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リニア全線同時開業「難しい」の?

リニア新幹線の大阪までの全線開業に関し,以前JRは有利子負債はこれ以上抱え込むことが出来ないと表明していたが,与党が「じゃぁ,無利子で貸すよ」という案を出したら,今度は(実は社長がこの間に交代しているが)「環境への影響調査や工事に時間がかかるため、同時は難しい(副社長)」とか「5兆円を超える債務は持たないのが基本方針」とか表明するようになった.
まぁ,まさかそんな案出てくるまいと思ってたんだろうと思うが,環境影響評価については現時点では手間取っているようだが,間もなく名古屋-品川間が着工できれば「経験値」を手に入れた調査部隊の手が空くので,ノウハウを蓄積した組織が今度は距離が2/3程の区間を対象に仕事することになる.名古屋までは4年かかったかもしれないが,さほどかからないよね(ルートで揉めなければ).標高2000㍍級の山に長大トンネル掘るようなこともないので,工期もやっぱり,そんなにかからないよね.鈴鹿山系は既にトンネルがいっぱい掘られているので,「未知の地質」というわけでもないし,捨ててなければどこかの倉庫に東海道新幹線のルート検討時に調査した鈴鹿山系の地質図もあるかもしれないし,そんなにかからないよね.

「5兆円を超える債務は持たないのが基本方針」についても,バランスシートに入らない方法もありますので,ご検討を.(というか,与党はまだその案に気付いてないよね.)

それから,利子補給があればバランスシートに債務が入っていても10年程度の前倒し開業は不可能ではないですよね.(本当に早期開業させる意思があるのなら)

#その後,開業前倒しが政府の方針になりかけたり,外れたり,また元に戻ったり,等々,迷走中.

鉄道後進国ニッポン(独仏高速新線絶賛建設中)

昨年夏,ドイツ国内を半月ほど研究調査目的でぶらぶらしてきたが,相変わらず,鉄道整備の勢いは衰えず,新線建設や在来線改良(ローカル列車用と優等列車用の複々線化工事)などが見られた.
例えば,ドイツの中規模以上の都市でICEが無いのはChemnitzだけであり,他の中規模・大規模都市ではICEのサービスが完備されている.ところで,そのChemnitzに実際に行ってみると,駅のホームは大規模に改築され,構内配線も改良工事中で,ICE乗り入れが近いのではないかと思われる.
それ以外の地域でも在来線の高速化改良は随所でみられるとともに,新線工事もしばしばみられる.下の写真は,Erfurt付近の新線工事である.
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日本の高速新線網は,もう何年整備し続けてるんだったっけ?

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(ゆっくりしろ編)

気になる反対論には,こういう意見もある.論点部分としては,こうである.

  •  しかし、環境評価書を提出したとはいえ、未解決の課題や不安は数多く残っている。このまま突き進んでよいのかと、思わずにはいられない。

ふむふむ,それで…?

  •  例えば、工事によって大量に発生する残土への懸念がある。東京−名古屋区間は南アルプスを貫通し、9割近くが地下かトンネルを通る。「土」より「岩」に近いものも含む残土が約5680万立方メートル(東京ドーム46杯分)発生すると言われる。

記事には具体的な部分としてこれしか書かれていないので,これが最重要項目だろうか?

  •  ところがその置き場や処分法はほとんど決まっていない。…(中略)…具体的なあてが示されているわけではない。

新聞社が懸念を示さなくても,工事実施計画の認可が待っているので,残土の処理が決まってないと許可が下りないでしょうねぇ.残土処理がいい加減で,大目玉食らった鉄道会社も過去にはありますので.…それで…?

  •  残土は、土砂崩れを起こす危険があるほか、運搬の過程で周囲の動植物や景観に影響を与える恐れもある。本来なら、残土の処理計画を明確にし、それが環境上、問題のないことを具体的に確認したうえで評価書をまとめるべきだが、そうした作業は工事の認可後となる見通しだ。

…? 誰の見通し? 新聞社の見通し? そういう予定が公表されたの? そこ大事なんだけど.そこ明らかじゃないと,結論部分が導けないんだけど.肝心な部分ぼかさないでね.新聞社の憶測? 誰の見通し?

  •  一度、走り出せば…(略)…である。「着工ありき」ではなく、環境、安全、経済合理性など、幅広く、長期的な観点から、精査を尽くすべきだ。認可決定前に、国会で徹底審議を行ってもらいたい。

環境と,安全と,経済合理性は,名古屋から東部分については整備計画に関する答申を出す段階で審議されてますが…??? 新聞社がよくわからないから,もういっぺん国会でやって欲しいという話かな? 公表資料読めば書いてあるけど.名古屋から東部分は.(名古屋から西部分は,かなり曖昧,というか議論はほとんどされていない)
以下,米国への売り込みの話が続くが,話が発散するので略.

