投稿者「hatoko」のアーカイブ

ツッコミどころの多い地図(2)

実家にあった古い地図.いろいろ面白い.

北海道の帯広の西側,狩勝峠付近.すでに新狩勝峠トンネル経由の新線になっているが,新得から足寄に向けて「国鉄の予定線」が描かれている.(よく見ると,今はなき士幌線と池北線も細い線で描かれている)

DSCN1123

どうやら新得から上士幌までは北海道拓殖鉄道という路線で,戦前に開業し,昭和40年代に廃止になった路線のようであり,その先の足寄まではやはり予定線があったようである.

狩勝峠のさらに西側にも「なんだこれ」という予定線が見える.根室本線と石勝線をショートカットしている「予定線」がある.日本国有鉄道紅葉山線という路線名だったようだが,当然未完成である.

DSCN1121この地図(書店のカレンダー),なかなか正確である.

ツッコミどころの多い地図(1)

以前,実家の台所の壁に貼ってあった地図.いろいろとツッコミどころが多い.

例えば,茨城県の水戸から鹿嶋にかけてであるが…

DSCN1124

鹿嶋と水戸の間の鹿島臨海鉄道線が「国鉄の予定線」になっている.

調べてみると,元々は国鉄の新線として建設されていたようであり,国鉄末期に国鉄ではなくて地方鉄道線として開業したということのようである.ということで,ツッコミどころが多いのだが,割と正確,ということでもある.

なお,よく見るとかしてつBRTになった路線も地方鉄道線として石岡駅から鉾田まで描かれていたりする.

ツッコミどころは,まだまだたくさんあるが,追々見てみることにしよう.

瀬戸大橋は急勾配

瀬戸大橋というと,当サイトでは折に触れて新幹線用の空間が既に準備されていることをお話ししており,例えば下の写真では線路の左側がやけに空いているのがそうであるが…

DSCN0597

今日はそういう話ではなく,どちらかというとどうでもいい話に近いかもしれない.例のごとく特急だろうが快速だろうが瀬戸大橋を通過するときには線路の見える位置をキープするのが基本であり,いろいろと観察している.

よく見ていると通過する橋の種類によって線路のうねり具合が違っている.橋と橋の間のコンクリート高架橋部分が真っ直ぐなのは当然として,斜張橋部分(金沢の兼六園の植木のように,ハープの弦のようなケーブルで吊っている橋,例えば横浜ベイブリッジ)も下のように割と平らである.

DSCN0600ところが,典型的な吊り橋部分(例えば明石海峡大橋とかレインボーブリッジ)は,こ〜んな感じでちょっとした丘陵のようになっている.

DSCN0614重い列車が吊り橋の真ん中に差し掛かると橋がその分沈むので,最初から真ん中あたりを少し上の方に持ち上げている.そんなわけで写真に撮るとまるで橋を渡るというよりは,これから丘を越えて行くような感じに見える.

なお,この吊り橋部分を含めて,瀬戸大橋は16両編成の新幹線がそのまま東京から走ってきても問題ないように基本設計されている.

モノレールはなぜ遅い?

再びモノレールの話である.

羽田空港に行くモノレールはそうでもないが,それ以外のモノレールはとっても遅い.鉄道の速度は主に曲線での遠心力による転倒とか,直線部分での蛇行動による脱線などが制約要因だったかと思う.だが,モノレールについては,この写真のように…

DSCN4395DSCN4371

…がっちり軌道をつかんでいるので,乗客の乗り心地の問題とか,高架のカーブで停止した際に傾いた状態でどうやって救出するかとかいった問題を解決しさえすれば,脱線するような事態は考えにくいのでもっと速度が出せても良さそうである.

少なくともカーブをゆるくしさえすれば,時速50km/hしか出せない,などということは避けられると思う.

ゴムタイヤによる制限,ということも考えられるが,中央新幹線用のリニアは時速160キロくらいまではタイヤ走行なので,タイヤの問題ではない.その程度の速度は出せそうである.

