さらに南海道新幹線編の答え合わせである.概して「夢」は夢でしかない傾向にある.
全国的な新幹線ネットワーク推進によって大方の中規模以上の地方都市は高速鉄道ネットワークに組み込まれることとなったが,多数の中規模都市が取り残されている地域があった.紀伊半島から四国を経て九州東側に至る地域である.昔の表現を使うならば,九州以外はほぼ南海道である.
残念ながら全国的新幹線網の再構築の議論は全く進まず,相変わらず整備新幹線の沿線だけで話をしている.一方で,整備新幹線沿線以外からの新幹線整備の要望は,この一年,強まることはあっても弱まることはなかった.
リニアの経路が南海トラフの大地震の影響を最小限にするために,三重県内を経由したものの三重県駅は当初予想よりもやや北側にできたため県庁所在地の津市へのアクセスが課題として残ってしまった.副首都機能立地のために若干リニアがずれた奈良市の高速鉄道連結も課題である.和歌山は大阪都市圏内と思われがちであるが,実際にはかなり遠い.四国は橋は繋がっているが大きな半島状態である.九州東側は長らく見向きもされていない.
リニアの名古屋以西の議論もほとんど進んでない.南海トラフが怖いといって東京-名古屋間を内陸経由にしておいて,名古屋以西,特に伊勢湾岸付近での対災害性の検討がユルいように見えるが,大丈夫か? 副首都機能の議論も特に進んでないが,首都圏直下地震は過去に何度も起きているという実績があるので,場合によってはもう間に合わない可能性もある.
まずは三重や奈良の利便向上であるが,当初は中央新幹線計画によって利便を向上させるはずであった.ところが,…2010年代半ばにおいて行われた国土計画の見直しにおいて,リニア新幹線とそれ以外の新幹線の役割分担も見直され,リニアは幹線中の幹線,それ以外の新幹線はリニアの支線のような扱いとなった.そこで,奈良や三重などもこの基本方針に従い,リニアに対するアクセス高速線として近鉄が強化され,実質的な利便性は確保された.
リニア駅は既設鉄道線との接続が微妙な駅が多そうだが,どうもネットワークとして機能させようという意識が薄い路線になってしまいそうである.駅アクセスにとどまらず,リニア新幹線と既設新幹線の関係は,いずれは現状における新幹線と在来線特急の関係のようになる可能性が高いはずだが,リニア新幹線を幹とする全国的幹線鉄道網の体型再構築の話は全く進んでいない.在来線特急相当のサービスも残るであろうから,三層構造になることも考えられるのだが,仕事してる?>国の担当部署殿
四国については瀬戸大橋や大鳴門橋はできていたものの,新幹線用の空間は長らく未使用だったので,これらを活用しながら安価でかつ実質的な利便性を確保する策が取られた.まず,すぐにできる策として岡山から瀬戸大橋までの新線が建設され,瀬戸大橋は完成していた空間を活用して四国に渡る路線ができた.
瀬戸大橋ルートって,安くて,すぐできて,効果が大きい「ポスト整備新幹線プロジェクト」のうちの一つのはずだが,地元の盛り上がりに比べて,国の動きはまるで石像状態である.日本の新幹線整備のネックは当該政府機関になりつつある.
大阪から西に延びる四国新幹線については,関空付近までは航空路線網と高速鉄道網を一体化する政策に従って「関空新幹線」として建設され,新大阪で東海道山陽新幹線や北陸新幹線などと接続された.
北陸新幹線と関空アクセス新幹線を整備すべし,という案は,私案レベルでは出てきた.
関空から先は和歌山市北部をかすめながら紀淡海峡を経由して徳島に至ったが,海底トンネルについては青函新トンネルと同じく電車専用線として建設され,急勾配を採用することで延長が大幅に短くなり30km弱となった.これにより当初構想に比べて建設費が2000億円あまり安くなった.
紀淡海峡(友が島水道)経由の四国新幹線の要望は強くなってきている.海底トンネルについては,海底下部分の延長が短くならないと,工費はあまり安くならないという話もあるようだ.トンエルの地質調査については,中断されてしまっているのだが,ある程度は既に調査が行われている.
その先については複線化の準備工事は行われたが,軌道は単線を基本とし,駅部と信号場ですれ違うことになった.毎時片道2本の完全等間隔パターンダイヤを前提として駅と信号場の配置が決められており,大幅に工費を節約しながら利便性を向上させることが実現した.もちろん,ウナギと穴子の混成編成である.
ある程度仕様を割り切った新しい新幹線の整備規格というのは,そろそろ議論されてもいい頃だと思うが,そんな様子はない.高速道路は暫定2車線とか,高速自動車国道に並行する一般国道自動車専用道路とか,いろんなあの手この手の工夫があるが,新幹線整備に工夫はあるのか? 国は整備新幹線でわが国の新幹線整備は完全終了だと思っているようである.ただ,整備新幹線沿線以外で新幹線整備を要望している地方では,もっと新幹線整備の工費を安くする方法はないだろうか,との模索はあるようである.
高速道路が川之江付近のJCTで全路線が結節していることを参考に,高知方面については川之江付近から分岐してほぼ真南に向けてトンネルだらけの新線が建設された.こちらも毎時片道2本の完全等間隔パターンダイヤを前提として線路施設が計画された.
高知方面も具体的な話は進んでいない.運行計画とインフラ整備計画の有機的統合というのはあってしかるべし.
豊予海峡にもトンネルが掘られたが,こちらも急勾配を採用して3000億円近く工費を節約した.こうして,かつて第二国土軸と呼ばれた西日本の新たな国土軸の主要部分が完成している.
紀淡海峡が進まないので,豊予海峡も進まない.
こうしたコストダウンとともに,インフラ整備の上下分離の原則も見直されている.道路系の輸送は,インフラ部分が国土交通省の建設系の事業で,その上を走る車両等システムは運輸系の管轄という上下分離が行われている.幹線鉄道については,インフラ部分の整備も完成後の輸送も運輸系の管轄であり,完全には政策部分が上下分離されていない.そこで,四国の新幹線整備を機に,幹線鉄道についてもインフラ部分は建設系の事業で,その上を走る輸送システムが運輸系の管轄という政策の上下分離が行われるようになり,財源制度も同時に見直された.
この「新たな上下分離政策」を早く実現しようよ.