月別アーカイブ: 2014年6月

どうしてできない新幹線(基本計画フェードアウトの件)

さて,皆さん,新幹線の「基本計画図」を最近見たことがあるでしょうか.えぇっ,ググればすぐに見つかるって?
よく見てください,それは公式資料ですか? それは最近の資料ですか? よく見るとどこかに「昭和」って書いてませんか? 国のつくる公式書類で「基本計画図」を最近見たことありますか?
新幹線の基本計画線を整備計画に格上げしなければならない話とか,そこまで行かなくても在来線の改良を新幹線の暫定整備計画の枠組みでできないか,とかの話を政府担当某局に持って行くと,てきめん機嫌が悪くなると言うことは良く聞く.
加えて,インフラ整備がらみの話で「基本計画図」を参照したくなっても,最近は公式な図をとんと見かけなくなったという話も良く聞く.
もう「基本計画」は無かったことにしたいんだろうか? それならそれで,基本計画の廃止の手続きを法律に則ってすべきなのだが,それすら気配は無い.のらりくらりと,フェードアウトして忘却の彼方に過ぎ去ることを狙っているのだろうか?

日本に本物のBRTは出来るか?(PARK&BUS乗車)

オタワはカナダの首都で,トロントやモントリオールは首都では無いので,念のため.
相変わらず古い話の蒸し返しである.下の写真は都市交通でよく話の出てくるPark&Rideの看板である.ただし,ここは車を駐車した後に乗るのはバスである.バスに乗ってら,例のTransitwayを通ってスイスイ.
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駐車場がデカい.
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ここまでするのなら,確かに「Bus Rapid Transit」だ.日本のBRTの定義って何だったっけ?

鉄道後進国ニッポン(独仏高速新線絶賛建設中)

昨年夏,ドイツ国内を半月ほど研究調査目的でぶらぶらしてきたが,相変わらず,鉄道整備の勢いは衰えず,新線建設や在来線改良(ローカル列車用と優等列車用の複々線化工事)などが見られた.
例えば,ドイツの中規模以上の都市でICEが無いのはChemnitzだけであり,他の中規模・大規模都市ではICEのサービスが完備されている.ところで,そのChemnitzに実際に行ってみると,駅のホームは大規模に改築され,構内配線も改良工事中で,ICE乗り入れが近いのではないかと思われる.
それ以外の地域でも在来線の高速化改良は随所でみられるとともに,新線工事もしばしばみられる.下の写真は,Erfurt付近の新線工事である.
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日本の高速新線網は,もう何年整備し続けてるんだったっけ?

リニア新幹線整備の理由(どうしてこうなった編)

リニア新幹線の計画過程に限らず,残念ながら,わが国の近年の新幹線計画は総じてグダグダである.
本来なら社会の状況が変わるたび,いや,法令に書いてあるとおりに国土整備の方向性などが変わるたびに計画を見直して行かなくてはいけないのだが,猪突猛進,いっぺん決めたら方向が変えられない.突っ走っているならまだしも,行き詰まっていても方向が変えられない.あらら,困った,困った.(いっぺん決めたことを再検討すると,議論噴出しそうで怖いから手を付けない,パンドラの箱だと思ってるのだろう.)
いわゆるPDCAがまわってない状態である.Plan-Do-Check-Action…全国大学の土木系教室を悩ませているあのシステムである.見事に存在しない.企業の方には,ISO9000シリーズといった方が分かりやすいか.
政府担当部署の内部的にはOKなのかもしれないが,昨今の世間的にはNGな事務システムであ

トラム変幻自在(国境を越えるトラム編)

ドイツのサールブリュッケンという都市のLRTのお話し.この都市のLRTも市内の軌道線と郊外の鉄道線が直通運転されるカールスルーエ方式が導入されているが,さらに一歩進んでいる.
中央駅から市街地を路面軌道で走り,市役所の前を超え…
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市街地を抜けると,そこから先はドイツ鉄道の線路上を走ってゆく.
DSCN4578その先はそのまま国境を越え,終点はフランスのザルグミヌ市になっている.