モノレールは,通称モノレール補助と呼ばれる道路財源を使った補助を得て作られることが多いが,このために原則として道路空間上であり,曲線は自動車道路の一般道レベルの曲線にならざるをえない.時速40キロ程度の低速交通機関を取り扱うのが基本である軌道法が適用されるので,あまり速い速度は想定しようとしていないかも.

そういうしがらみを解き放てば,交通システムとしては,もう少し対自動車競争力のある交通機関になると思うのだが,もうちっと何とかならんかな.

【祝】サイトリニューアルだいたい1年

コラムサイトをリニューアルしてだいたい1年経った.
最近の人気の記事をピックアップしてみると,こんな感じである.(なお,最もアクセスが多いのはトップページ)

  1. 2014/05/29 青函トンネル対応の新幹線電車考
    • 北海道までもう間もなく新幹線が走ろうとしているが,皆様ご存じのとおり,困った問題がまだ解決されていない.青函トンネルでの運転速度の問題だ…302 point
  2. 2014/09/21 鉄道後進国ニッポン(気動車1両でも140KM/H)
    • もう,段々感覚が麻痺してきたが,フランスの超閑散線区向け気動車1両編成列車.通称マッコウクジラとかシロナガスクジラ,と言うらしい…248 point
  3. 2014/07/08 茨城県のBRT(かしてつBRT編)
    • 2007年に廃止になった鹿島鉄道の代替バスは「かしてつバス」と呼ばれる.運行はかしてつではなく,関鉄グリーンバス.その路線の一部が鹿島鉄道線の路盤を転用したバス専用道になっており,「かしてつBRT」と呼ばれているらしいので行ってみた…209 point
  4. 2014/07/11 茨城県のBRT(ひたちBRT編)
    • 日立にもBRTがあるようなので,立ち寄ってみた.日立駅ではなく,大甕(おおみか)駅発着.ここも日立電鉄線の廃止線路跡をバス専用道として活用している.廃止路線の代替バスというわけではないようである…184 point
  5. 2014/10/11 ロングレールの継ぎ目
    • ロングレールというと,レールを溶接して継ぎ目を無くしたレールであり,高速鉄道や住宅地等々,騒音や振動を嫌う箇所で使われる.それでも完全に継ぎ目無しというのは珍しく,信号用の回路の関係等が理由で所々に継ぎ目がある.標準的なものはこんな感じ…149 point
  6. 2014/10/16 近鉄瓢箪山駅の不思議な配線
    • どーでもいいお話しに近い話.下の写真は近鉄瓢箪山駅の構内配線であるが,よく考えると不思議な配線である.一見,安全側線だが…149 point
  7. 2014/10/10 弾丸列車計画の駅選定とリニア計画
    • 東海道新幹線計画の祖先こと弾丸列車計画.正式には「新幹線計画」と言ったらしいが,最近刊行された書籍を読んでいると,どの都市とどの都市を結ぶべきか,つまり駅選定の際に考慮した事項が載っている…139 point
  8. 2014/10/05 この踏切に引っかかると留年
    • ほんとかどうかは知らないが,この踏切に引っかかると留年したらしい…138 point
  9. 2014/10/02 予讃線のトンネル
    • 予讃線は県間を結ぶ幹線鉄道なのに,なぜか単線のままで特急列車が向かいから来る特急列車を待ち合わせ...などということもある.この日は向かいから来る列車がちょっと遅れているようだ.ちょっとクスッとくるような理由で(内緒)…137 point
  10. 2014/08/16 軌間可変電車(FGT)の台車のお話し
    • GCT (= Gauge Changeable Train)というか,FGT (Free Gauge Train) というか,新幹線の広めの軌道と在来線の狭めの軌道を直通運転できる電車の開発が始まって,かなり経過した…133 point
  11. 2014/10/18 あれ?何かいた!?
    • 大阪モノレールに乗っていると,大阪の鳥飼というところにある新幹線の車両基地のすぐ近くを通る…132 point
  12. 2014/10/09 PARK & RIDE (SKY TRAIN編)
    • バンクーバーのスカイトレインのお話し…128 point
  13. 2014/09/25 エアロトラン
    • エアロトレインとも言うが,リニアの宮崎実験線跡で研究しているあれではない…121 point
  14. 2014/04/16 鉄道後進国ニッポン(非電化急行は160KM/H)
    • 非電化,単線,4両編成のディーゼル急行というと,日本だと(もう絶滅したけど)山の中をゴトゴトとゆっくり走るイメージだけど,ドイツの非電化,単線,4両編成のディーゼル急行というと,こんな感じ…120 point
  15. 2014/07/16 東海道新幹線の能力
    • 日本で最も輸送能力が高い幹線鉄道は,言うまでも無いが東海道新幹線である.1編成16両で,1300人以上の座席定員がある…117 point
  16. 2014/10/07 ミニ地下鉄
    • ミニ地下鉄という地下鉄がある.交通システムの教科書では,中量輸送機関に分類されている小型地下鉄である…116 point
  17. 2014/12/27 【祝】片町線減便決定!
    • もちろん【祝】な訳ないだろ.今度の3月改正で,昼間の運転状況がこうなるらしい…115 point
  18. 2014/10/03 AMTRAK(振り子式列車編)
    • カナダのVIA鉄道だけでなく,米国のAmtrakにも振り子式列車がある.シアトルとカナダのバンクーバーを結ぶ列車である…105 point
  19. 2014/11/17 姫路駅前の「トランジットモール」
    • 姫路駅前が「トランジットモール」になるらしいと言うので,立ち寄ってみた.夏以来なので,2度目.若干工事が進んでいる…104 point
  20. 2014/05/26 東北に行ってみた(BRT編)
    • 既にご存じの方も多いが,気仙沼線では被害が大きく,復旧の見込みが立たないことから,使用できる路盤を道路転用し,バス専用道化して「BRT」として運行されている…99 point

