2-4)車内の出っ張り  (2-5)乗り心地
【3】まちづくり
 (3-1)緑化軌道  (3-2)ランドマーク
 (3-3)導入ノウハウの問題
【4】環境面
 (4-1)エネルギー効率の問題  (4-2)粉塵の問題
 (4-3)車両のライフサイクルコストの問題
【5】長期的な維持
 (5-1)輸入に頼らざるを得ない部品が多い  (5-2)長期耐久性の問題
【6】経済性
 (6-1)長期運用の実績ない  (6-2)1社の独占となりコスト高の要因
 (6-3)発展の余地は開発会社次第  (6-4)国内産業育成の観点
【7】安全面
 (7-1)案内の安定性(脱線の問題)  (7-2)轍の問題
 (7-3)軌道の溝が広くてはまりやすい
【8】おわりに


● 参考
カーン(仏)TVR 動画 写真
ナンシー(仏)TVR 動画
パドバ(伊) トランスロール写真


● 参考リンク
 ■TVR(GLTの項目)  ■トランスロール  ■CIVIS  ■IMTS
 ■Le Tram  ■検証 ゴムタイヤトラム
 ■LRT(Light Rail Transit)と路面電車  ■LRT導入に向けてのアプローチ

【1】はじめに

 BRT(ゴムタイヤトラム)は、最近になって導入費用が安いことなどから、LRTの一種として注目され始めている。だが、一般には車輪が鉄からゴムタイヤに変わっただけ程度の認識しかされていないようでもある。

このページでは、ゴムタイヤ駆動の軌道系交通機関であるゴムタイヤトラム(BRT = Bus Rapid Transit)について、その特徴や課題などをまとめる。ゴムタイヤトラムの基本的な特徴については、参考リンクなどを参照されたい。

※注:近年、日本では連接式のバスをBRTとして活用することが考えられているが、現時点ではこのwebサイトは連接式のバスを考慮して記事が書かれていない。

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【2】輸送面

(2-1)登坂能力

 まず、鉄車輪方式のLRVであるが、古い路面電車に比べて比較的登坂能力は高く、8%(100m進んで、8m登る)程度まで登坂可能といわれる。(急勾配を進むLRV :
[動画1]  [動画2]

 いっぽう、ゴムタイヤトラムについては、車輪部分がゴムタイヤなので、登坂能力の面では鉄車輪方式のトラムよりもさらに能力が高く、13%(100m進んで、13m登る)も登ることができる。したがって、線形の自由度が高くなり、特に急傾斜地に建設しなければならないようなケースでは威力を発揮する。(急勾配を登るゴムタイヤトラム :[動画3]  [動画4]  [動画5]  [動画6]  [動画7]

 欧州でゴムタイヤトラムが導入された要因としては、導入費用が安いことの他に、市内に急傾斜地をかかえているので、鉄輪式の導入がそもそも困難であったケースが存在する(カーンなど)。

 日本でゴムタイヤトラムを導入する場合には、欧州に比べて雪や雨が多いことを考慮する必要がある。例えば、 [動画8] は、ゴムタイヤトラムが雨天時に急勾配を登る様子であるが、横断歩道のペイント上でスリップしている音が聞こえている。つまり、通常の自動車と同様に、悪天候時には摩擦力が減少することを考慮する必要があるということである。降雪時にはさらに摩擦力が小さくなって登坂能力が大幅に失われる可能性もある。雪が降るとトラックやバスが立ち往生していることが多いが、同様の事態の可能性がある。そのほかにも、高架軌道を採用すると、冬期に路面凍結しやすく、降雪時以外でもスリップの可能性が出てくるので、一般の道路と同様に路面の凍結防止の管理が必要となる可能性がある。鉄輪式ではレールと車輪との圧力は非常に高く、氷は圧力を加えると融解するので、分岐器の凍結防止には気を遣う必要があるものの、レール面の凍結までは気遣う必要が少ない。

 

(2-2)加減速力

 鉄輪式のLRVの加速力は、日本の電車の感覚を基準にすると、かなり強力である。これは最新式のLRVに限らず、欧州の比較的古めの路面電車でも同様で、席に座っているか、もしくは握り棒にしがみついていないと振り回されるような印象である。かたや日本の路面電車ではそのような走り方をすることはなく、バスであっても加減速はかなりマイルドである。

