鉄道で国づくり」カテゴリーアーカイブ

鉄道後進国ニッポン(独仏高速新線絶賛建設中)

昨年夏,ドイツ国内を半月ほど研究調査目的でぶらぶらしてきたが,相変わらず,鉄道整備の勢いは衰えず,新線建設や在来線改良(ローカル列車用と優等列車用の複々線化工事)などが見られた.
例えば,ドイツの中規模以上の都市でICEが無いのはChemnitzだけであり,他の中規模・大規模都市ではICEのサービスが完備されている.ところで,そのChemnitzに実際に行ってみると,駅のホームは大規模に改築され,構内配線も改良工事中で,ICE乗り入れが近いのではないかと思われる.
それ以外の地域でも在来線の高速化改良は随所でみられるとともに,新線工事もしばしばみられる.下の写真は,Erfurt付近の新線工事である.
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日本の高速新線網は,もう何年整備し続けてるんだったっけ?

リニア新幹線整備の理由(どうしてこうなった編)

リニア新幹線の計画過程に限らず,残念ながら,わが国の近年の新幹線計画は総じてグダグダである.
本来なら社会の状況が変わるたび,いや,法令に書いてあるとおりに国土整備の方向性などが変わるたびに計画を見直して行かなくてはいけないのだが,猪突猛進,いっぺん決めたら方向が変えられない.突っ走っているならまだしも,行き詰まっていても方向が変えられない.あらら,困った,困った.(いっぺん決めたことを再検討すると,議論噴出しそうで怖いから手を付けない,パンドラの箱だと思ってるのだろう.)
いわゆるPDCAがまわってない状態である.Plan-Do-Check-Action…全国大学の土木系教室を悩ませているあのシステムである.見事に存在しない.企業の方には,ISO9000シリーズといった方が分かりやすいか.
政府担当部署の内部的にはOKなのかもしれないが,昨今の世間的にはNGな事務システムであ

トラム変幻自在(国境を越えるトラム編)

ドイツのサールブリュッケンという都市のLRTのお話し.この都市のLRTも市内の軌道線と郊外の鉄道線が直通運転されるカールスルーエ方式が導入されているが,さらに一歩進んでいる.
中央駅から市街地を路面軌道で走り,市役所の前を超え…
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市街地を抜けると,そこから先はドイツ鉄道の線路上を走ってゆく.
DSCN4578その先はそのまま国境を越え,終点はフランスのザルグミヌ市になっている.

鉄道後進国ニッポン(ローカル電車もピッカピカ)

三セク鉄道というと,どういうイメージだろうか? こういう感じ?
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でも,これがドイツの三セク鉄道というと,こんな感じになる.
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まさしく「第三セクター舐めんなよ」である.
これは,カッセル市の近郊を走る電車で,線路はドイツ鉄道,その上を走る電車はカンタス鉄道という三セクのような会社の運営であり,車両はピカピカ.内装もピカピカ.車内では高校生がビールで酒盛りをしている(合法らしい).
資金構造が日本とは違うので,そのまま比較できないといえばそれまでだが,頭の思考回路を変換し,資金構造を変えれば,アウトバーンと自動車産業の国でもこういうことはできるのである.
鉄道後進国ニッポン,どうする?

リニア新幹線整備の理由(名古屋-大阪間:国土計画編)

