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茨城県のBRT(かしてつBRT編)

2007年に廃止になった鹿島鉄道の代替バスは「かしてつバス」と呼ばれる.運行はかしてつではなく,関鉄グリーンバス.その路線の一部が鹿島鉄道線の路盤を転用したバス専用道になっており,「かしてつBRT」と呼ばれているらしいので行ってみた.


常磐線の石岡駅から出て,このあたりから専用道路に入る.

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石岡南台駅.かつてのプラットホームを転用しているように見えるが,そうではなくて,左側はバス停標識が停留所本体.右側は屋根付き.
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元の鹿島鉄道線時には使われていたであろう跨線橋とその下の駅舎(?)は,今は使われていない.ハードウェアは作る金があっても運営に手厚い保護をすることができないのが日本のシステム.
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所々に道が太くなった行き違い箇所が有り,上下便が交換する.
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一般道との交差部分は「踏切」が付いているが,専用道の優先通行を確保するというものではなく,一般道から誤って専用道に車両が進入しないようにするだけである.バスが近づくと遮断機が上がるが,バスそのものは原則一旦停止のようである.もっとも,交差する一般道の交通量が少ないので,このような交差点が遅延の原因にはならなさそう.
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道路としては貧弱だが,便数も少ないので,さほど交換待ちも問題にはなってなさそう.並行する国道(下の2枚目)が,時間帯によっては渋滞するようで,それなりに効果はある模様.なお,運賃は普通のバスなみ.運行本数は残念ながら少ない.
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ここで終点.
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専用通路が確保され,定時性確保の努力がされているのは評価できるが,本数が少なくて1本逃すと待ち時間が長い.値段も安くは無く,海外のLRTのゴムタイヤ版だと思い込んではいけない別物である.廃止鉄道線の代替バスとするとまぁOKか.高頻度運転も,低廉な運賃も,中心市街地活性化も,P&Rも,信用乗車etc…もなく,これをBus「Rapid」Transitと呼ぶのは個人的には若干抵抗有り.

どうしてできない新幹線(国道指定できへんかなぁ編)

都市内交通では,Light Rail TransitことLRTが注目され,これを日本にも導入しようとあの手この手である.(が,なかなか本格的なものは実現していない)
ところで,このLRTであるが,市街の土地を買収して軌道を敷設して,新しい電車を買ってきて走らせて200円くらいの料金を取る,というのでは企業会計的には絶対にペイしない.あくまで企業会計的に,である.都市全体としては投じた資金に見合うだけのメリットがあるとされている.
そこで,公設民営という方法がとられており,街路整備の一環として軌道整備までやってしまい,その上のを走る電車の部分だけ企業会計的な観点でペイするように事業を設計しようとしている.つまり,こういうことだ.

  • (市街の通路+専用軌道)+LRT用車両=LRTシステム

バスベースのシステムだと,こういうことになる.

  • (市街の通路+舗装されたレーン)+バス=BRTシステム

じゃぁ,都市間交通だとどうなるかというと,こういうことにならないかな.

  • (都市間の通路+専用軌道)+高速鉄道車両=新幹線

通路概念を導入した段階で,都市内交通も都市間交通も基本は同じじゃ無いかと思うんだが.”都市間の通路”を国道として整備できないのかな.よく受益者負担というが,これだけ自動車が普及してしまえば,ほぼ自動車保有者と国民は同じ集合になるので,明確な区別は不要じゃ無いかなと思うんだが.みんな迅速な移動したいのであって,自動車を運転したいわけじゃ無いので,利便が向上するのなら納得を得やすいんじゃないかと思うが.都市内の新交通システムやモノレールへの建設費補助は,それらを整備することで結果として道路を本当に必要とする利用者の利便が上がるという発想が根底にあるが,この考え方の延長で新幹線整備が出来ないかな.

  • (市街の街路+専用のガイドウェイ)+専用車両=新交通システム
    (市街の街路+専用の走行桁)+専用車両=モノレール

同じようなもんじゃ無いのかな.