 これは、ひとことで言ってしまえばお国柄である。少ない乗客数でも運行を継続できる社会背景下で運行される欧州の路面電車は、市内交通ではあるが着席が基本である。したがって、加減速はやや大きめでも問題は少ない。いっぽう、独立採算が原則である日本では、ある程度立ち席が出るような運行の仕方をせざるを得ないので、立ち客がいることを前提とした運転をしないと、転倒者が続出する可能性がある。したがって、車両の性能が良くなっても、加減速は抑えめにしなくてはならない。

 さて、ゴムタイヤトラムであるが、タイヤと路面の大きな摩擦力を生かして大きな加減速度を得られるので、鉄車輪式のものよりも有利である。また、同じゴムタイヤ式のバスと比較しても、バスは低速域で力を出しにくいエンジンを動力源としているに対し、ゴムタイヤトラムは低速域でも大きなトルクの出せる電気モーターを使用しているので、バスよりも有利である。

 実際の車両ではどうだろうか。例えばトランスロールは起動加速度4.7km/h/s(1秒後に時速の値が4.7km上昇する加速度のことで、3.6km/h/s = 1m/s/s)であり、営業中の車両では札幌のゴムタイヤ式地下鉄が起動加速度4km/h/s程度のようである。いっぽう、鉄車輪式のLRVであるグリーンムーバーMAXは3.5km/h/sで鉄車輪式の方が加速が悪いように見える。それ以外の通勤電車ではせいぜい2〜3km/h/s程度である。だが、これは鉄車輪式がこの程度以上の加速をすることができないからではなく、それ以上の加速は、現状の日本では事実上使えないか、もしくは使いにくいからである。その理由は上記の事情による。日本では小数派であるが加速度の大きい鉄輪式の電車は存在しており、昔から有名なものとしては阪神電車の通勤車は4.0km/h/sである。最近では、ドイツから輸入した熊本市交通局のLRVは4.7km/h/sの性能を持っている。

 減速については、ゴムタイヤは元来摩擦力が大きいので特に問題はないが、鉄車輪式のLRVについては通常のブレーキとは別に非常用のブレーキを備えるケースが多いので、これも特に問題はない。

 結局、ゴムタイヤは加減速に有利な特性を持ってはいるが、スポーツカーの性能を比較しているわけではないので、トラムとして使う限りは鉄輪式に比べて特に有利というわけではない。

 

(2-3)耐荷重の問題

 BRT車両の荷重はタイヤの空気圧と設置面積の積で支えることになるが、鉄輪式車両の場合、鉄は変形しにくくレールと車輪との接触面積は小さい反面、接地面における圧力を大きくしても破壊しにくいため、そのままでかなり大きな荷重を支えることができる。

 いっぽう、ゴムタイヤ式の駆動系では、大きな荷重を支えるには、ワイヤ入りの強度の高いゴム特殊なタイヤを用いて空気圧を大きく保ち、接触面積が大きくなるようにタイヤ径を大きくするか、あるいはタイヤの数を増す必要がある。したがって、対応できる荷重の範囲は鉄輪式に比べて小さい可能性がある。特殊なタイヤを使用した例としては、BRTではないが、国内では札幌市営地下鉄が比較的有名である。

 このような特徴は、電車の混雑率の小さい地域(欧州など)では大きな問題となりにくい。だが、日本で導入する場合には、通勤通学時間帯において一時的に乗客を詰め込まざるを得ない事態が発生しうるが、ゴムタイヤトラムのピーク時における輸送能力は明らかにはなっていないので、計画時に十分な精査が必要ではないかと思われる。

 なお、このような事情は既存の路面電車とバスにおいても生じているが、車両の定員計算の段階で1人あたりの必要面積の値を変えることで自動的にある程度考慮されるようになっているようである。2両連接のLRV(定員75人くらい)と標準的な大きさのバス(定員85人くらい)では、書類上の定員は後者の方が大きい。実際には前者は100%を超える詰め込みが可能だが、後者は定員乗車すら難しいケースがほとんどである。ゴムタイヤトラム導入にあたっては、書類上の定員だけでなく、実際のピーク輸送能力を十分に考慮する必要がある。

 

(2-4)バスには変身できるが鉄道には変身できない

(2-4-1)バスに変身できる
 ゴムタイヤトラムは、BRT(=Bus Rapid Transit)とも呼ばれることからわかるように、軌条で案内された連接バスである。実際に、ボンバルディア社のTVRという種類のゴムタイヤトラムにはハンドルがついており、無軌条走行できる。フランスのナンシーでは、中心街から郊外方向に行くと、レールの無い区間があり、完全に連接トロリーバスとして走行している。車両もバスとして登録されている。(トロリーバス走行するゴムタイヤトラム  
[動画1]  [動画2]  [動画3]  [動画4]  [動画5]  [動画6]

