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リニア新幹線整備の理由(東京-名古屋編)

ネタ提供したことのある話題なので,すでに本などで読んだことがある人も多いお話し.ただし,彼の本の記述よりはちょっと詳しい.
すでに整備計画が策定されたリニア新幹線であるが,その意義について法律に従って再検証してみよう.まずは,間もなく工事が開始されるであろう名古屋から東側区間である.
新幹線整備に必要な考慮事項は以下の三点であったが,1番目と3番目をまとめると経済合理性とも言えるので,結局主要な論拠は,1)経済合理性がある,2)国土整備の方向性と合致している,の2つになる.名古屋から東側区間については1)は株式会社がすることなのでともかく,2)はそれなりに理由がつく.

  1. 輸送需要の動向
  2. 国土開発の重点的な方向
  3. 効果的な整備を図るため必要な事項

1962年に始まった一連の全総計画は,1987年の四全総まで形を変えながら「開発」を掲げ,国土の均衡ある発展を目指してきた.その後,五全総相当の21世紀の国土のグランドデザインでは「開発」の看板を下ろし,2008年には根拠法そのものを改正して法律名からも開発が消えた.震災後は,正式な国土計画ではないが具体的な国土整備の方向性として「国家のリスクマネジメント」を掲げた「…国土強靱化基本法」に基づいて各種整備が進められつつある.
こういった国土整備の方向性から考えると,内陸に幹線を整備するという方向性は一定の合理性はある.
東海道新幹線の脆弱な箇所は明確にはされていないが,数ヶ月単位では収まらない決定的な被害を受ける可能性のある区間としては浜名湖を渡る部分が考えられる.いちおう,国土交通省鉄道局は大丈夫といっているらしいが,外洋から15-20m近い津波がやってきたらどうなる? 今切れ口付近に6m程度の防潮堤があるとはいえ,無傷で安全,とは考えにくい.
そもそも,500年ほど前の明応地震(1498年)に地盤沈下して集落が海中に没しているような地区である.
さて,下の写真は昨年夏に撮った写真であるが,ちょうど干満の中間,平均的な海面の写真を撮ったようである.最近は便利なことに場所と日時を指定すれば,海面の高さの計算値を表示してくれるサイトがある.
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さらに便利なことに鉄橋には目盛りがついているので,写真から,平均海面から在来線の橋梁の下部までの距離が約3.5mだということも簡単にわかる.
加えて便利なことに,現地に行くとあちこちに地面の海抜高度が表示されており,この橋の付近の海抜高度は約4.8mだということもわかる.
もっともっと便利なことに,静岡県のサイトには内閣府が試算した満潮時に津波が襲った場合に,地面が何メートル浸水するかの計算結果も出ている.どうやらこの橋の付近は「2〜5m」の浸水予想である.
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そうすると,地盤の高さに浸水予想を加えると,満潮時に津波が来た場合にどの辺まで水面が来るのか計算できてしまう.結果は,少なく見積もって6.8m,最大9.8mになる.この数字は,平均海面からの高さであるので,写真にどの程度か描いてみると,こういう結果になった.ベースの岩盤の沈下は考慮してあるそうだが,砂地盤が液状化して長面浦や500年前の村櫛伝説のようになることは想定していない結果である.低めの計算でも橋桁すれすれくらいまでは水面が上がるようである.(安全率1,もしくは1未満ということ)
なお,津波のことに詳しい先生に「津波が来ても浜名湖のところは安全だと国交省が言ってるんですけど…」と振ってみたら「安全なわけないでしょ」と笑われてしまいましたとさ.(続けて,この手の予測計算法の概略と精度の限界についても解説していただきました.さらに浜名湖よりももっと衝撃的な話についてもお伺いしたが,刺激が強いのでさすがに書けない…)
追記:津波の押し波,引き波の際,こういった水路はかなりの激流になるそうで,河床や橋脚の足下が洗掘されるそうです.ここ,細砂地盤で,新居町付近は建設時に軟弱地盤地帯としてリストアップされてましたよね.静岡県下の新幹線富士川橋梁で,1982年の水害時に河床が7m,橋脚の足下が4m近く,合計10m以上洗掘されたこともありますよね(ただし震度ゼロ).
もし,この区間が500年前の集落水没時のように地面そのものが海中に没し,橋も使えなくなって,浜名湖ではなくて「浜名湾」になってしまったら,東海道新幹線の復旧には湾を迂回するような新線工事が必要になる可能性があり,昭和の東京オリンピック前の突貫工事のように急いでも数年は不通になる.
(まぁ,浜名湖は浅いので,「浜名湾」も浅いと思う.東海道新幹線のルート選定時には現在線の1kmほど北方の浜名湖の湖面上を橋で通す計画も検討された経緯もあるくらいなので,大きく迂回しなくても橋を作り直せばOKという話もある.とはいえ,数ヶ月で開通というのはやはり難しく,作り直すなら津波の影響を受けない足の長い橋を数年かけて,ということになるだろう.)
そういう点では,内陸を通るリニアには一定の合理性はあると思う.少々の被災なら,数ヶ月我慢すればいいだけなので,新線の必要は薄く,北陸新幹線を大阪まで開通させておけば十分であるから,わざわざ新線を整備する合理性が崩れかねない.
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聞くところによると,静岡県下では海岸部から内陸に人が移住しはじめているらしく,海岸部の人口が減少しはじめているらしい.