KIX-エクスプレスのラフ検討

関西国際空港へアクセス鉄道としてリニアを整備せよ,という構想がある.おそらく上海のトランスラピッドに感化されたものだと思うが,果たして芽があるかどうか,ラフなフィージビリティスタディをしてみよう.起点を新大阪にすると,関空までの最短の鉄道延長は約50kmであるので,この数字を使ってみる.
最高速度を500km/h,加速度および減速度を山陽新幹線なみの2.5km/h/sとすると,加減速に要する時間は各200秒である.このとき,加減速時の平均速度は250km/hであることから,加減速時に要する走行距離は各々13.9kmと計算できる.残りの22.2kmが500km/hでの巡航となり,これに要する時間は160秒である.結局,合計560秒(=9.3分)が全区間の所要時間となり,特急はるかの48分と比べて38.7分の短縮である.建設費は東京-大阪間が約9兆円なら,1/10程度の距離なので9000億円といったところか.
次に,加減速度を阪神電車なみの4km/h/sにしてみると,加減速に要する時間は各125秒,加減速時に要する走行距離は8.7km,500km/hでの巡航距離は32.6km,走行時間235秒となり,合計485秒(=8.1分)が全区間の所要時間である.特急はるか比39.9分の短縮.
じゃぁ,通常タイプの新幹線ならどうだろうか. 最高速度を250km/h,加減速度を2.5km/h/sとすると(実際には速度が上がると加速度が落ちるが),加減速に要する時間は各100秒,加減速時に要する走行距離は3.5km,250km/hでの巡航距離は43km,走行時間619秒となり,合計819秒(=13.7分)が全区間の所要時間である.特急はるか比34.3分の短縮.建設費は最近の整備新幹線の見積である100億円/kmをもとにすると,5000億円か.
ついでなので,最高速度160km/hの在来線タイプならどうだろうか.加減速度を2.5km/h/sとすると,加減速には各64秒,その間の走行距離は1.4km,160km/hでの巡航距離は47.2km,走行時間1061秒となり,合計1189秒(=19.8分)である.特急はるか比28.2分の短縮.建設費はあんまり安くはならないので,5000億円程度か.
まとめると,こうなる.さて,どれを選ぶ?

建設費 所要時間 短縮 △1分あたり
リニア新幹線500km/h 9000億円 8.1分 △39.9分 226億円/分
通常新幹線250km/h 5000億円 13.7分 △34.3分 146億円/分
在来線160km/h 5000億円 19.8分 △28.2分 177億円/分

新聞記事の精度(京都民報編-その3)

タブロイド紙の件の続きである.コメントまだ1面だが,この面以外は独自の内容は書かれていないので,1面だけコメントすれば充分なレベルの内容である.
駅建設関係部分についても,市が噛みつかれているようだ.ポイントは,駅建設に関する費用負担である.この紙に限らず,公共事業の費用が発生することは,これ即ち全て悪であるという前提で記事が書かれることが多い.この記事も例にもれていない.
公共事業が是か非かを判断するのは,費用に見合った効果が生じるか否かであって,支出が生じることが全て悪ではない.支出ばかりで何の効果も出なければ悪い事業,支出に見合った効果が出ればいい事業.非難する場合は,何の効果も出ないということを(悪魔の証明にならない範囲で)それなりに説得力のある理由を述べてから非難する必要がある.・・・で,この記事はというと,市がまだ説明していないことだけを以て「マイナス」と結論づけている.論が飛んでますが.現時点で非難できるのは,”説明を”までですね.「マイナス」かどうかは調べたり検討したりしてないので,言えないよね.
残りの8面,9面にも記事が続くらしいが,8面は主に以下の話のダイジェスト,9面はリニア計画に反対している学者のお話のダイジェストなので,以下省略.
詰まるところ,このタブロイド紙は,茶化した記述+浅い分析+他記事のダイジェストの構成のようで,的確な独自分析には至ることが出来なかったようである.(まぁ,週刊誌なら,そんなもんか.)
リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(輸送力編)
リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(失敗尻ぬぐい編)
リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(地震対策・復興編)
リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(環境編)
リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(安全確保編)
リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(番外編+まとめ)

どうしてできない新幹線(鉄道「政策」の上下分離を)