 なお、路面のマーカーによって操舵されるCIVISやIMTSは、そもそもバスや連接バスそのものであり、案内のない道路ではバス走行できる。末端部分をバスとして運行する交通機関としては、ガイドウェイバスもあるが、ガイドウェイバスは案内装置が立体的であるので、地平面でも専用軌道とせざるを得ない(ドイツのエッセンでは、これを逆手にとって、バスだけしか進入できない走行レーンをつくっている)。

 ところで、末端部分をバスとして運転する場合、バス運転部分で渋滞等により定時性が乱されるような状況であるとトラム走行部分の運行にも影響を及ぼす可能性がある。したがって、開発密度の低い渋滞の心配の少ない区間において、インフラ整備を簡略化するような目的でバス運行させるのが適切ではないかと思われる。ナンシーの場合も、そのような使い方に見える。

 

(2-4-2)鉄道に変身できない
 ゴムタイヤトラムは構造上、鉄道路線には乗り入れできない。よって、地方中核都市などで周辺のローカル線をLRT化して活用する用途や、幹線の空き線路容量を使って地域輸送を行うようなする用途には使えない。つまり、いわゆる「カールスルーエモデル」が採用できない。

 ここで、中心部以外で鉄道路線乗り入れるのと、バス路線として機能するのでは意味が異なることに注意しなければならない。鉄道路線上をLRVが走行する場合は時速100Km程度で高速走行が可能であるので、都心から広範囲・遠方までLRTサービスを提供することができる。したがって、地域の中心的な都市で広い後背地を持つが、地下鉄や本格的な鉄道整備をするほどの密度がないような場合に威力を発揮する可能性がある。後背地が広ければ、中心部の活性化を促進する効果が大きい可能性がある。

 いっぽう、ゴムタイヤトラムによる輸送では、車両性能上は70km/h程度出るが、既存市街地をこの速度で走ることは難しく、立体交差の専用軌道などを準備する必要があり、安価に交通サービスを提供するという当初の利点が失われてしまう可能性がある。結局、前述したようなナンシーのような使い方になると思われ、70km/h程度の走行をする区間長は皆無かもしくは短くなるものと考えられる。つまり、交通サービスを提供できる範囲は比較的小範囲となる可能性が高い。すなわち、ゴムタイヤトラムは市域が比較的小さい中規模以下の都市において、住宅地から都心までの乗り換え無しの交通サービスを提供するような用途に向いているものと思われる。

 

(2-4-3)バスにも鉄道にも変身できない
 ロール社のトランスロールには営業運転に使用するためのハンドルが無く、上記のようなデュアルモード的な使用による営業運転は想定されていない。つまり、運行しようとするすべての区間に専用の構造を持った軌道整備をしなければならない。

 

(2-5)車内の出っ張り

 ゴムタイヤトラムのボディーは、種類によって異なるが、CIVISとIMTSはバスそのもの、TVRは連接トロリーバスとほぼ同じ、トランスロールはLRVと同様であるがやや小ぶりである。前者2つはともかく、後者2つは外見的にはLRVと大きな差はないが、ゴムタイヤ式であるためタイヤハウジングが大きく車内にはみ出している。右の写真はTVRであるが、通路幅は80cmを下回り、車イスの通過ができないので、低床車両ではあるが日本的基準ではバリアフリー対応とは言えない。

 欧州では、ゴムタイヤトラムは問題なく使用されており、車イスでの乗降もされている。これは、欧州の多くの都市交通機関において、信用乗車方式が採用されていることが大きく影響している。信用乗車方式を採用すると、車イスやベビーカーは入ったドアと同じドアから降車できる。このため、運賃支払い等のために運転席横まで車内を大移動する必要が無く、通路幅が狭いことは大きな問題とはならない。

 だが、日本に導入するには、新たに通路幅の広いタイプのゴムタイヤトラムを開発するか、あるいはゴムタイヤトラム導入と同時に信用乗車方式を導入する必要がある。信用乗車方式を採用しない場合は、車イスやベビーカー等については通常の乗客とは異なる取り扱いをする必要があるので、バリアフリーの水準は劣ることになる。

 