それぞれのページがなぜよくアクセスされているのかは不明.

都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり(第10話-リニア編)

一応第9話までで完結しているので,番外編である.第9話までは以下のリンク先をどうぞ.

第1話-新幹線偉大なり編第2話-産業振興vs交流編第3話-他の交通機関編
第4話-東海道vs中山道編第5話-新幹線駅が都市圏形成編第6話-駅アリ>駅ナシ編
第7話-20年差が命取り編第8話-後手必敗編第9話-東密西粗編編


2ヶ月ほど前に,こういう記事があった.

リニア延伸遅れに焦り 関西財界セミナー、京都誘致も影響 : 京都新聞.

この記事の中で,京大の藤井先生が「東京一極集中を是正するためにも同時開業が必要だ。実現できなければ大阪は18年間にわたって名古屋圏の地方都市になる」と説明したらしいが,私の感想としては…藤井さん優しいなぁ,である.

どういうことかというと,第7話-20年差が命取り編を思い出して欲しい.それまでに無かった新たな交通機関が出現するときには,20年ほどの整備時期の差がその後の盛衰に大きく影響して,後から追い付こうとしても差が縮まらなかった.

ということは,こういうことではないだろうかと思っている.

×:(同時開業が)実現できなければ大阪は18年間にわたって名古屋圏の地方都市になる
○:(同時開業が)実現できなければ大阪はたとえ18年後に開業しても半永久的に名古屋圏の地方都市になる

名古屋を再び追い越してぶっちぎるには,リニアだけでは足らなくて,新大阪駅を中心にして四方八方に高速鉄道が整備されるくらいの勢いでないといけない.単に追いつくだけでは,18年の差を埋めることはできない.


この記事の後半もなかなか興味深い.

京都がリニア誘致をあきらめない話が書かれている.リニア整備の時期が約20年差でも致命的な影響が生じる可能性があるわけなので,リニアの駅そのものの有無は未来永劫の盛衰を左右するレベルである.そりゃぁ,あきらめないだろう.

大阪の経済団体は「法律で奈良市付近を通るルートに決定しているという認識で統一されている」とのことだが,これもなかなか興味深い.

大阪は京阪神の中心,近畿一円の中心,関西の要である.(どうなるかどうかわからないが)道州制というような構想もあり,もしかしたら将来的には大阪が経ヶ岬から潮岬までについて我が事のように気を配らなければならない日がやってくるかもしれないのだが,現時点では隣の京都の盛衰は気にならないようである.かといって奈良がどうでもいいということでもない.