リニア新幹線の東京-名古屋間については,経済効果はともかく,国土計画が40年前からずいぶん変化した現在においても,国土整備上の重要な理由が存在していることについては説明したとおりである.短期なら北陸新幹線経由で東西間を結べば数ヶ月程度なら我慢できる範囲だろう.しかし,年単位で不通の可能性があるなら,それでは具合が悪い.公式には数年単位の不通は無いことになっているが,不安な箇所が存在することは説明した通りである.
じゃぁ,名古屋-大阪間を現行計画のまま整備する理由は…?
んんんんんんんん……………………思いつかない.
確かに,中央新幹線の基本計画は奈良を経過地として指定してある.ただし,これは背景の政策が40年前の新全総であり,走行する乗り物として想定していたのは250km/h運転の団子っ鼻新幹線であった.びゅわーんびゅわーん走る,である.
残念ながら,その後の国土計画は「国土の均衡ある発展を目指した開発」の看板を下ろしてしまっている.最新の国土整備の方向性としては「国家のリスクマネジメント」であるとか「リニアを幹にして新幹線を支線に」であるとかという方針が出始めている.
そういった新しい国土整備の方向性の中で,リニア新幹線の名古屋から西はどこを走るべきか,というのは…議論されたことが…無い.「国家のリスクマネジメント」という観点だと,名古屋から西の区間についても大地震の影響を受けにくい経路を選ぶべきだという議論はあってもいいかもしれない.しかし,そうすると問題になってくるのは濃尾平野をリニア新幹線が通過することそのものだったり,果たして奈良盆地は大丈夫かとか,終点の大阪(新大阪駅?)はそもそも大丈夫かとか,そういう議論をしても良かったのだろうが,名古屋の西側については,議論はスルーで,「基本計画に書いてあるから」で終わっている.それでいいのか?
ほとんど議論に上らなかったが,首都機能の分散・移転と名古屋から西側のリニアの経路の関係はどうなんだ? これもかなり重要な議論なはずだが,基本計画に書いていることだけが理由でスルー…この国の国土計画や幹線鉄道計画は大丈夫か?
国土強靱化の基本計画が策定され,その中には計画のPDCAサイクルの実施が示されているが,日本の幹線鉄道計画はこのサイクルが欠如している.アカンやろ.
#東京オリンピックが決まるまでは,震災後と言うこともあって多少は首都機能に関する議論があった....がしかし,オリンピックが決まるとどこへやら.大災害はオリンピックがあるからといって待ってくれるわけではない.のど元過ぎるとすぐに忘れるという,日本人の悪いクセ.

日本に本物のBRTは出来るか?(オタワのバス専用道路)

ずいぶん昔に書いた話の蒸し返しで恐縮である.カナダの首都はオタワであり,トロントやモントリオールでは無いので念のため,
オタワに行くと…って,あんまり行く人はいないか…写真のような道路+駅のような施設がある.中央部の往復4車線道路はバス専用道路であり,左端に写っている2車線道路が一般道である.バス専用道路,名付けて,Transitway.
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写真の場所的には,このへん

駅部分が4車線で,駅間は2車線道路になっている.Googlemapでオタワを表示させておいて,「transitway」を検索すると最寄りの道路が示される.
ここまでするなら,確かに「Bus Rapid Transit」だ.日本の「BRT」の定義って何だったっけ???

トラム変幻自在(地下鉄直通編)

アムステルダムのLRTというか,低床でもないので,ほぼ郊外電車.床が高い以外は外観も内装もほぼLRTで,市の郊外住宅地を走り,線路も路面併用軌道ではなくて専用の軌道が準備されている.
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これが都心方向にしばらく走ると,屋根上の集電装置(パンタグラフ)をたたんでしまう.そして,地下線区間へ.
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地下はちょっと車体が小さめの地下鉄として走行し,終点へ.パンタグラフはたたんだまま.
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車体が小さいので,ホームとの隙間は,こういった風に自動で埋められる.
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電気は地下線区間では台車横のシューから取り入れられている.
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こういった形態の乗り物は日本でもあっていいのだが,残念ながら存在しない.通常の架空線から電気を取り入れたり,第三軌条から電気を取り入れたりといった両対応の電車については,「開発費用が高くついてペイしない」というのが理由で実現していない.だが,彼らはその「高い」はずの開発コストの壁をずいぶん前に越えてるんだが,このままでは日本人は劣っているということを証明してしまっていることになるんじゃないかな.