鉄道後進国ニッポン(ローカル電車もピッカピカ)

三セク鉄道というと,どういうイメージだろうか? こういう感じ?
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でも,これがドイツの三セク鉄道というと,こんな感じになる.
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まさしく「第三セクター舐めんなよ」である.
これは,カッセル市の近郊を走る電車で,線路はドイツ鉄道,その上を走る電車はカンタス鉄道という三セクのような会社の運営であり,車両はピカピカ.内装もピカピカ.車内では高校生がビールで酒盛りをしている(合法らしい).
資金構造が日本とは違うので,そのまま比較できないといえばそれまでだが,頭の思考回路を変換し,資金構造を変えれば,アウトバーンと自動車産業の国でもこういうことはできるのである.
鉄道後進国ニッポン,どうする?

リニア新幹線整備の理由(名古屋-大阪間:国土計画編)

リニア新幹線の東京-名古屋間については,経済効果はともかく,国土計画が40年前からずいぶん変化した現在においても,国土整備上の重要な理由が存在していることについては説明したとおりである.短期なら北陸新幹線経由で東西間を結べば数ヶ月程度なら我慢できる範囲だろう.しかし,年単位で不通の可能性があるなら,それでは具合が悪い.公式には数年単位の不通は無いことになっているが,不安な箇所が存在することは説明した通りである.
じゃぁ,名古屋-大阪間を現行計画のまま整備する理由は…?
んんんんんんんん……………………思いつかない.
確かに,中央新幹線の基本計画は奈良を経過地として指定してある.ただし,これは背景の政策が40年前の新全総であり,走行する乗り物として想定していたのは250km/h運転の団子っ鼻新幹線であった.びゅわーんびゅわーん走る,である.
残念ながら,その後の国土計画は「国土の均衡ある発展を目指した開発」の看板を下ろしてしまっている.最新の国土整備の方向性としては「国家のリスクマネジメント」であるとか「リニアを幹にして新幹線を支線に」であるとかという方針が出始めている.
そういった新しい国土整備の方向性の中で,リニア新幹線の名古屋から西はどこを走るべきか,というのは…議論されたことが…無い.「国家のリスクマネジメント」という観点だと,名古屋から西の区間についても大地震の影響を受けにくい経路を選ぶべきだという議論はあってもいいかもしれない.しかし,そうすると問題になってくるのは濃尾平野をリニア新幹線が通過することそのものだったり,果たして奈良盆地は大丈夫かとか,終点の大阪(新大阪駅?)はそもそも大丈夫かとか,そういう議論をしても良かったのだろうが,名古屋の西側については,議論はスルーで,「基本計画に書いてあるから」で終わっている.それでいいのか?
ほとんど議論に上らなかったが,首都機能の分散・移転と名古屋から西側のリニアの経路の関係はどうなんだ? これもかなり重要な議論なはずだが,基本計画に書いていることだけが理由でスルー…この国の国土計画や幹線鉄道計画は大丈夫か?
国土強靱化の基本計画が策定され,その中には計画のPDCAサイクルの実施が示されているが,日本の幹線鉄道計画はこのサイクルが欠如している.アカンやろ.
#東京オリンピックが決まるまでは,震災後と言うこともあって多少は首都機能に関する議論があった....がしかし,オリンピックが決まるとどこへやら.大災害はオリンピックがあるからといって待ってくれるわけではない.のど元過ぎるとすぐに忘れるという,日本人の悪いクセ.