(2-5)乗り心地

 あまり大きな問題ではないが、ゴムタイヤトラムの乗り心地は鉄道よりはバスに近い。鉄車輪式のLRVでは加減速時の前後方向の加速度や曲線通過時に外側に引っ張られる感じを受けることはあるが、それ以外の振動はレールの継ぎ目がある際のカタカタという小さな振動だけである。

 いっぽう、ゴムタイヤトラムについては、他のゴムタイヤを使用する都市交通機関(札幌やパリなどのゴムタイヤ式地下鉄、ゆりかもめやポートライナーなどのAGT)と共通の独特の揺れ方がある。比較的ゆっくりした周期で左右に大きく揺れるとともに、路面の凹凸を拾った場合は小さく軽く縦にポンと跳ねるような振動を感じる。TVRではさらにレールの継ぎ目のカタンカタンという小さな振動が加わる。バスモード時の乗り心地はバスそのものであるが、レールの継ぎ目のカタカタという振動が無い分、軌道走行時よりも乗り心地がよくなる。(つまり、TVRについては、乗り心地はバス走行時よりも軌道走行時の方が悪いということ。百聞は一見に如かずなので、フランスのナンシーを訪れてみることをお奨めする。)

 乗り心地の原因は、車輪がゴムであるということのほかに、軌道の左右の高さの管理精度の問題もあるように思われる。鉄車輪系では、レールの精度が悪いと脱線につながることがあり、それなりの高さの調整が行われるが、ゴムタイヤトラムについては歴史が浅く、軌道の踏面の高さの管理ノウハウがまだ成熟していない可能性がある。

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【3】まちづくり

(3-1)緑化軌道

 LRT導入の効果として、しばしば都市景観の向上があげられる。トランジットモールを実施すれば、雑然とした自動車が視界から消えるため、すっきりした感じになる。これについてはゴムタイヤトラムでも実現できる。右の写真はフランスのナンシーの中心市街であるが、ゴムタイヤトラムが導入されるとともに、トランジットモールとなっている。あいにく撮影日が雨天で人通りが少なかったが、歩行者中心の街路とすべく努力が払われている。

 ところで、LRTの都市景観向上と言えば、トランジットモールよりはむしろ左の写真のようなイメージでとらえられることが多い。最も左の写真はドイツフライブルグの緑化軌道であるがレール面以外は全く緑色になっており、公園のようなイメージを与える。国内でも部分的であるが緑化軌道が実施され始めており、右隣の写真は鹿児島中央駅前である。駅前の景観向上に大きな役割を果たしている。

 いっぽう、ゴムタイヤトラムの軌道は、必ずタイヤの通り道が必要であるので、鉄輪式のLRTのような軌道緑化ができない。右の写真はトランスロール導入準備中のイタリアのパドバ市内であるが、石畳の路面が基本であるものの、タイヤの通り道はコンクリートの板のようなものが敷き詰められている。インファンド軌道のようにコンクリートスラブの溝を緑化する方法も考えられるが、緑とコンクリートのシマシマになり、景観は鉄輪式に劣る。パドバの写真の石畳を芝に変えてみた合成写真を作成してみたが、石畳よりは見やすくなったものの、縞が目につく。

 鉄輪式の場合でも、軌道がコンクリート製の板の溝にレールをはめ込むような形式の場合、左の写真のようにコンクリートの縞が目立つので、鉄輪式だからといって即ストラスブールやフライブルグのような軌道が実現できるわけではない(が、タイヤトラムの軌道を緑化するよりはマシのように見える)。
※写真は、広島電鉄広島港付近の緑化軌道の試験敷設区間

 なお、CIVISやIMTSは、道路面にマーカーを埋め込んだり路面のペイントを読み取ったりする方式なので、緑化軌道にはなじみにくいと考えられる。

 

(3-2)ランドマーク

 ゴムタイヤトラムは中央にガイド用のレールが1本だけある構造なので、単なる道路面のラインあるいは縁石のように見える。いっぽう、鉄輪式は2本の並行するラインがつづくので、そこが軌道であることがよくわかる。最も左の写真はTVRの軌道の写真であるが、一見、普通の道路に見える。右隣はフランスボルドーのものであり、ここは架線レストラムを使用しているため比較的軌道の存在がわかりにくいが、1本ラインよりは軌道の存在が明確である。
 CIVISやIMTSは、道路をほぼそのまま走行するので、走行路はランドマークになりにくい。

