北陸新幹線「湖西ルート」は「米原ルート」の劣化版

北陸新幹線の敦賀‐小浜‐京都‐新大阪のルート整備に手こずるなら,「湖西ルート」でいいじゃないか,という声もある.(Youtubeでどっかの議員さんが説明していたかと思うが,reloadしたら行方不明になった.)

だが,残念ながら「湖西ルート」は,解決すべき課題の多い「米原ルート」の,さらにその劣化版にすぎない.

【1】フリーゲージトレインの場合

要するに新幹線の建設をやめてしまうという話である.FGT用車両のスペック的には在来線130km/h,新幹線270km/hなので,十分に見える.

乗客の利便的には現在の敦賀駅での乗換えがなくなるものの,所要時間的にはあまりメリットはない.一時,北陸新幹線の敦賀以西での導入の検討もされたが,メンテ費用&導入費用が高額なので,すぐに話は経ち消えになった.まぁ,はっきり言って新幹線ではない.

車両開発が中止になっているが,それを再開せよとの意見もある.
メンテ費用が高額になるのは,台車が重いから&複雑(たわみやすい車軸と軸受)で摩耗が大きいかららしい.資料によると,車軸を60万km事に交換することになるらしいが,国交省の基準の半分の距離で全般検査ということになる模様(メンテコスト2倍の論拠はおそらくこの点).すでにFGT用の台車は軽量化済みで,今のところ「伸びしろ」は無い模様.

FGTはスペインで実用化されているが,欧州の鉄道は貨物列車の走行を想定して軸重が22t以上(100km/h運転)で設計されており,少々重くてもOKの模様.これに対し,日本の在来線は1級線でも軸重18t(110km/h運転).日本のFGTは130km/h運転想定なので軸重12tで設計されている模様.そんで,どうやら軽量化も現状では行き詰まっている模様(できそうなら多分開発は継続させていると思う).

さらに,ただでさえ高額な新幹線車両なのに,FGT車両はその倍の価格の模様.

ということで,コストばかりかかる割にはほとんど便利にならない案の模様.

【2】ミニ新幹線の場合

湖西線は立派な高架橋なので,これを改軌すればいいではないかという話もある.残念ながら湖西線は在来線なので,建築限界も在来線サイズであり,フル規格の車両を走行させるのは困難だ.新幹線の線路中心間隔4.3m,車両の幅3.4mなので,すれ違い時の車体側面間隔は0.9m.対して在来線の複線間隔は3.8m(車両の幅3.0m)なので,そのまま標準軌化すると側面の間隔は0.4m.アブねぇ.おそらく曲線部では車体同士がぶつかる.

ということで,車体が在来線サイズのミニ新幹線を導入ということになると思う.在来線を改軌して走行させればOK.めでたしめでたし…とはならない.

まず,湖西線(および北陸線の一部)は特急専用線ではないので,貨物列車や普通列車どうする? 架線電圧も違うが,まぁ,これは何とかなるとして,貨物列車は米原経由にするとしても,普通列車は残さざるを得ない.普通列車用の車両にも標準軌の台車を履かせる?

それから,山科駅から西側どうする?

複々線のうち2線を改軌すると,現在複々線で捌いている列車を全て狭軌の複線で処理することになり,線路容量が不足する…ということで採用できる案ではない.

複々線のうち特急の走る外側線2線を狭軌と標準軌の三線軌にすると,車体の中心がミニ新幹線と既存の在来線の車両でずれるので,車両の側面がホームと接触したり,橋梁の荷重設計の範囲外だったり,隣接する線路を走行する列車と接触する可能性があったり,沿線構造物と接触する可能性があったり…ということで,構造物の移設が必要になり,案外安上がりではない.

米原ルートなら米原駅で東海道新幹線に乗り換えさせるという方法も採用できるかもしれないが,在来線のJR琵琶湖線で改軌や三線軌が使えない場合のミニ北陸新幹線は,山科駅が終点&乗換えということになりかねない.超不便.敦賀で乗り換えさせるのと変わらない.

山科駅から京都駅までは何とか新線をつくって,東海道新幹線に合流させるという方法も無きにしもあらず.だが,米原ルートでも東海道新幹線への直通は課題が多く,ほとんど同じ問題を抱え込む.新大阪京都間という短区間とはいえ,東海道新幹線の線路容量を消費することには変わりがない.新幹線「雷鳥」のわずか40kmの乗入れのために「のぞみ」の運転を諦めなくてはならない.JR東海にとっては悪夢かも.リニア開業後なら線路容量空いてるはずという見解もあるとは思うが,そうでもないかもしれない.それから,今のところ誰も語っていないが,現状では山陽新幹線においてのぞみ号16両編成は少々長編成すぎて持て余し気味という話もあり,リニア開業を機に東海道山陽新幹線は12両編成化(忘れている人も多いが,35年くらい前のこだま号は12両編成だった)する可能性もあると思う.運転本数は3割増くらいになり,線路容量の余裕はなくなる.誰がJR東海を説得する?

保安装置も同じではないので,新幹線「雷鳥」用の車両には東海道山陽新幹線用のATCと東北新幹線系統用のATCの両方積む必要がある.米原駅で乗り入れる場合は,米原駅での停車中にこれらの保安装置を切り替えればよかったかもしれないが,京都駅手前の東山トンネルの中で合流させるとなると,自動切り替えが必要かも?

ということで,米原ルート以上に問題が多い.

【3】フル規格新線の場合

湖西線に沿ってフル規格の新線を建設すると,小浜を通らなくなる.一応,小浜は整備計画の経過地に指定されているので,誰が福井県を説得する?

福井県の合意を得るために,敦賀から小浜を経由して琵琶湖若狭湾快速鉄道ルート沿いに琵琶湖の西側まで達し,そこから湖西線に沿ってフル規格の新線を建設するとしよう.福井県はOKと言うかもしれないが,その先の建設費の一部は(現行ルールのままなら)滋賀県が負担する.でも滋賀県は「新幹線いらん」と言っている.米原ルートと同じ問題が発生するが,誰が説得する?

湖西線に沿ってフル規格の新線を建設すると,湖西線は並行在来線化する.(現行ルールのままなら)JRが「湖西線いらん」と言うと,滋賀県が県営鉄道として引き受ける必要が出てくる.江若鉄道の線路を引き剥がして湖西線を建設したという歴史的背景を考えると,廃線にするわけにもいかない.湖西線の並行在来線問題,誰が滋賀県を説得する?

湖西線並行ルートから京都駅を経由して新大阪まで新線を作るなら,おそらく地下線になり,北陸新幹線東西ルート案と同じ問題が発生する.ということで,これは無理.

京都駅で東海道新幹線と乗り換えさせる方法もないではないが,「北陸新幹線京都駅」を建設する必要がある.でも湖西ルートの北陸新幹線京都駅が建設できるのなら,小浜ルートの新幹線駅も建設できるよね.ということで,これも無理.

京都駅で東海道新幹線と湖西ルートとを接続して直通運転するには,東海道新幹線の京都駅の東側がヤヤコシイ.東海道新幹線建設時に用地買収で揉めた地域だ.じゃぁ,東山トンネル内で合流という話になるが,上の「ミニ」で書いた話と同じ問題が発生する.

ということで,フル規格の場合も米原ルート案と同等以上に課題山積.

…ということで,米原ルート案以上に問題が多いのが湖西ルート案ということになる.