リニアの効果を最大限に近畿一円で受け止めながら,その全体に恩恵を巡らすような,全体合意可能な案が必要なのだが,そういったところには意識はいっていないようである.

自ら前へ前へと出る事には長けているが,他地域とうまくやってゆくのはあまり得意ではない地域性が出てしまっているのかも知れない.大阪が真の地域圏のリーダーになるには,もうちょっと修行が必要かもしれない.(逆ギレしないでね.)


こんどこそ終わり.

線路切替えなので振替えられてみた(ナゴヤンの思考回路編)

3/28の線路切替えの夜,家に着くと我が家のナゴヤンから電話あった.「今,京橋」らしい.

振替え輸送で何度も乗り換えて片町線で帰路につくのが面倒なので,京阪電車で帰るから,京阪の駅までクルマで迎えに来いという.

さすがナゴヤンの思考回路である.京阪電車なら交野線で河内森-河内磐船経由でJRに乗り換えれば良いと勧めてみたが,「疲れた」らしい.

………が,まぁ,JRの混雑具合(結構ガラガラ)から考えて,電車での外出を取りやめたか,ナゴヤンのような思考回路に基づいて行動したか,そういう人は多かっただろう.

都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり(第9話-東密西粗編)

最終回であり,結論である.
第1話-新幹線偉大なり編2話-産業振興vs交流編
第3話-他の交通機関編
第4話-東海道vs中山道編
第5話-新幹線駅が都市圏形成編第6話-駅アリ>駅ナシ編
第7話-20年差が命取り編第8話-後手必敗編

最初の出発点は以下の図であるが,新幹線は地域振興に資するという単純なメッセージの他に,目新しい交通機関が出現したときには早期整備する必要があるということが重要ということである.同時に地域整備そのものよりも交通整備の方が効果が大きいということであった.

semi-045

さてさて,大阪を取り巻く交通整備であるが,今から約10年ちょっと後の2027年頃の様子は次の図のようになる.東北新幹線は北海道新幹線につながり,北海道南部までは到達している.北陸新幹線は金沢から福井を経て琵琶湖の手前まで来ている.リニアも出来ているが名古屋まで.

東京からはミニ新幹線を含めて新幹線で行けない県は中部以東ではほとんどなく,近県の茨城と千葉だけである.

それに比べて大阪はどうだろうか.九州新幹線につながる山陽新幹線はあるものの,北陸新幹線もつながってなければリニアもつながっていない.山陰新幹線や四国新幹線は当面開通できる状況にない.

これで,東京に勝てるか,というと,はっきり言って絶望的である.

府市統合のような中心都市の行政効率を上げて(ほんとに効率が上がるのかという議論すら多いが),その分を地域整備に回すことで大阪の地位が向上するのかというと2を読んでのとおり,その方法では望み薄である.加えて,効率の上がった分が存在するとして,それを地域整備にどのように回すのかすら今ひとつわからない—市に集中投資するのか,それとも府下にばらまくのか—.(大阪市長は市に集中還元させるというようなことを言っているようだが,それだと府がこの統合に参加する意義が見いだせない.逆に府下にばらまくのなら,やはり市は割を食うのか? いずれにせよ,不明な点が多いまま話が進んでいる.)

semi-046

ちなみに,大阪を取り巻く高速鉄道網整備は下の図の緑色の線のようにかなりたくさん残されている.これらが完成すれば大阪を中心とするネットワークは東京を中心とするものに遜色がなくなって国土の二眼構造が復活する.

150204-001

だが,残念ながら大阪の人は自らが頑張りさえすれば何とかなると思い込んでいるわけで,大阪以外の地域とうまくやって行くという発想そのものが無いようなのが悲しいところ.(…と指摘したからと言って,逆ギレしないでね)

以上が市販本やwebで引用されている元図の背景である.大阪都構想(府市統合)という目立つ話の陰で,大阪の長期衰退は当に今,始まろうとしている.

#逆ギレしないでね.いちいち逆ギレしていると,大事なことを話す人が少なくなってしまうので,結局損するのは逆ギレした人,という状況になると思う.日本国憲法第21条とか,日本国憲法第23条って大事だよね.