(ずいぶん昔だが)鉄道事業法が改正になって,線路の保有(第三種)と列車の運行(第二種)が別事業として実施できるようになった.もちろん,両方一体でもできる(第一種).いわゆる「上下分離」である.最近はLRT事業を睨んで,軌道事業でも似たようなスタイルが導入できるようになってきている.
ところで一方,トラック事業とかバス事業はどうだろうか.もちろん道路を運輸業者が自ら造って,その上でトラックとかバスを運行しても構わないのだが,通常はそんなことはせずに道路は公共(あるいは,それに近い事業体),走行する車両は事業者という分担が普通である.
さて本題である.鉄道の重要性が見直されていると言われている昨今だが,その割にはさっぱり整備が進まない.正便益不採算(*)が原因だとかなんだとかいろいろ言われているが,政策の上下分離ができていないことも原因ではないだろうか.経営の上下分離にあらず.
(*)社会的には事業実施した方がメリットが大きいことは明白なのだが,企業会計的には赤字になるので民間事業のような形態では成立させにくい,という話.
バス事業だと,インフラ部分の整備は公共で道路や街路などのインフラ整備部門のお仕事.その上は民間のバスが走り,これの管理・監督は公共の運輸部門のお仕事である.じゃぁ,同じようなシステムを鉄軌道にも導入したらどうだろうか.つまり,インフラ部分の整備は公共のお仕事なんだがインフラ整備専門部門のお仕事.その上を走行する車両等のシステム管理は,同じく公共のお仕事なんだが運輸システム専門部門のお仕事.
ちなみに現在の鉄道関係では,下物のインフラ整備部分も上物の運輸そのものの管理も同じセクションのお仕事.わが国でも交通基本法が導入され,通路概念に近いものが入ってきているので,通路確保のお仕事と,それを使って実際に運ぶお仕事を概念的に分離して,実際の政策も分離した方がいいのではないだろうか.
国土交通省が発足してもうすぐ15年.未だ何も変わらないというのでは,省庁再編の意味があったのか?

リニア全線同時開業「難しい」の?

リニア新幹線の大阪までの全線開業に関し,以前JRは有利子負債はこれ以上抱え込むことが出来ないと表明していたが,与党が「じゃぁ,無利子で貸すよ」という案を出したら,今度は(実は社長がこの間に交代しているが)「環境への影響調査や工事に時間がかかるため、同時は難しい(副社長)」とか「5兆円を超える債務は持たないのが基本方針」とか表明するようになった.
まぁ,まさかそんな案出てくるまいと思ってたんだろうと思うが,環境影響評価については現時点では手間取っているようだが,間もなく名古屋-品川間が着工できれば「経験値」を手に入れた調査部隊の手が空くので,ノウハウを蓄積した組織が今度は距離が2/3程の区間を対象に仕事することになる.名古屋までは4年かかったかもしれないが,さほどかからないよね(ルートで揉めなければ).標高2000㍍級の山に長大トンネル掘るようなこともないので,工期もやっぱり,そんなにかからないよね.鈴鹿山系は既にトンネルがいっぱい掘られているので,「未知の地質」というわけでもないし,捨ててなければどこかの倉庫に東海道新幹線のルート検討時に調査した鈴鹿山系の地質図もあるかもしれないし,そんなにかからないよね.

「5兆円を超える債務は持たないのが基本方針」についても,バランスシートに入らない方法もありますので,ご検討を.(というか,与党はまだその案に気付いてないよね.)

それから,利子補給があればバランスシートに債務が入っていても10年程度の前倒し開業は不可能ではないですよね.(本当に早期開業させる意思があるのなら)

#その後,開業前倒しが政府の方針になりかけたり,外れたり,また元に戻ったり,等々,迷走中.

どうしてできない新幹線(「しない」シリーズ編)