  •  一方、自民党内では関西選出の議員らが、45年に予定されている大阪までの延伸を、国の資金を使って前倒しするよう政府に求めた。JR東海が総工費9兆円を見込む国家的巨大事業だ。長期の視点に立って、冷静に再点検しても時間の無駄にはならないはずだ。

長期の視点に立つと,大阪延伸が20年弱遅れることが看過できないから,急いでいるわけだが.急いでいる理由知らないのかな,この新聞社は.名古屋-東京間もゆっくりできない理由があるんだが.こっちも急いでいる理由知らないのかな,この新聞社は.

東北に行ってみた(BRT編)

既にご存じの方も多いが,気仙沼線では被害が大きく,復旧の見込みが立たないことから,使用できる路盤を道路転用し,バス専用道化して「BRT」として運行されている.
拠点の停留所は「駅」として整備されており,それ以外についても屋根付きの停留所になるなど,バス路線の設備としては比較的行き届いているようだ.
下の写真は志津川.元の駅ではなく仮設商店街併設になっている.
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こちらは歌津駅と一般道からバス専用道への出入り口.
[map] 歌津駅 [/map]

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元々の歌津駅はこのような状態である.
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いくつかのトンネルを抜けた後の専用区間北端.
[map lat=”38.736199″ lng=”141.530651″ zoom=”15″] [/map]
 
 
 
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ここから先は橋梁等破壊されている.
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IMG_5143(2012年12月現在)

東北に行ってみた(亘理→相馬編)

常磐線で行けるのは南側は広野までなので,いったんいわきまで戻り,磐越東線,新幹線を乗り継いで仙台へ.今度は北側からいけるところまで行ってみる.
まずは,仙台→亘理.本数は少ないながら特に問題なく到着.直接電車だけで行けるのはここまでで,ここからはいろいろ乗り継がなければならない.
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次は,亘理→相馬.この区間は不通区間なので,バス代行になっている.切符は仙台→原ノ町のものを持っているので,そのまま通しの切符を見せるだけで乗車.乗り継ぐ客は少なく,地元の人の多くはこの駅から先は自家用車で送迎というのが主流のようである.
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この区間が不通になっているのは,常磐線の線路が津波で破壊され,流されてしまったからであり,復旧にあたっては線路の位置そのものを内陸側に移設させることになっているようだ.下の写真は代行バスの坂元駅だが,「駅前」の空き地は新駅予定地のようだ.
元の駅位置はここ.

新駅はこの辺.

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新地駅の代行バス停駅の海側は,急に市街地が途切れて荒れ地が広がる.元の駅とともに市街地も消滅してしまったのだろうか.
[map lat=”37.881469″ lng=”140.924288″ zoom=”16″] [/map]
 
 
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相馬駅着.自家用車に比べてかなり時間がかかり,亘理駅まで送迎が多いのはそういうことのようである.
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相馬→原ノ町は電車が運行中.線路の右側は原ノ町方面.左側の錆びているのは不通区間.2両編成が行ったり来たり.
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(2013年11月現在)

東北に行ってみた(南三陸町編)

南三陸町の様子.
写真は気仙沼線陸前戸倉駅があった箇所であるが,路盤も駅施設も破壊され,そこが駅であるといわれなければわからない状態になっていた.
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当面の路線復旧は難しいようで,赤いバスが「BRT」と称して運行されている.
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北隣の志津川駅は南三陸町の中心街にあった駅であるが,周辺の市街地もろとも破壊されている.
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下の1枚目は志津川駅ホームからの市街地の様子.ほとんど何も残っていない.2枚目は同じくホームから見た南三陸町の防災対策庁舎.
IMG_5012IMG_5004(2012年12月現在)

鉄道後進国ニッポン(ただいま遅延拡大中)

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去年の夏あたりに京大の藤井先生にメールで送った件で,SNSに書き込んでたみたいなので,すでに知っている人もいるかもしれない話.
毎度欧州に来るたびに思うが,高速鉄道の工事を見る機会が多い.明確な高速新線工事でなくても,在来線改良で200キロ運転対応工事なんてのもざらにあって,そういうところではローカル列車と特急列車の運転を分けるように,複々線化工事をしている.
改良工事であって,新線工事ではないので,当然,日本では気づいている人はほとんど居ない.けれども,欧州に来る度にだんだん所要時間が短くなってきているのは実感できる.空港から直接高速鉄道乗り,空港に直接高速鉄道で乗り付ける,なんてのも当たり前.
ローカル急行列車でも160キロ運転は当たり前,ぼろい客車列車でも200キロは出す.200キロ超運転の通勤電車まである.
ホテルでテレビつけてみると,中国から西ヨーロッパまでの貨物鉄道のお話しの番組が流れているし,ロシアの高速鉄道の話も流れている.
残念ながら,日本の鉄道行政は完全に遅れている.日本が鉄道先進国だというのは過去の話になった.ただいま,遅延拡大中.

