北陸新幹線の建設費が2倍!? -新聞記事の精度- (その1)

…という話題が,マスコミを賑わしている.
ここぞとばかりに「米原ルート」などという話がぶり返しているが,さて…

建設費が2倍になると「費用対効果」が半分になり,そもそも北陸新幹線の「敦賀-大阪間」については,費用対効果(B/C)がほぼ1ギリギリだったので,マスコミが「ほら,ソラ見たことか」とここぞとばかりに叩いているわけだ.

ところが,新幹線建設のB/C計算にはいくつかクセがある.クセ「ツヨツヨ」である.

まず,B/Cを計算する際の社会的割引率という年間換算レートみたいな%数値がある.一応,授業や教科書では,「世の中,経済成長とかするので1年後の1万円は今年の1万円と価値が違うだろ? その変化率を社会的割引率といって例えば10%なら,来年の1万1千円と今年の1万円は同じ価値ということだ」みたいな説明をする.

この割引率という数値は現ナマの現金で持っているよりも公共投資をしたほうが社会的に有利だという指標の計算に使う率なので,経済成長率とか,公定歩合とか,そういう値を設定するというのがセオリーである.事実,諸外国での計算上の社会的割引率はそうなっている.

ところがニッポン.なぜか,長年「4%」のままである.経済成長が「目標2%」で実際にはマイナス成長している国が,である.公定歩合(現在は基準割引率および基準貸付利率)は,0.1%とか0.3%とかいう水準である.

オカシクねぇ?

じゃぁ,ザックリ,割引率4%で建設費2.1兆円,工期10年,プロジェクトライフ40年,B/C=1.1 (B/C計算の詳細の現物書類を見ていないので,概ねこのあたりという想定の数値) のプロジェクトの建設費と割引率をいじってみよう.

社会的割引率 名目建設費 C (現在換算) B (現在換算) B/C 備考
4% 2.1兆円 1.77兆円 1.95兆円 1.1 現行
4% 3.9兆円 3.29兆円 1.95兆円 0.59 建設費だけ上昇
2% 3.9兆円 3.57兆円 3.21兆円 0.90 政府の成長目標
1% 3.9兆円 3.73兆円 4.21兆円 1.13 目標と実績の間
0.3% 3.9兆円 3.85兆円 5.14兆円 1.33 実績ベース

ということで,社会的割引率の「%」をいじるといくらでも数値が変化するのが「B/C」である.ことことを理解せずに記事書くのはやめたほうがいいだろう.(現行の4%がいかにプロジェクトの効果を小さく見せるための数値かということにも注目)

なお,引用した新聞記事には国交省が社会的割引率の設定を見直して再計算するという方針について,”形の上で” 的な反応をしているが,そもそもの割引率設定がおかしいというのが正しい見方である.また,「金利の条件を…」という記述も正確ではない.政府は市中銀行から借金をするわけではないので,社会的割引率は借金の利率そのものではない.

騒げばいい,というものではない.