(3-3)導入ノウハウの問題

 右の写真はゴムタイヤトラムの導入準備中のイタリアのパドバ市のものである。撮影は2005年の9月である。この都市では当初05年の1月開業予定であったが、その後9月に延期された。9月の中旬に実際に行ってみると、開業していなかった。軌道や架線はすでに準備されているのだが、レールは錆びているし、電停の準備もできていない。まだまだ開業には遠そうである。
 さらに半年以上たったが、2006年4月現在、トランスロール方式で営業にこぎ着けた都市は、未だに1つもないようである。比較的手軽かつ安価にLRTと同様の交通機関を手に入れられると期待されていたが、どうやらそうでは無さそうである。

※パドバ市のそのほかの写真は、こちら
理由は不明であるが、2005年開業予定だったクレルモンフェランも、2006年に開業が延びたようである。

クレルモンフェランは、2006年10月半ばに開業式典が行われたようである。

どうも、中国の天津では走っているようである。

 知り合いの先生によると、写真の約2年前に同市を訪れたそうであるが、路面はレールこそ敷設されてはいなかったが、レール用の溝は既に掘られ、ゴムタイヤの通過する部分のコンクリート板も整備されていたそうである。その時の写真(上の3-1に示した区間)も見せていただいた。

 試運転の様子の写真は存在しているようなので、試運転は行われたようであるが、この2年間の進捗はレールを埋めて架線を張っただけのようである。その後、とある信頼できる筋から得た話によると、ここには書けないような、交通計画に携わる人が聞けば(いや、一般の人でも理解できるくらい簡単な)呆気にとられるような理由で営業できないようである。
 本当に”呆気にとられるような理由”で営業できないなら、そろそろ開業しても不思議ではないが、そういう話は聞こえてこない。実は何かもっと重大な事情があるのかもしれないが、残念ながらほとんど手掛かりはない。どうもメカニカルな課題の模様(2006/10追記)。

 イタリアのパドバでは営業にこぎ着けたようであるが、脱輪して事故が発生したようである。フランスのクレルモンフェランでも脱輪事故が発生した模様。中国の天津でも脱線事故があった模様。どうもトランスロールという乗り物は、安定した輸送サービスを提供できる段階には至っていないようである。関係者が車両の下回りに神経質になるのも、こういう理由があるからか?(2007年8月追記)

 鉄輪式のLRTは、既存の路面電車の発展型であるので、交通システムとしては計画・設計・施工・運営に至るまで、各段階のノウハウが存在している。いっぽう、ゴムタイヤトラムは、軌道や車両などの交通システムの主要部分が特殊であるので、ちょうど新交通システムのようにセットで特定の業者に依存することになる可能性が高い。発注側が、交通システムを買いさえすれば営業できると思いこんでいると、パドバのような状況に陥る可能性がある。ゴムタイヤトラム導入時には、単にシステム販売業者から機材を買うだけでなく、計画から運営に至るまでのマネジメントを行うセクタが必要であろう。

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【4】環境面

(4-1) エネルギー効率の問題

 LRTは環境にやさしいと言われる。実際のところは、都心で運転する際にはストップ&ゴー運転であったり、新規路線整備するには建設時にエネルギーを要するなど、LRTだけではエネルギー効率が劇的に改善するわけではない。むしろ市民の意識の変化や、長年の都市構造の変化が大きな影響を与える可能性が大きく、その面での効果の方が大きいと思われる。この点では、ゴムタイヤトラムと鉄車輪式のトラムとの差は、さほど大きくないと思われる。

 LRTを郊外まで延長し、都市の基幹交通的な役割をさせる場合には定速走行の時間が長くなり、走行方式の差が出てくる可能性がある。ゴムタイヤトラムはゴムタイヤと路面との摩擦が大きいことが特徴である。これは加減速時に有利にはたらくが、定速走行時にも転がり摩擦が大きく、エネルギーのロスが大きい。通常の鉄輪式の鉄軌道では、車両がいったん走り出すと、鉄輪とレールの間の転がり摩擦が小さいために、ほぼそのままの速度で転がり続ける。鉄軌道のエネルギー効率がよいのは鉄車輪とレールのシステムを採用しているからである。

 都市交通機関別の二酸化炭素排出原単位は、2002年度の国土交通白書によると、下の表のようになっているが、同じ鉄輪+レールのシステムを採用している鉄道、地下鉄、路面電車のうち、路面電車の効率が悪い。この原因は乗客の詰め込み具合の差、平均的な車両のエネルギー面での性能の差、加減速の頻度の差によるものと考えられる。だが、路面電車を郊外まで運転するような局面では、鉄道と同程度の効率が期待できるともいえる。