都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり(第8話-後手必敗編)

まだ続くが,そろそろ終盤が近い.
第1話-新幹線偉大なり編2話-産業振興vs交流編
第3話-他の交通機関編
第4話-東海道vs中山道編
第5話-新幹線駅が都市圏形成編第6話-駅アリ>駅ナシ編
第7話-20年差が命取り編

簡単におさらいすると,こうである.

  1. 現代の新幹線網と日本の大都市の配置が極めてよく似ているので,新幹線の威力は絶大だ
  2. 産業振興策と比べても影響が明確で,新幹線の威力は絶大だ
  3. 他の交通機関に比べても施設分布との関係は新幹線が最も明瞭で,新幹線の威力は絶大だ
  4. 旧街道の中山道沿いと東海道沿いを比べると,新幹線ができるまでは人口の推移の差が無いのに,新幹線後は差ができるので,新幹線の威力は絶大だ
  5. 新幹線駅は大都市圏をつくり出している可能性がある
  6. 新幹線に限らず鉄道駅がある方が無いよりも人口増が大きい
  7. 駅の有無による差が長期続くと明確な差を生むが最初の差は明治時代〜昭和初期に生じている

さて,このような広域的な交通利便性の差は明治〜昭和初期以外にも東海道新幹線以後の全国的新幹線ネットワーク形成期にもおいて生じている.そしてこの新幹線形成時期は航空ネットワークの形成時期でもある.

じゃぁ,全国の都道府県を,明治〜昭和初期の鉄道整備期において整備が「早い」「遅い」の2つに分類し,また戦後の新幹線や航空路の整備期においても整備が「早い」「遅い」の2つに分類し,これらの組合せ4種で人口の長期推移を見たらどうなるだろうか,という結果が下の図である.

(※厳密には「交流可能性指標値」を計算してその変化をもとに分類しているので,単純に建設の有無等で分類したものではない.くわしくは,この辺の資料を参照.4章6章

まずは,分類結果がこうなる.

sente-036

そして,各群の1890年以降の推移を示すと次のようになる.最初の1890年の人口シェア(全人口に対する比率)を計算して,1890年が1になるようにしたものである.

例えば,全人口が1890年に4000万人,1910年に5000万人と増えて行く過程で,ある地域の人口が400万人,750万人と増えたとする.そうすると,人口シェアは10%から15%に増えたことになり,1890年が1になるようにすると,1890年が1,1910年が1.5というわけである.

さて,その結果は…

sente-038

明治〜昭和初期の鉄道整備期と新幹線や航空路の整備期(高速交通整備)の両方が「早い」群が最も人口の伸びが大きく,両方とも「遅い」群はシェアを低下させ続けている.

片方だけ早かったという群については,鉄道整備だけ早かった群の方が高速交通整備だけ早かった群の方よりも人口の伸びが大きい(というか人口のシェアの低下の度合いがマイルド)であった.

つまり,明治〜昭和初期の鉄道,戦後の新幹線等のそれまでになかった高速な交通機関の出現期には,整備が早い方が勝ち,先手必勝だということである.同時に後手必敗でもある.

じゃぁ,明治に遅かった地域が昭和にがんばって早めに整備した場合はどうだったかというと,上の図の「高速交通整備だけ早い」のようにあまり芳しくない.つまり後から挽回するのは大変だということである.

さて,大阪はどうなんだろう.次回は今後に向けた結論である.

つづく

都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり(第7話-20年差が命取り編)

以下の一連の話の続きである.まだ続く.
第1話-新幹線偉大なり編第2話-産業振興vs交流編
第3話-他の交通機関編第4話-東海道vs中山道編
第5話-新幹線駅が都市圏形成編第6話-駅アリ>駅ナシ編

卒論-修論-博士論ベースの話が続く.前回のお話は,人口増加率がかなり昔から「駅アリ>駅ナシ」だという内容で,前々回はそれの新幹線版だった.