リニア新幹線大阪延伸前倒しへ…で終わりじゃないよ

こういう話がある.
<新成長戦略>リニア中央新幹線 大阪延伸前倒しを明記へ (毎日新聞) – Yahoo!ニュース.
「健全経営と安定配当が大前提」 リニア大阪前倒し開業論でJR東海社長 – MSN産経ニュース.
当初のリニア新幹線の大阪延伸計画は2045年.もちろん,大阪近辺では「もう死んどるわ」という感想を持って受け止められていたが,まずは(同時とは言っていないが)早期開業を目指す国の方針が出てきたことは喜ばしいことである.
ところで,早期開業ばかり注目を浴びているが,名古屋から西の区間については,整備計画の審議段階において大阪まで繋ぐことの重要性については確認できているが,その経路については十分な審議がされておらず,唯一の論拠が1973年に決めたから,だけである.
もちろん,国の決定は重要なのだが,何度も書くように当時の政策背景は新全総であり,昔風の言い方をするのならば新幹線のネットワークを全国に拡げる「新幹線の建主改従」であった.いっぽう,リニア新幹線は当の鉄道会社が声高らかに主張するように「バイパス」であり「改築」である.昔風に言うなら「新幹線の改主建従」である.世の中の政策も1970年代の高度成長の産めよ増やせよの時代ではなくなっており,同じ国土政策の方向性とは言い難い.
要するに,名古屋と大阪という両端はともかく,途中の通過経路はほんとにそれでいいのか,議論されていないのが問題だということである.現在の状態は言葉は悪いが名古屋以東の議論にくっついて西側の話も通ってしまった状態だといっても過言ではない.
建設前倒しの理由が「新たな成長戦略」であるならば,どういう経路が成長にとって最適であるのかは今一度考えた方がいいだろう.1970年代のように新線建設して新駅つくれば周辺に無条件で機能が張り付く時代ではなくなっている.
もし,この辺の舵取りを間違えて既存の大都市が衰退などすれば,「成長戦略」ではなくなるし,推進した関西の議員さん達は関西全体に目配せできるだけの慧眼を持っていなかったということになるし,東西間の輸送を一手に引き受けるんだと意気込んでいたはずの鉄道会社は沿線の顧客の利便を確保することが出来なかった田分け者の誹りを受けることになるし,いずれも歴史に名を刻んでしまうことだろう.(悪い意味で)

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(ゆっくりしろ編)

気になる反対論には,こういう意見もある.論点部分としては,こうである.

  •  しかし、環境評価書を提出したとはいえ、未解決の課題や不安は数多く残っている。このまま突き進んでよいのかと、思わずにはいられない。

ふむふむ,それで…?

  •  例えば、工事によって大量に発生する残土への懸念がある。東京−名古屋区間は南アルプスを貫通し、9割近くが地下かトンネルを通る。「土」より「岩」に近いものも含む残土が約5680万立方メートル(東京ドーム46杯分)発生すると言われる。

記事には具体的な部分としてこれしか書かれていないので,これが最重要項目だろうか?

  •  ところがその置き場や処分法はほとんど決まっていない。…(中略)…具体的なあてが示されているわけではない。

新聞社が懸念を示さなくても,工事実施計画の認可が待っているので,残土の処理が決まってないと許可が下りないでしょうねぇ.残土処理がいい加減で,大目玉食らった鉄道会社も過去にはありますので.…それで…?

  •  残土は、土砂崩れを起こす危険があるほか、運搬の過程で周囲の動植物や景観に影響を与える恐れもある。本来なら、残土の処理計画を明確にし、それが環境上、問題のないことを具体的に確認したうえで評価書をまとめるべきだが、そうした作業は工事の認可後となる見通しだ。

…? 誰の見通し? 新聞社の見通し? そういう予定が公表されたの? そこ大事なんだけど.そこ明らかじゃないと,結論部分が導けないんだけど.肝心な部分ぼかさないでね.新聞社の憶測? 誰の見通し?

  •  一度、走り出せば…(略)…である。「着工ありき」ではなく、環境、安全、経済合理性など、幅広く、長期的な観点から、精査を尽くすべきだ。認可決定前に、国会で徹底審議を行ってもらいたい。

環境と,安全と,経済合理性は,名古屋から東部分については整備計画に関する答申を出す段階で審議されてますが…??? 新聞社がよくわからないから,もういっぺん国会でやって欲しいという話かな? 公表資料読めば書いてあるけど.名古屋から東部分は.(名古屋から西部分は,かなり曖昧,というか議論はほとんどされていない)
以下,米国への売り込みの話が続くが,話が発散するので略.