 いっぽう、ゴムタイヤトラムについては、排出原単位は算出されていないが、同じゴムタイヤ式の交通機関である新交通システムや乗合バスが参考になる。新交通システムの排出原単位は、ちょうど鉄道と路面電車の中間である。だが、同程度の駅間距離である地下鉄などと比べると新交通システムの排出原単位は大きい。また、動力源が異なるので単純な比較はしにくいが、タイヤ式で加減速の頻度の大きい乗合バスの排出原単位は路面電車の三倍近い。このことから、タイヤトラムを加減速の頻度の大きい状況下で使用すると、鉄輪式の路面電車と同程度かそれ以上の排出原単位となる可能性がある。

交通機関 g-CO2/人km 駅間 駆動 動力
地下鉄 16 1km程度 鉄輪電気
鉄道 17 1km以上 鉄輪内燃・電気
新交通システム 27 1km程度 タイヤ電気
路面電車 36 300m程度 鉄輪電気
ゴムタイヤトラム ?? 300m程度 タイヤ電気
乗合バス 94 300m程度 タイヤ内燃

(4-2) 粉塵の問題

 路面電車というと、車輪やレールが摩耗して鉄粉となり、飛散した鉄粉が錆びて周囲を茶色に汚してきてたという経緯がある。最新式のLRVでは、ブレーキが電気式になるなど、鉄粉が飛びにくくなっている。いっぽう、自動車やゴムタイヤトラムを含むタイヤ系の駆動方式についても、タイヤも道路舗装材もいずれ摩耗して粉塵になる。

 このタイヤとアスファルトの粉塵については、一部で健康への影響が懸念されてはいるものの、現状では調査は進んでいない。未科学分野である。ただし、調査結果がないからといって健康被害がないことが証明されたわけではないので、今後の動向に要注意である。

 

(4-3) 車両のライフサイクルコストの問題

 日本では、バスの耐用年数は5年、鉄道車両は13年である。ただし、消却の計算を行うための書類上での数値であり、実際にはバスは10年程度、電車は20〜30年使われる。走行時のエネルギー効率は目につきやすいが、車両製造時にもエネルギーが必要であるので、車両の耐久性は重要な視点である。

 近年導入され始めている低床式LRVの耐久性については、現状で最も古いもの(グルノーブル?)でようやく約20年程度に達してきたが、この先何年程度使用できるかについては、まだ明らかではない。

 ゴムタイヤトラムについても、まだ明確ではないが、ゴムタイヤトラムの車両がもしバスと同じ思想の下に設計されているとすると、鉄輪式のLRVに比べて短い可能性もある。だが、現状ではそのあたりは明確でない。

 

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【5】長期的な維持

(5-1) 輸入に頼らざるを得ない部品が多い

 IMTSは国産技術であるが、それ以外のゴムタイヤトラムを採用した場合、基本的にはシステムをそのまま輸入することになる。もちろん、走行路面などについては既存の土木工事により整備可能であるが、レールを使用する場合は特殊な断面のものを使用しなければならないので、輸入が基本となるものと思われる。車両についても、走行装置はもとより、細かな各種パーツに至るまですべて輸入品となり、交通システムの維持は輸入部品のパーツの供給に依存することになると思われる。かつて、当時としては斬新なモノレールシステムを導入した地域がいくつかあったが、地域の事情とともに開発メーカーのフォローが乏しかったために、長期的な営業が困難であった例もいくつか存在している。ゴムタイヤトラムも独自規格の交通システムという点では、かつての種々の形式のあったモノレールと様相が似ており、パーツの供給や後継車両の開発が途絶えた段階で、その方式の交通システム自体が寿命となる可能性がある。
※写真はTVRとトランスロールのレールだが、TVR用は角張った断面を持ち、トランスロール用は五角形のような断面を持つ。いずれも国内の鉄道用のレールとは断面形状が異なる。

 いっぽう、鉄車輪式の場合、基本的には軌間と電源電圧が同じであれば走行可能であり、代替がききやすい。車両についても国産品を採用することもできるので、その維持管理は輸入品よりは容易と思われる。1社が供給できなくなったとしても、満たすべき規格・基準が少ないので、技術的な維持管理の面では、交通システムの長期維持がしやすい。

 