  • Question:これ,なーんだ?
  1. 政策立案しない
    • 40年前の政策のまま.国土政策が大きく変わっているのに,鉄道政策はそのままでいいのか?
  2. 財源確保しない
    • 特定財源無し.他の資金確保の案なし.新幹線建設の純粋な国費は公共事業支出の1%程度です(国家予算の1%ではありません).
  3. 予算確保しない
    • 予算要求は前年度踏襲すればいい方で,工事が一段落することを理由に減額要求すらしかねない状況にある.国土強靱化のような「千載一遇のチャンス」も見す見す逃しつつある.
  4. ”ご説明”しない
    • キーパーソンへの働きかけしない.国会答弁もしどろもどろで,よく聞いていても,主語と述語の対応関係もよくわからない状況.
  5. 主導権発揮しない
    • イニシアチブとらないので,いろんな局面で姿が見えない.
  6. PRしない
    • 本来は鉄道の社会的重要性の広報を率先してしなければならないはずだが,不十分.Webサイトは最近ちょっとマシになったが,まだ貧弱.
  7. 工夫しない
    • 旧来の手法に凝り固まっており,新しい鉄道システムなどの工夫がほとんどない.
  8. 調査しない
    • 自ら調査はせず,外郭団体や民間会社まかせ.
  9. 設計しない
    • もちろん,設計も外郭団体や民間会社まかせ.
  10. 施工しない
    • 当然だが,工事も外郭団体や民間会社まかせ.
  11. 運営しない
    • まぁ,当たり前だが民間会社のお仕事なので.
  • Hint:業界では「お公家様」と呼ばれているらしいです.
  • #「しない」が入ってないけど,「鉄道に対する愛情がない」とか「国民の方を向いていない」とかも付け加えてもいいかも.管理するだけで,このすばらしいものを拡げよう,活用しようという姿勢が感じられないんだが.ここが活躍しなければ,他には該当するセクションがないんだが.

新聞記事の精度(京都民報編-その2)

タブロイド紙の件の続きである.市の担当部局も噛みつかれているようである.
リニア新幹線は,予定では東京,名古屋,大阪の各都市に設置される駅は全列車の停車を想定した2面4線の駅構造(ホームが2面,各ホームの両側に線路が2線ずつの計4線という意味),それ以外は通過線2線+停車用線2線の計4線が想定されている.後者の駅については1時間あたり1本の停車を想定し,東-名-阪間の速達便が1時間あたり8本を想定している.噛みつかれているのはこの辺である.
リニア用車両は定員1000名程度とされているので,「それ以外」の構造になるであろうリニア京都駅では24時間ぶっ通しで運転しても1日2.4万人になり,市の計算の1日あたり3.3万人は処理できないではないか,というタブロイド紙の指摘である.
市は中間駅での実現は無理,と言っているようだが,そうなのかな? 例えば,東海道新幹線の場合は概ね3分弱-4分間隔程度で運転でき,毎時15本から17本以上運転できるようになっている.リニア新幹線については,実は現時点では最小運転間隔については公表されておらず,「毎時片道あたり8-9本しか運転できません」とも言っていない.車両基地が都心から離れた箇所に設置されることになっており,営業列車とは別に回送列車が品川-基地間などに走ることがわかっている.つまり,線路の能力そのものは「8-9本」より多いことは確かである.
リニア新幹線の最小運転間隔は公表されていないが,途中1駅停車の速達便が全線で67分,途中7駅停車の各駅停車型が全線で100分程度の所要時間であることが公表されている.速達型は平均7分半毎に運転されるので,各停型の所要時間が33分余分にかかっていることから,各駅停車型は速達型に33÷7.5=4.4回(平均)抜かれる.「中間駅」6駅中4.4回なので,停車すればかなりの率で追い抜かれるわけである.
在来線の場合は,普通列車と特急列車では使用車両が異なり,走行性能も大きく異なるが,新幹線の場合は東海道新幹線であってもリニア新幹線であっても,各停型と速達型とでは車両性能は違わない(同じものが使われる).ということは,ダイヤ編成上,速達型と次の速達型のダイヤの隙間には各停型の走れる隙間が常に確保されているということである.

