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北陸新幹線の建設費が2倍!? – 有識者でも米原ルート推奨?- (その7)

その7である.その道の有識者でも,米原ルートを推奨する人が出てきている.

だが…

  1. プロジェクトの優劣はB/Cで決まるわけではない(教科書レベル)
    • 教科書レベルのプロジェクト評価の説明では,B/C(費用便益比)は評価項目の1つに過ぎないので,B/Cの大きさだけでプロジェクトの優劣を評価すべきではないと書かれている.最も重要なのは,所期の課題を解決できるかどうかであり,他の項目は制約条件に過ぎない.
  2. B/Cの計算は社会的割引率の設定次第でいくらでも変わる(教科書レベル)
    • じゃぁ,B/C<1だと,投資効率が悪すぎて制約条件に引っかかるんじゃないかという話になる.だが,現時点の日本のB/C計算における社会的割引率は4%になっており,経済状況に比べて異様に高い値が設定されている.民間投資の収益率にすべきだとか,利子率に設定すべきだとか,長期国債の利回りに設定すべきだとか,経済成長率に設定すべきだとか色々観点はある.だが,30年間ほとんど経済成長していない国の割引率が4%って,妥当か?
  3. 「建設期間が25年のプロジェクト」は,年間新幹線支出が貧弱な状況下でも他のプロジェクトを圧迫しない
    • それから,最大5兆円(年間2%ずつ建設費が増大した場合の額面の総額?)も投資するくらいなら他の基本計画新幹線に投資したほうがマシと言う論もある.だが,である.工期が25年もあると,年間の建設費は1500億円程度である(完成近くなった頃の25年後の建設費は3000億円近くになるかもしれないが,これは額面).少ない少ないと言われ続けている新幹線の年間建設費4000億円の半分程度なので,残り半分は他の路線の建設費に回せる(完成近くなった頃の年間新幹線建設費支出総額はさすがに増えていると思う).
  4. 今から米原ルートを検討し始めてそれが早い解決策なのか?
    • 小浜京都ルートは環境影響評価段階で,もうすぐ着工の段取りである.
    • 一方,米原ルートは,滋賀県の並行在来線問題,滋賀県の費用負担問題,東海道新幹線に乗り入れるのなら各種の問題(東海道新幹線の線路容量,運行管理システムの違い,信号システムの違い,地震対応の違い,車両の最高速度の違い,新大阪付近の車庫回送線建設,JR東海がGOサインを出す時期(早くて2037年?)の問題,線路貸しなのかJR東海の列車扱いなのか,など),乗り入れないのなら乗り換え問題(米原駅での乗り継ぎ時間調整,ホーム発着が対面の乗り換えか否か,新大阪と米原の2回の乗り換えで条件悪化,特急料金の2重払い3重払いの問題),JR西日本の説得(減収),などなど,問題山積である.工事と並行で問題解決しようとしても,乗り入れなのか乗り換えなのかで米原駅付近の線路の構造が変わってくるので,着工不能な区間が出てくるはず.

…という状況.

北陸新幹線の建設費が2倍!? -新聞記事の精度- (その1)

…という話題が,マスコミを賑わしている.
ここぞとばかりに「米原ルート」などという話がぶり返しているが,さて…

建設費が2倍になると「費用対効果」が半分になり,そもそも北陸新幹線の「敦賀-大阪間」については,費用対効果(B/C)がほぼ1ギリギリだったので,マスコミが「ほら,ソラ見たことか」とここぞとばかりに叩いているわけだ.

ところが,新幹線建設のB/C計算にはいくつかクセがある.クセ「ツヨツヨ」である.

まず,B/Cを計算する際の社会的割引率という年間換算レートみたいな%数値がある.一応,授業や教科書では,「世の中,経済成長とかするので1年後の1万円は今年の1万円と価値が違うだろ? その変化率を社会的割引率といって例えば10%なら,来年の1万1千円と今年の1万円は同じ価値ということだ」みたいな説明をする.

この割引率という数値は現ナマの現金で持っているよりも公共投資をしたほうが社会的に有利だという指標の計算に使う率なので,経済成長率とか,公定歩合とか,そういう値を設定するというのがセオリーである.事実,諸外国での計算上の社会的割引率はそうなっている.

ところがニッポン.なぜか,長年「4%」のままである.経済成長が「目標2%」で実際にはマイナス成長している国が,である.公定歩合(現在は基準割引率および基準貸付利率)は,0.1%とか0.3%とかいう水準である.

オカシクねぇ?

じゃぁ,ザックリ,割引率4%で建設費2.1兆円,工期10年,プロジェクトライフ40年,B/C=1.1 (B/C計算の詳細の現物書類を見ていないので,概ねこのあたりという想定の数値) のプロジェクトの建設費と割引率をいじってみよう.

社会的割引率 名目建設費 C (現在換算) B (現在換算) B/C 備考
4% 2.1兆円 1.77兆円 1.95兆円 1.1 現行
4% 3.9兆円 3.29兆円 1.95兆円 0.59 建設費だけ上昇
2% 3.9兆円 3.57兆円 3.21兆円 0.90 政府の成長目標
1% 3.9兆円 3.73兆円 4.21兆円 1.13 目標と実績の間
0.3% 3.9兆円 3.85兆円 5.14兆円 1.33 実績ベース

ということで,社会的割引率の「%」をいじるといくらでも数値が変化するのが「B/C」である.ことことを理解せずに記事書くのはやめたほうがいいだろう.(現行の4%がいかにプロジェクトの効果を小さく見せるための数値かということにも注目)

なお,引用した新聞記事には国交省が社会的割引率の設定を見直して再計算するという方針について,”形の上で” 的な反応をしているが,そもそもの割引率設定がおかしいというのが正しい見方である.また,「金利の条件を…」という記述も正確ではない.政府は市中銀行から借金をするわけではないので,社会的割引率は借金の利率そのものではない.

騒げばいい,というものではない.

#有名Youtuberが京都駅3案を比較とかしてるけど,合ってる部分が少なくて悲しくなった.
#有名Youtuber,駅位置案の詳細が公開されてさらに追加でuploadしているが,間違い多くて悲しくなった.