(5-2) 長期耐久性の問題

 ゴムタイヤトラムの車両の耐久性については、未知の部分が多い。IMTSやCIVISについては、基本がバスであるので車両の耐久性についてもバスに準ずるものと思われる。TVRについては、連接式のトロリーバスにステアリング機構を追加したような車両構造であり、基本的にはバスと同様の耐久性と想像されるが、営業運転開始から数年程度であるので、まだ、耐久性に対する定評は無い。ただ、電車に比べるとステアリング機構などの可動部分が多く、故障に対しては不利と思われる。トランスロールについては、ハンドルはないが、やはり基本構造はバスに似ている。営業実績がないので、耐久性については全くもって未知数である。
※写真はTVRのステアリング機構と車軸・・・電車の台車というよりは、自動車部品に近い

 もし、バス程度だと10年程度しか使用できない可能性があるが、電車のような使用を想定して設計されていれば30年以上使用できる可能性もある。しかし、実績もなければ、耐久性の目安についても公表されておらず、ゴムタイヤトラム導入のリスクは大きいと考えられる。

 

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【6】経済性

(6-1) 長期運用の実績ない

 ゴムタイヤトラムは導入コストが安いことを売り物としている。その最大の特徴は、案内用の軌条が1本しかなく、通常の鉄輪方式に比べて簡易である上、車両が比較的軽量であるので、インフラ部分が建設しやすいことにある。しかしながら、初期導入コストは確かに安い可能性が大だが、その後の長期的な維持管理が安いかどうかについては、実績がない。

 例えば、ゴムタイヤトラムを特徴づけているゴムタイヤであるが、走行すれば摩耗する。ところが、このタイヤは自家用車のタイヤなどに比べて大型で特殊であるが、汎用品でない物品は価格が高目になりがちである。国内産でまかなえない場合は、開発国のタイヤを輸入することになると考えられる。国内でもゴムタイヤ式地下鉄などが存在しているが、消耗品の費用は維持管理の課題となっているようである。

 次に、タイヤの走行路面にも課題が存在する可能性がある。既存のバスにも存在する課題であるが、大型車両が多数走行する道路面を安価なアスファルト舗装とすると、ふく進などにより路面が波打ちやすい。そこで、バス専用レーンやバスの加減速を行うバス停付近などでは、耐久性の高いコンクリート舗装とすることがしばしば行われている。コンクリート舗装はアスファルトに比べて比較的高価な舗装である。さて、ゴムタイヤトラムの走行路は、軌条で正確に案内されているため特定部分が確実にタイヤで確実に踏まれることとなる。このため、アスファルト舗装では頻繁に保守をしなければならない可能性がある。おそらく、当初からコンクリート舗装を行うことになるのではないかと考えられる。
※写真はナンシーのTVRの走行路面だが、タイヤに踏まれる部分のアスファルトが痛んでいる

 それから、コンクリート舗装をする場合でも、ゴムタイヤトラムの乗り心地確保や一部システムにおける脱線防止の観点からは、タイヤに踏まれる部分の左右の高さの高さの管理をする必要が生じる可能性がある。軌条による案内でない場合は、路面保守のたびに磁気マーカーなどの埋め込む必要もあろう。これらに対する長期的なコストについては、明らかでないのが実情である。

 

(6-2) 1社の独占となりコスト高の要因

 基本的には、ゴムタイヤトラムは、特定の会社の特定の製品である。したがって、特に案内軌条を敷設しなければならないような方式の場合、そのシステムを長期的に維持するには、特定の会社と長期的に関係を維持する必要が生じてくる。つまり、1社の長期独占を意味する。車両の保守からシステムの維持管理、システムの拡張等々、すべての面にわたって特定企業の独占となるため、コスト削減のインセンティブがはたらきにくい。バスや電車などの公共交通機関に関連する資材・物品は、現状でも生産メーカーが少ないために高コストの傾向があるが、ゴムタイヤトラムはそれ自体が特定企業の製品であるため、さらに高コストとなる可能性がある。初期導入コストが安いからといって、長期的なコストが安いかどうかは精査が必要である。

 