各停リニア先発 →→→ 途中駅停車 (空きダイヤ)
速達リニア次発 →→→ →→→ 速達リニア先着
(空きダイヤ) 途中駅発車 →→→ 各停リニア後着

各停型が4.4回抜かれるのなら,少なくとも「ダイヤの隙間」は+1本の5.4本分は隠されていることになる.5.4本分の隙間のうち,1本を各停型に,残りを回送列車用にという使い方であろうか.
8本の速達型用のダイヤと5.4本の回送/各停用ダイヤ,つまり,毎時13-14本以上,最小運転間隔は4分半程度未満というのが理論上の最大容量ではないだろうか.これはちょっと前の東海道新幹線の線路容量(運転可能な本数)である毎時15本とそう大きな差はない.
#論拠はそろってないが,最小運転間隔は3分45秒じゃないかな.3’45″×16=60’00″.16本の容量のうち8本を速達型に割り当て,その隙間の8本を各停型/回送に割り当てて,追い抜きされる場合は各停型が停車駅で「次の隙間」に移れるように全体のシステム設計をするとダイヤ編成は東海道新幹線のノウハウが活用できる.デジタルATC導入前の東海道新幹線は最小運転間隔は3分45秒だったと思う.
現在,東海道新幹線の「中間駅」ではこだま号もしくはひかり号の各駅停車型は毎時3本程度,旧式車両と旧式保安装置で走っていた国鉄末期でも各停型は毎時4本運転されており,これを参考にすると,毎時1本しか線路容量的に停車できない,ということは無さそうだと思われる.停車場設備の簡素なリニア「中間駅」の停車方法については鉄道の専門家からもいろんな提案がなされている.
あまり話題になっていないが,リニア新幹線は営業時間帯が長い可能性が高い.東海道新幹線よりも1-1.5時間時間短縮されるので,その分終電の時間が遅くなるはず.6-23時の17時間,上の考察を参考に毎時4本停車,1000人のうち半分だけ降車と想定すると,計3.4万人になり,概ね計算が合うんだが.不可能で無い限り,客がいれば鉄道会社はそれに応じて停車させるのが基本であろう.

  • ということで,毎時1本なのにおかしい,と噛みつくほどの話では無さそうである.

#まだ1面.

新聞記事の精度(京都民報編-その1)

次は京都民報という左系のタブロイド紙の場合である.なるべく正しい情報を得ていただくために,(超繁忙期とか,原始的な質問過ぎる場合を除いて)新聞や放送番組等への情報提供は基本的には断わらないのでこの紙の取材にも応じた.波床の名前が出てこなくても,提供した情報に基づいて記者の独自の分析で記事が書かれていることもある.そういった中,この紙の記事は久々に見る違和感である.カギ括弧の中が編集されていることはもちろん,私以外の各所への取材結果についても切り貼りして記者に都合の悪い部分は切り捨てられているので,事実関係をまとめたというよりは,全体の主張は記者の創作意見である.…というか,週刊誌みたいな書き方なわけやね(ぁ,週刊誌か).
京都民報2014年6月15日版には…

  • (タイトル部分)「ルート変更は困難」「推進派ブレーンが明言」

…と書いてあるが,まず,「推進派」じゃねぇよ,だ.市民でもなければ府民でもなく,職場も大阪平野の端っこなんだが.この紙に限らず,マスコミはラベルを貼りたがる傾向にある.そうした方が自分の意見を書きやすくなるのでそうしたがるんだろうと思うが,そんな単純ではない.リニア新幹線全線早期開業に関しては遅れると国土の二眼構造を崩しかねないので「推進」だが,ルートに関しては特にどれも推してませんが.事実関係をなるべく正しく伝えるのが社会的使命だと思っているので,特定の立場はとってないですよ.全線早期開業以外では,国の整備計画に関する審議過程が法令の想定する過程と異なっているのでダウトだと言ってはいますが,ルートは特にどれを推進とは言ってないんですがね.(機会は少ないが)奈良県内のルートで揉めてる件について聞かれれば,奈良県内ルート各案の長所短所など説明したりしてますけど.
次に,「ブレーン」の部分だが,もし私が京都市のブレーンならば,この京都民報紙を含めて複数の新聞や通信社などのブレーンということにもなってしまう.特定の立場に対して特定の情報提供はしてないですよ.市に対して説明している内容,京都民報紙に対して説明している内容,その他で説明している内容は,質・量ともにほとんど同じです.テキトーなラベル貼り作業はやめましょう.
それから,記事冒頭のリード部分だが…

  • …(略)…しかし推進派のブレーンは「誘致は困難」と明言.…(略)…

…明言してねぇよ.カギ括弧付けて印象操作するのはやめましょう.カギ括弧は実際に口から音波として発している必要があるとともに,抜き出すなら文意が伝わる範囲にしなければならないんだが.特に「明言」と書く場合は実際にそう発言してないと書いちゃあいけません.カギ括弧の使い方は小学校の国語で習いましたよね.大幅に編集したり記者の見解にカギ括弧を付けて,意見を聞いた人が発言したかのように見せかけるのはやめましょう.
私の意見は本文の記述にある「計画変更の時間的余裕がない」部分までが基本.計画変更のためには取り除かなければならない問題は多数あり,時間も限られていることは確かだが,それを以て誘致が「困難」かどうか判断するのは市や府ですよ.鬼の首取ったような書き方しているが「計画変更の時間的余裕がない」点については,他紙ではずいぶん前に同内容の記事が出てるんで,今さらなんだが…
1面本文最後の方には…