  •  一方、自民党内では関西選出の議員らが、45年に予定されている大阪までの延伸を、国の資金を使って前倒しするよう政府に求めた。JR東海が総工費9兆円を見込む国家的巨大事業だ。長期の視点に立って、冷静に再点検しても時間の無駄にはならないはずだ。

長期の視点に立つと,大阪延伸が20年弱遅れることが看過できないから,急いでいるわけだが.急いでいる理由知らないのかな,この新聞社は.名古屋-東京間もゆっくりできない理由があるんだが.こっちも急いでいる理由知らないのかな,この新聞社は.

リニア新幹線整備の理由(名古屋-大阪間:混み具合編)

リニア新幹線の現行計画では,名古屋-大阪間を奈良経由で結ぶことになっており,結構大きな都市である京都をスルーすることになっている.リニア新幹線と既存の東海道新幹線の分担予想は,東京−大阪間全体で概ね半分程度とされているが,はて,ちょと待てよと思う.
この予測の内訳や計算方法等詳細については公表されていないが,例えばこういうことを前提にしてないだろうか?

  1. 京都発着の客は乗り換えが面倒なので,横浜や東京(品川)に行く場合も東海道新幹線を使い続ける
  2. 横浜発着の客は新横浜から東海道新幹線を使って西にゆく
  3. 山陽新幹線方面から来る客で名古屋までの客は東海道新幹線を必ず使う

1.について考えてみると…
S:京都→(のぞみ119分)→新横浜→(JR13分)→横浜:途中のロス込みで139分
L:京都→(のぞみ36分)→名古屋→(リニア40分)→品川→(JR16分):ロス込みで122分(17分早い)
S:京都→(のぞみ119分)→品川:134分
L:京都→(のぞみ36分)→名古屋→(リニア40分)→品川:ロス込みで91分(43分早い)
ということで,急ぐ人は横浜ですらリニア経由の方が早いので,大半の京都発着の人はリニアに乗り換えてしまいそう.そうすると,リニアの座席は新大阪-名古屋間で空席になりやすいということか?

次は2.について考えてみよう…
S:横浜→(JR11分)→新横浜→(のぞみ82分)→名古屋:途中のロス込みで107分
L:横浜→(JR16分)→品川→(リニア40分)→名古屋:途中のロス込みで71分(36分早い)
ということで,新横浜の次の駅の名古屋ですら東海道新幹線には乗りそうもない.

さらに3.については…
S:(新大阪以遠)→(のぞみ52分)→名古屋:52分
L:(新大阪以遠)→(リニア25分)→名古屋:途中のロス込みで40分(12分早い)
ということで,比較的近距離のはずが,リニアの方が早い.

時間だけで言えば,いずれもリニアの勝利.ただ,乗換1回あたり時間換算30分前後のロスと同程度という話もあるので,3.については新幹線乗り通しが標準かなぁ.大阪発着については,もちろんリニア一択.
そうすると見えてくるのは,全線開業時には「予想以上にリニア大人気!特に東京-名古屋間は席を確保しにくいPlatinumチケット!」という風景だが,その陰で,リニアの新大阪-名古屋間は割と空いているという感じだろうか? その空きは名古屋-新大阪間のリニア区間客で埋まるからいいんだろうか.
これを京都経由にするとどう変化するだろうか.京都から名古屋でリニアに乗り換える客の分,新大阪-名古屋間の空席は少なくなる一方で,名古屋-新大阪間の客の分が減る?…ちゃんと数字拾って計算しないと難しいなぁ.
まぁ,そんな難しいこと考えなくても,現状の東海道新幹線はピーク時でも無い限り毎時片道9本でリニアの片道本数と同じ.座席は普通車5列がリニアで4列になるが,どうせ「B席」はピーク時間帯を除いて空いていることが多いので,京都経由でも名古屋-大阪間は大半の時間帯は問題なし(現状の東海道新幹線と大差なし).
リニアの品川-名古屋間については,京都を通ろうが奈良を通ろうがPlatinumチケットということになるだろうか.