東北に行ってみた(南三陸町編)

南三陸町の様子.
写真は気仙沼線陸前戸倉駅があった箇所であるが,路盤も駅施設も破壊され,そこが駅であるといわれなければわからない状態になっていた.
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当面の路線復旧は難しいようで,赤いバスが「BRT」と称して運行されている.
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北隣の志津川駅は南三陸町の中心街にあった駅であるが,周辺の市街地もろとも破壊されている.
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下の1枚目は志津川駅ホームからの市街地の様子.ほとんど何も残っていない.2枚目は同じくホームから見た南三陸町の防災対策庁舎.
IMG_5012IMG_5004(2012年12月現在)

東北に行ってみた(女川編)

石巻から北東方向に進むと,女川がある.原子力発電所がある地区だが,こちらは安全に停止している模様.

IMG_4478石巻から女川に向かう途中のJR石巻線が復旧工事中であった.写真は浦宿駅付近.復旧工事と言っても,路盤はともかく軌道部分についてはほとんど新設工事である.



IMG_4487女川に入る前,半島の付け根の谷を通る部分では,まだ海は見えないのに沿道の集落が破壊されて空き地になってしまっている.海まで約1km.


IMG_4514女川湾に面する山の中腹にある病院からみた湾岸の市街地の様子.中央に見えているのは鉄筋コンクリート造りの建物で,そのまま横転している.緑色に見えているのは,3-4階建ての建物の屋上の床である.


 
IMG_4621女川漁港から見た病院.山の中腹にあるにもかかわらず,この病院の1階部分までが津波で水没し,水に浮いたベッドを医師らが泳いで引っぱってつなぎ止めたらしい.想像を絶する波高である.

(2012年12月現在)

浜名湖を渡る鉄道(今切れ口編)

新幹線や在来線,国道1号は,静岡県下の浜名湖付近で橋を渡っている.多くの人は川を渡っていると思っているが,この部分は川ではなくて,浜名湖の一部である.下の写真は新幹線が浜名湖にかけられた橋を通過しているところであるが,このサイトのバナーの元写真でもある.
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新幹線が渡っている箇所の北側は「浜名湖」.では南側は?こっちも下の写真のように別の湖に見えるが,浜名湖の一部である.つまり列車は浜名湖の上を鉄橋で渡っているということである.橋の途中の陸地は埋め立て地である.
下の写真の赤い鳥居は観光用.ずっと奥には浜名バイパスの大きな橋が見えている.この南側の湖であるが,かつては陸地であり,今から約500年前の大地震(明応地震[1498年])で沈下してできた場所のようである.
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上の写真左側から浜名大橋付近まで行ってみる.海岸が近づくと,まだ海が見えないにもかかわらず,防潮堤があらわれる.高潮対策であろう.陸地の海抜は4メートルほど.防潮堤は1.5メートルほどなので,せいぜい6メートル程度の波高を想定した設備のようである.
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そして,浜名大橋.橋の下は川ではなくて,太平洋と浜名湖をつなぐ水路である.干満にあわせて潮が激しく出入りする.
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今度はぐるっとまわって,浜名大橋の西側に来てみる.
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こちらにも防潮堤があり,その高さは…
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やはり6メートル程度の波高を想定している.下の写真は先ほどの「水路」の反対側からの写真である.太平洋と浜名湖を隔てていた陸地が地盤沈下や津波などで水没して繋がったことから,「今切れ口」というらしい.今まさに切れてつながった入口,という意味か.
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橋の下はこんな感じなので,このバイパス道路が防潮堤として機能する…ということはあまり期待しない方が良さそうである.
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今切れ口付近から,新幹線などが浜名湖を渡っている箇所を見ると,こんな感じ.特に遮るものは何も無い.外洋から大きな津波が来ると…
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(2013年8月現在)

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-施設老朽化&まとめ編)

  • リニア新幹線整備に関する昔の主張の最後は,「東海道新幹線の施設が老朽化しているので,新線が必要」というものである.