  • 波床氏は言います.「市が期待しているのは観光客でしょう.それなら,東海道新幹線にお座敷列車を走らせる方がよっぽど効果があるんじゃないですか.」

…なんか,悪意のある編集だな.「言います」と書くなら,カギ括弧内は無編集が原則だが,やはりこの部分も編集されている.編集権があっても,主旨の変わる変更は御法度であるが,後半部分を切り捨てて主旨を変える手法のようだ.「よっぽど効果がある」などという比較発言もしたことがないので,これは記者の創作である.フルで書くなら,こうだろ.

  • 観光客に期待しているのかもしれないが,将来的に観光都市として生きてゆくなら,東海道新幹線に観光列車を走らせるだけでも十分でしょう.ですが,京都は奈良とは違い,政令指定都市であり,多数の産業もある.リニアのルートから外れると,長期的には衰退する可能性もある.

記者の要約能力が低いか,話を聞いてないかのどちらかやね.波床発言風部分についてまとめると…

  • 多様な意見は大切だが,ペンで勝負しているなら,情報源にも敬意を表しましょう.ジャーナリストが創作してはいけません.”主旨は変えてない”と思っているのなら,それは聞いた話を要約する能力が低いのでしょう.肯定するにしても,否定するにしても,正しい情報に基づいて,正確に分析しましょう.論の展開がいい加減だと,週刊誌の記事みたいになっちゃいますよ.(ぁ,週刊誌か)

その他にもツッコミどころの多い記事なので,続きはまた後日.

新聞記事の精度(中日新聞編)

最近,リニア関係で取材を受けることが多いのだが,記事になった文字を見るとなんか違和感のあることが多い.文字数が制限され散る中で多くを記述しようとしたり,記者の理解度が低いがために,よくわからない部分を記者が想像で加筆したケースだと思うが,例えば,中日新聞2014年6月2日(月)夕刊E版10面には…

  • 「法的には京都は外堀を埋められた状況.『同時開業』に近畿が一枚岩になる中,足も引っ張れないだろう.逆転のハードルは五十年前よりも高い.」

…と話したように見えるが,カギ括弧がついているからと言って,その中味が編集されていないということはなく,突っ込みどころは多い.
法的に外堀が埋まっているのは確かだが,「『同時開業』に近畿が一枚岩になる中,」とは言ってない.明らかに各府県の思惑が違うので,一枚岩などと言う言葉は使うはずもなく,実態は呉越同舟の方が近いぞ.一枚岩は,記者がそう思い込んでいるのだろう.(個人的には,「一枚岩」という表現は全体主義を想起させるような気がして好きではないので,使わない.)
それから,「足も引っ張れないだろう.」とも言ってない.”足を引っ張る”というのは誰かが悪者である前提の表現だが,奈良も,京都も,どちらかが悪いとも言ってない.敢えて言うなら,長期間にわたって幹線鉄道政策を放置してきた政府と国会かもしれない.
後半部のカギ括弧内もやはり編集されている.こちらは文字数を抑えるために何が言いたいのかわかりにくくなっているケースだが…

  • 「かつての城下町や宿場が近代以降,主要鉄道網から外れ,都市として成長力を失った例は多い.京都がそうなってもいいのか.これまで新幹線誘致などで耐え抜いてきた意味を全国にいかに広く問えるかだ」

…と話したかのように見えるが,これも記者の言葉である.前半部はともかく,最後の一文の意味がよくわからない.主語は何?? 何を”超訳”してこういう風に記述したのか,取材時の話を思い返してみてもよくわからないが,こういうことだろうか?
修正案

  • 「かつての城下町や宿場が近代以降,主要鉄道網から外れ,都市として成長力を失った例は多い.京都がそうなってもいいのか.(全国には,)これまで新幹線誘致などで耐え抜いてきた(都市や地域が少なくないが,そういった都市や地域がなぜそこまでして誘致し続けているかの)意味を全国にいかに広く問えるかだ(.)」