(6-3) 発展の余地は開発会社次第

 ゴムタイヤトラムは特定企業の特定の製品であるので、将来的な発展についても、ゴムタイヤトラムの開発会社次第である。例えば、路線網を既存の鉄道や軌道に接続したいと考えても、交通システム自体が異なれば発展の余地はない。何らかのグレードアップが必要な場合でも、ゴムタイヤトラムの開発会社が製品開発をしなければ進歩しにくい。それどころか、ゴムタイヤトラムの開発会社がそのシステムの事業から撤退してしまえば、長期的な維持自体できなくなってしまう可能性もある。車両だけ別社のものを導入しようにも、汎用品は存在せず、かといって、特殊なシステムには通常、知的所有権が多く絡んでいるので、安易な模倣もできない。

本稿で触れているゴムタイヤトラム開発会社の中には、撤退する会社が出始めたようである。(2009/12追記)。

 

(6-4) 国内産業育成の観点

 ゴムタイヤトラムは、一部の方式を除き輸入品である。日本国内にはLRVの開発・製造を行っている会社も存在しており、ゴムタイヤトラムについても(ほとんどバスだが)開発・製造を行っている会社もある。交通事業という単体の経済性だけではなく、日本国内の社会全体での経済性という観点において、輸入によるシステム導入が最良かどうについては、大いに議論する必要があろう。

 

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【7】安全面

(7-1) 案内の安定性(脱線の問題)

 ゴムタイヤトラムは軌条により案内されているものの、基本はバスである。したがって、脱線したからといって即転覆大事故というわけではないので、鉄輪式に比べると案内の安定についての重要度は小さいと思われるが、各方式とも案内の安定性に関する課題は存在するものと考察される。

 まず、TVRであるが、両フランジの小型の車輪で1本のレールにより案内される方式である。したがって、レールとフランジの間の摩擦力によって車輪の方向を曲げることになる。ここで注意しなければならないのは、通常の鉄道車両の車輪はフランジとレールとの間の摩擦力によって曲がっているわけではないという点である。鉄道車両の車輪は円錐面の一部となっており、レール外側の方が車輪の半径が小さい。曲線では左右のレールの間隔が少し広げられており、これにより、曲線外側となる車輪は車輪の半径が大きくなり、曲線内側となる車輪は車輪の半径が小さくなる。半径が異なれば、同じ回転数なら走行距離が異なり、スムーズに曲線を通過できる。最新式のLRVではさらに左右の車輪が独立懸架となっているので、より曲線を曲がりやすい。TVRではレールとフランジの間の摩擦力によって車輪の方向を曲げることになるが、レールとフランジの間の摩擦力が大きいと、フランジがレールの上に載っかりやすくなる(乗り上がり脱線)と思われる。

 次に、トランスロールであるが、レールを挟み込むように車輪が配置されているので、構造上はTVRよりも脱線しにくいものと思われる。(が、そうでも無さそうな模様[2006/10追記]、クレルモンフェラン、パドバ、天津、いずれの都市でもトランスロールの脱線事故発生。原因は不明だが、構造から考えて、軌道に異物が挟まっていたか、あるいは、縦勾配の変化点で案内輪が脱線しやすい設計であったか、あたりではなかろうか。)

 IMTSとCIVISについては、磁気マーカやラインにより案内されるが、どの程度の案内の信頼性があるのかについては、不明である。

 

(7-2) 轍の問題

 写真に示したように、ゴムタイヤトラムは特定の道路面を確実にタイヤで踏むことになるので、轍掘れが生じやすい。専用の軌道とする場合は、多少掘れても他の交通機関に影響を及ぼすわけではないが、降雨時や降雪時には轍に水や氷がたまりやすくなり、制動不良の原因となる可能性があり、安全上の対策が必要と思われる。

 

(7-3) 軌道の溝が広くてはまりやすい

 CIVISやIMTSは、物理的なレールがあるわけではないが、TVRやトランスロールは物理的なレールにより案内される。レール部分については、写真に示したような構造であるが、TVRについてはレール周辺の溝は小さいものの、トランスロールについては溝が非常に広い。緩やかなV字型の溝であり、足がここにはまって抜けなくなるというような事態は無いものの、歩行者がレールにつま先を引っかけて転倒する事態は十分に考えられる。したがって、特にトランスロールについては、トランジットモールにおける歩行者の安全をどう確保するのかが課題となるものと考えられる。

 

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【8】おわりに

 以上のように、BRT(ゴムタイヤトラム)は、導入費用が安いことや急勾配対応、急曲線対応などで注目され始めているが、通常の鉄車輪を持つLRTとは異なる特徴もあり、導入の際には十分に検討の上、地域の実情に応じてシステムを選択する必要があるものと考えられる。単に初期導入コストだけを選定理由にすることは適切ではない。

 

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