この点に関しては,現行計画の審議の段階でも論拠として示されている.東海道新幹線が開業して(当時)40年(そして今年は50年),施設が老朽化しているので改修が必要であり,そのためにも新線が必要というものである.
しかし,これについても改修のための資金積立の制度も創設され,現行線の改修が進められつつある.大規模な改修も東海道新幹線の運行を止めること無く進める方針が出されており,じゃぁ,どうして新線が必要なの?という素朴な疑問は解消されていない.


ということで,10年以上前には様々な必要論が展開されていたものの,実際に残った論としては以下の項目だけではなかろうかと思われる.

  1. 巨大かつ効率的な経済圏の形成
  2. 冗長性確保(南海トラフ巨大地震)

付け加えるならば,いったん引っ込めた理由ではあるものの,その後の情勢変化により復活させた方が良いもの,あるいは修正した上で主張した方が良いものとしては以下の3つ.

  1. 首都機能移転時における新首都機能のサポート
  2. 全国の皆様の移動時間短縮のためには東西大都市間の輸送能力の大幅な向上が必要
  3. 東京-大阪間に限らず,全国的鉄道ネットワーク全体の強化による都市間移動のCO2削減(モード転換の促進)

このような整備の必要論の再定義をした上で,路線整備の是非を議論した方が良かったはずだが,なんだかまるでローカル新幹線のような議論をして整備計画をつくってしまった感がある(まぁ,基本計画自体がローカル新幹線なんだけど).

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-施設老朽化&まとめ編)

  • リニア新幹線整備に関する昔の主張の最後は,「東海道新幹線の施設が老朽化しているので,新線が必要」というものである.

この点に関しては,現行計画の審議の段階でも論拠として示されている.東海道新幹線が開業して(当時)40年(そして今年は50年),施設が老朽化しているので改修が必要であり,そのためにも新線が必要というものである.
しかし,これについても改修のための資金積立の制度も創設され,現行線の改修が進められつつある.大規模な改修も東海道新幹線の運行を止めること無く進める方針が出されており,じゃぁ,どうして新線が必要なの?という素朴な疑問は解消されていない.


ということで,10年以上前には様々な必要論が展開されていたものの,実際に残った論としては以下の項目だけではなかろうかと思われる.

  1. 巨大かつ効率的な経済圏の形成
  2. 冗長性確保(南海トラフ巨大地震)

付け加えるならば,いったん引っ込めた理由ではあるものの,その後の情勢変化により復活させた方が良いもの,あるいは修正した上で主張した方が良いものとしては以下の3つ.

  1. 首都機能移転時における新首都機能のサポート
  2. 全国の皆様の移動時間短縮のためには東西大都市間の輸送能力の大幅な向上が必要
  3. 東京-大阪間に限らず,全国的鉄道ネットワーク全体の強化による都市間移動のCO2削減(モード転換の促進)

このような整備の必要論の再定義をした上で,路線整備の是非を議論した方が良かったはずだが,なんだかまるでローカル新幹線のような議論をして整備計画をつくってしまった感がある(まぁ,基本計画自体がローカル新幹線なんだけど).

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-南海トラフ編)

  • リニア新幹線の昔の必要論の4つ目は,「南海トラフの大地震-東海地震-により東海道新幹線が途絶するので,バイパス路線が必要」というものであった.

これには一定の説得力があり,整備計画審議の段階でも論拠として示されているが,やはりいくつかの指摘ポイントが存在する.

  1. 大地震で新幹線が途絶したケースは山陽新幹線,上越新幹線,東北新幹線でそれぞれ各1回ずつあったが,いずれも3ヶ月以内で復旧している.もしもこの程度であるのならば,わざわざ新線建設をするほどでもない
  2. 数ヶ月程度であるのなら,やや所要時間はかかるが北陸新幹線を全通させておけば,少々我慢している間に復旧できるレベルなのかもしれない
  3. 名古屋以西は南海トラフ地震が発生しても,壊滅的被害になることは無さそうなので,例え北陸新幹線が一部区間を共通使用して重複していても,東西間交通は確保できる
  4. そもそも,名古屋駅(および近傍区間)は大丈夫か?
  5. 名古屋から西側区間の整備論拠も”南海トラフ大地震”なの?