例えば,駅アリの都市の人口増加が年率1%で,駅ナシが年率0.1%だったとしよう.最初がもし10万人だったとして,1年後は10万1000人と10万100人,2年後は10万2010人と10万200人………100年後は27万481人と11万512人.長期の間には明らかな差が付く.

つまり,駅アリと駅ナシという有無の差が生じている期間が長ければ長いほど,その結果としての人口の差も大きくなるということなので,鉄道整備するなら,あるいは新幹線を整備するなら,速やかに全体計画を実現する方が国土構造への影響が少ないということなのである.

さて,下の図は再び近年の人口ベスト15+新しい政令指定都市の分布図であるが,書き込んである線は新幹線ではなくて1898年当時において開業していた幹線鉄道である.100年の時を超えて,なぜか明治の鉄道と現代の大都市分布が(新幹線ほどではないが)似ている.どういうこと?

semi-034

下の図は上のカラフルな図と全く同じである.明治期に日本全国に鉄道網を建設するにあたって,初期にできたのが下の図の太線の各線である.東京-大阪間を結ぶ鉄道は今でこそ海沿いの東海道本線が当たり前であるが,実は当初は外国艦船からの艦砲射撃が怖くて内陸の中山道経由で建設しようとしていた.

だが,案の定というか,難工事でそのルートはあきらめざるをえなくなり,比較的つくりやすかった東海道ルートになった.もし中山道経由ルートが先に実現していたら,日本の様子はかなり違っていただろう.

日本海側へのルートは信越線が直江津付近まで到達,西の方では北陸線がまずは敦賀まで開通,あとは船で各地を連絡というスタイルであった.東海道本線ですら琵琶湖沿岸は最後まで開通せず,一時は滋賀県下の長浜から大津まで船で連絡という時期があった.当然舟運が便利だった瀬戸内海は最大限活用され,四国方面は船が基本,山陽本線も途中から船で九州まで連絡という状況であった.

この「船+鉄道」というネットワーク形成が結果としては日本海側や瀬戸内海沿岸西部,四国,九州東側などの鉄道の整備を遅らせてしまった面があり,後々100年にわたって尾を引いてしまったわけである.そして舟運の要に位置したのが大阪であったわけで,江戸時代まではその恩恵を最大に受けて日本最大の経済圏を形成していた.

だが明治以降は,中途半端に便利な交通機関である舟運に頼りすぎたため,大阪のその後の悲劇の遠因にもなっている.

sente-001

どういうことかと言うと,鉄道はこの後20年ほどで全国展開が概ね完了し(下の図),大正時代には全国的な鉄道のレベルの差は無くなるのだが,この時期に至る20年間については鉄道の有無の差のある状態だった.しかも全国的な人口が大きく増加していた時期であったので,差が付きやすかった.

わずか20年,この期間に近代日本の大都市圏の基礎が形作られてしまったため,100年前の鉄道網と最近の大都市の分布が似ているという状況になってしまったのである.

なお,大正期に至っても四国や九州東側ではまだ鉄道が到達しておらず,差が開き続けるという状況である.

sente-002

大正以降も鉄道は整備され続けたが,細かな路線網が充実しただけで基本はあまり変わらず,整備が遅かった九州東部や四国がようやく鉄道でつながり始める.昭和初期になってほぼ完全に鉄道網が完成したが,完成したからといって遅れをキャッチアップして追い抜く,などということは無く,差が開いた状態が固定化されただけである.

sente-003

戦後になって新幹線が整備されるわけだが,新幹線による全国ネットワークの構想は未だ一部しか整備されておらず,明治〜大正〜昭和にかけての駅有り無しの差のある状態が続いているといえる.つまり,差が開き続けている状態.

東京一極集中についても,このあたりの状況が大きく影響し続けているわけだが,この偏在した状況が当然になってしまっており,「是正」しようという動きも鈍くなってしまっている.「是正」どころか,新たに超々高速鉄道のリニアが出現しようとしており,より高次なレベルでの駅アリ駅ナシの有無の格差状態が生み出されようとしている.

ということで,今の状況は日本の国土構造にとっては「当たり前の状態」ではないんですよ.ここでモタモタしていると,エライことになりますよ.リーダーの皆さん.

つづく