リニア新幹線の開業日(オリンピック編)

リニア新幹線の目下の開業目標は2027年であるが,東海道新幹線が1959年着工で1964年開通,開通直後に東京オリンピックということを考えると,2020年の「平成の東京オリンピック」に間に合いそうな感じがしないでも無いが,そういう話にはなっていない.
そもそもリニア新幹線が2027年開業というのは,JRが東海道新幹線を国から買い取った額が概ね5兆円で,その長期ローンが2016-17年頃に終わるので,その気になれば再び5兆円の負債が出来ないわけでは無い.そうすると,2017年頃から本格的な工事をすれば,工期10年ほどでリニアが完成し,2027年頃開業…という話はずいぶん前にも書いた .国が金を出さないので,5兆円で出来る分というと名古屋まで,ということである.
基本的には資金計画の問題なので,じゃぁオリンピックがあるから資金を調達すれば2020年までにリニアが名古屋まででも完成するかというと,あちこち情報収集した結果,そう簡単では無いようだ.
東海道新幹線の場合,オリンピックに間に合わせるために突貫工事をするとともに,ルートの変更までしている.東海道新幹線は名古屋駅を出ると,乗客は西に向かっていると思っているが,新大阪行きの電車は実は北に進路を変え,鈴鹿山系を北に迂回して,米原経由,琵琶湖東岸に沿って京都に至っている.元々は名古屋を出るとそのまままっすぐ西進し,鈴鹿山系をトンネルで抜けて京都に至るルートが考えられており,地質調査も行われていたようである(ん? どこかで見たような経路だな).
当時は長いトンネルを短期で掘る技術が無く,オリンピックに間に合わせるためにはなるべく平地で建設するしかなかったようで,結果として今のようなルートになったようだ.大野伴睦氏が曲げたと言われているが,少なくとも公式にはこういう経緯のようである.この辺の話は,東海道新幹線の工事誌に公式に書かれている.
さて,リニア新幹線は長野県下を通過する部分で,諏訪方面を通るか,山岳を長大トンネルで抜けるか検討された結果,路線延長がなるべく短くなる長大トンネルが選択された.東海道新幹線では回避された「長大トンネル」が建設される方針になったわけであるが,ここがリニアの工期のネックになりそうである.
長大山岳トンネルといえば,スイスのLötschberg Base Tunnelは,延長34.6km,着工は1994年で共用開始は2007年,ということで工期13年.なんだか,リニアの工期と符合するといえば符合する.でも延長20kmのリニアのトンネルならば単純計算7〜8年の工期ということでもある.
海底トンネルでは抗口が原則2つになるので不可能なのだが,山岳トンネルでは工区の分割が可能であり,工期短縮が可能といえば可能.全長57キロあまりのゴッタルトベーストンネル(これもスイス)は,5工区に分けて,1998年に立坑掘削開始,1999年本工事開始,予定では2011年開業だが,実際にはまだ供用開始されていない感じ.
工区を分けるには,地表から地下に向けて立坑という穴を掘り,そこから左右にトンネルを掘ることで,縦坑1つあたり掘削面を2つ増やせるという仕組みだが,リニアの長大トンネルの場合,その立坑はあまりたくさん作れないということらしい.
立坑が作れない場合には,まず小断面の作業坑を先に掘削し(列車の通過する大断面のトンネルよりも作業速度が速いらしい),その作業坑を使ってはるか向こうの山の中から反対向きに掘って工期を短縮するという方法があるそうな.青函トンネルはこの方法.
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そんなことはトンネル掘削の検討している方々は百も承知だと思うので,結局の所,「結果として早く出来上がる可能性もあるし,運が悪いと2027年よりも遅くなるかもしれないし,地質がよくわからない部分が多いので,掘ってみないと何とも言えない.なので,オリンピックに間に合わせる約束は出来かねる.」というあたりが真実に近そうな感じではある.