日本に本物のBRTは出来るか?(オタワのバス専用道路)

ずいぶん昔に書いた話の蒸し返しで恐縮である.カナダの首都はオタワであり,トロントやモントリオールでは無いので念のため,
オタワに行くと…って,あんまり行く人はいないか…写真のような道路+駅のような施設がある.中央部の往復4車線道路はバス専用道路であり,左端に写っている2車線道路が一般道である.バス専用道路,名付けて,Transitway.
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写真の場所的には,このへん

駅部分が4車線で,駅間は2車線道路になっている.Googlemapでオタワを表示させておいて,「transitway」を検索すると最寄りの道路が示される.
ここまでするなら,確かに「Bus Rapid Transit」だ.日本の「BRT」の定義って何だったっけ???

トラム変幻自在(地下鉄直通編)

アムステルダムのLRTというか,低床でもないので,ほぼ郊外電車.床が高い以外は外観も内装もほぼLRTで,市の郊外住宅地を走り,線路も路面併用軌道ではなくて専用の軌道が準備されている.
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これが都心方向にしばらく走ると,屋根上の集電装置(パンタグラフ)をたたんでしまう.そして,地下線区間へ.
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地下はちょっと車体が小さめの地下鉄として走行し,終点へ.パンタグラフはたたんだまま.
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車体が小さいので,ホームとの隙間は,こういった風に自動で埋められる.
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電気は地下線区間では台車横のシューから取り入れられている.
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こういった形態の乗り物は日本でもあっていいのだが,残念ながら存在しない.通常の架空線から電気を取り入れたり,第三軌条から電気を取り入れたりといった両対応の電車については,「開発費用が高くついてペイしない」というのが理由で実現していない.だが,彼らはその「高い」はずの開発コストの壁をずいぶん前に越えてるんだが,このままでは日本人は劣っているということを証明してしまっていることになるんじゃないかな.

リニア新幹線大阪延伸前倒しへ…で終わりじゃないよ

こういう話がある.
<新成長戦略>リニア中央新幹線 大阪延伸前倒しを明記へ (毎日新聞) – Yahoo!ニュース.
「健全経営と安定配当が大前提」 リニア大阪前倒し開業論でJR東海社長 – MSN産経ニュース.
当初のリニア新幹線の大阪延伸計画は2045年.もちろん,大阪近辺では「もう死んどるわ」という感想を持って受け止められていたが,まずは(同時とは言っていないが)早期開業を目指す国の方針が出てきたことは喜ばしいことである.
ところで,早期開業ばかり注目を浴びているが,名古屋から西の区間については,整備計画の審議段階において大阪まで繋ぐことの重要性については確認できているが,その経路については十分な審議がされておらず,唯一の論拠が1973年に決めたから,だけである.
もちろん,国の決定は重要なのだが,何度も書くように当時の政策背景は新全総であり,昔風の言い方をするのならば新幹線のネットワークを全国に拡げる「新幹線の建主改従」であった.いっぽう,リニア新幹線は当の鉄道会社が声高らかに主張するように「バイパス」であり「改築」である.昔風に言うなら「新幹線の改主建従」である.世の中の政策も1970年代の高度成長の産めよ増やせよの時代ではなくなっており,同じ国土政策の方向性とは言い難い.
要するに,名古屋と大阪という両端はともかく,途中の通過経路はほんとにそれでいいのか,議論されていないのが問題だということである.現在の状態は言葉は悪いが名古屋以東の議論にくっついて西側の話も通ってしまった状態だといっても過言ではない.
建設前倒しの理由が「新たな成長戦略」であるならば,どういう経路が成長にとって最適であるのかは今一度考えた方がいいだろう.1970年代のように新線建設して新駅つくれば周辺に無条件で機能が張り付く時代ではなくなっている.
もし,この辺の舵取りを間違えて既存の大都市が衰退などすれば,「成長戦略」ではなくなるし,推進した関西の議員さん達は関西全体に目配せできるだけの慧眼を持っていなかったということになるし,東西間の輸送を一手に引き受けるんだと意気込んでいたはずの鉄道会社は沿線の顧客の利便を確保することが出来なかった田分け者の誹りを受けることになるし,いずれも歴史に名を刻んでしまうことだろう.(悪い意味で)