リニア新幹線については無いよりはあった方が冗長性確保の観点から望ましいが,単に一時的な輸送確保なら別策で十分,ということである.それとも,やはり壊滅的な途絶が発生するのか?

リニア新幹線の開業日(オリンピック編)

リニア新幹線の目下の開業目標は2027年であるが,東海道新幹線が1959年着工で1964年開通,開通直後に東京オリンピックということを考えると,2020年の「平成の東京オリンピック」に間に合いそうな感じがしないでも無いが,そういう話にはなっていない.
そもそもリニア新幹線が2027年開業というのは,JRが東海道新幹線を国から買い取った額が概ね5兆円で,その長期ローンが2016-17年頃に終わるので,その気になれば再び5兆円の負債が出来ないわけでは無い.そうすると,2017年頃から本格的な工事をすれば,工期10年ほどでリニアが完成し,2027年頃開業…という話はずいぶん前にも書いた .国が金を出さないので,5兆円で出来る分というと名古屋まで,ということである.
基本的には資金計画の問題なので,じゃぁオリンピックがあるから資金を調達すれば2020年までにリニアが名古屋まででも完成するかというと,あちこち情報収集した結果,そう簡単では無いようだ.
東海道新幹線の場合,オリンピックに間に合わせるために突貫工事をするとともに,ルートの変更までしている.東海道新幹線は名古屋駅を出ると,乗客は西に向かっていると思っているが,新大阪行きの電車は実は北に進路を変え,鈴鹿山系を北に迂回して,米原経由,琵琶湖東岸に沿って京都に至っている.元々は名古屋を出るとそのまままっすぐ西進し,鈴鹿山系をトンネルで抜けて京都に至るルートが考えられており,地質調査も行われていたようである(ん? どこかで見たような経路だな).
当時は長いトンネルを短期で掘る技術が無く,オリンピックに間に合わせるためにはなるべく平地で建設するしかなかったようで,結果として今のようなルートになったようだ.大野伴睦氏が曲げたと言われているが,少なくとも公式にはこういう経緯のようである.この辺の話は,東海道新幹線の工事誌に公式に書かれている.
さて,リニア新幹線は長野県下を通過する部分で,諏訪方面を通るか,山岳を長大トンネルで抜けるか検討された結果,路線延長がなるべく短くなる長大トンネルが選択された.東海道新幹線では回避された「長大トンネル」が建設される方針になったわけであるが,ここがリニアの工期のネックになりそうである.
長大山岳トンネルといえば,スイスのLötschberg Base Tunnelは,延長34.6km,着工は1994年で共用開始は2007年,ということで工期13年.なんだか,リニアの工期と符合するといえば符合する.でも延長20kmのリニアのトンネルならば単純計算7〜8年の工期ということでもある.
海底トンネルでは抗口が原則2つになるので不可能なのだが,山岳トンネルでは工区の分割が可能であり,工期短縮が可能といえば可能.全長57キロあまりのゴッタルトベーストンネル(これもスイス)は,5工区に分けて,1998年に立坑掘削開始,1999年本工事開始,予定では2011年開業だが,実際にはまだ供用開始されていない感じ.
工区を分けるには,地表から地下に向けて立坑という穴を掘り,そこから左右にトンネルを掘ることで,縦坑1つあたり掘削面を2つ増やせるという仕組みだが,リニアの長大トンネルの場合,その立坑はあまりたくさん作れないということらしい.
立坑が作れない場合には,まず小断面の作業坑を先に掘削し(列車の通過する大断面のトンネルよりも作業速度が速いらしい),その作業坑を使ってはるか向こうの山の中から反対向きに掘って工期を短縮するという方法があるそうな.青函トンネルはこの方法.
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作業坑作業坑作業坑作業坑作岩岩岩岩岩
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本本本岩岩岩岩岩本本本本本岩岩岩
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そんなことはトンネル掘削の検討している方々は百も承知だと思うので,結局の所,「結果として早く出来上がる可能性もあるし,運が悪いと2027年よりも遅くなるかもしれないし,地質がよくわからない部分が多いので,掘ってみないと何とも言えない.なので,オリンピックに間に合わせる約束は出来かねる.」というあたりが真実に近そうな感じではある.