リニア」タグアーカイブ

新聞記事の精度(中日新聞編)

最近,リニア関係で取材を受けることが多いのだが,記事になった文字を見るとなんか違和感のあることが多い.文字数が制限され散る中で多くを記述しようとしたり,記者の理解度が低いがために,よくわからない部分を記者が想像で加筆したケースだと思うが,例えば,中日新聞2014年6月2日(月)夕刊E版10面には…

  • 「法的には京都は外堀を埋められた状況.『同時開業』に近畿が一枚岩になる中,足も引っ張れないだろう.逆転のハードルは五十年前よりも高い.」

…と話したように見えるが,カギ括弧がついているからと言って,その中味が編集されていないということはなく,突っ込みどころは多い.
法的に外堀が埋まっているのは確かだが,「『同時開業』に近畿が一枚岩になる中,」とは言ってない.明らかに各府県の思惑が違うので,一枚岩などと言う言葉は使うはずもなく,実態は呉越同舟の方が近いぞ.一枚岩は,記者がそう思い込んでいるのだろう.(個人的には,「一枚岩」という表現は全体主義を想起させるような気がして好きではないので,使わない.)
それから,「足も引っ張れないだろう.」とも言ってない.”足を引っ張る”というのは誰かが悪者である前提の表現だが,奈良も,京都も,どちらかが悪いとも言ってない.敢えて言うなら,長期間にわたって幹線鉄道政策を放置してきた政府と国会かもしれない.
後半部のカギ括弧内もやはり編集されている.こちらは文字数を抑えるために何が言いたいのかわかりにくくなっているケースだが…

  • 「かつての城下町や宿場が近代以降,主要鉄道網から外れ,都市として成長力を失った例は多い.京都がそうなってもいいのか.これまで新幹線誘致などで耐え抜いてきた意味を全国にいかに広く問えるかだ」

…と話したかのように見えるが,これも記者の言葉である.前半部はともかく,最後の一文の意味がよくわからない.主語は何?? 何を”超訳”してこういう風に記述したのか,取材時の話を思い返してみてもよくわからないが,こういうことだろうか?
修正案

  • 「かつての城下町や宿場が近代以降,主要鉄道網から外れ,都市として成長力を失った例は多い.京都がそうなってもいいのか.(全国には,)これまで新幹線誘致などで耐え抜いてきた(都市や地域が少なくないが,そういった都市や地域がなぜそこまでして誘致し続けているかの)意味を全国にいかに広く問えるかだ(.)」

リニア新幹線整備の理由(どうしてこうなった編)

リニア新幹線の計画過程に限らず,残念ながら,わが国の近年の新幹線計画は総じてグダグダである.
本来なら社会の状況が変わるたび,いや,法令に書いてあるとおりに国土整備の方向性などが変わるたびに計画を見直して行かなくてはいけないのだが,猪突猛進,いっぺん決めたら方向が変えられない.突っ走っているならまだしも,行き詰まっていても方向が変えられない.あらら,困った,困った.(いっぺん決めたことを再検討すると,議論噴出しそうで怖いから手を付けない,パンドラの箱だと思ってるのだろう.)
いわゆるPDCAがまわってない状態である.Plan-Do-Check-Action…全国大学の土木系教室を悩ませているあのシステムである.見事に存在しない.企業の方には,ISO9000シリーズといった方が分かりやすいか.
政府担当部署の内部的にはOKなのかもしれないが,昨今の世間的にはNGな事務システムであ

リニア新幹線整備の理由(名古屋-大阪間:国土計画編)

リニア新幹線の東京-名古屋間については,経済効果はともかく,国土計画が40年前からずいぶん変化した現在においても,国土整備上の重要な理由が存在していることについては説明したとおりである.短期なら北陸新幹線経由で東西間を結べば数ヶ月程度なら我慢できる範囲だろう.しかし,年単位で不通の可能性があるなら,それでは具合が悪い.公式には数年単位の不通は無いことになっているが,不安な箇所が存在することは説明した通りである.
じゃぁ,名古屋-大阪間を現行計画のまま整備する理由は…?
んんんんんんんん……………………思いつかない.
確かに,中央新幹線の基本計画は奈良を経過地として指定してある.ただし,これは背景の政策が40年前の新全総であり,走行する乗り物として想定していたのは250km/h運転の団子っ鼻新幹線であった.びゅわーんびゅわーん走る,である.
残念ながら,その後の国土計画は「国土の均衡ある発展を目指した開発」の看板を下ろしてしまっている.最新の国土整備の方向性としては「国家のリスクマネジメント」であるとか「リニアを幹にして新幹線を支線に」であるとかという方針が出始めている.
そういった新しい国土整備の方向性の中で,リニア新幹線の名古屋から西はどこを走るべきか,というのは…議論されたことが…無い.「国家のリスクマネジメント」という観点だと,名古屋から西の区間についても大地震の影響を受けにくい経路を選ぶべきだという議論はあってもいいかもしれない.しかし,そうすると問題になってくるのは濃尾平野をリニア新幹線が通過することそのものだったり,果たして奈良盆地は大丈夫かとか,終点の大阪(新大阪駅?)はそもそも大丈夫かとか,そういう議論をしても良かったのだろうが,名古屋の西側については,議論はスルーで,「基本計画に書いてあるから」で終わっている.それでいいのか?
ほとんど議論に上らなかったが,首都機能の分散・移転と名古屋から西側のリニアの経路の関係はどうなんだ? これもかなり重要な議論なはずだが,基本計画に書いていることだけが理由でスルー…この国の国土計画や幹線鉄道計画は大丈夫か?
国土強靱化の基本計画が策定され,その中には計画のPDCAサイクルの実施が示されているが,日本の幹線鉄道計画はこのサイクルが欠如している.アカンやろ.
#東京オリンピックが決まるまでは,震災後と言うこともあって多少は首都機能に関する議論があった....がしかし,オリンピックが決まるとどこへやら.大災害はオリンピックがあるからといって待ってくれるわけではない.のど元過ぎるとすぐに忘れるという,日本人の悪いクセ.

リニア新幹線大阪延伸前倒しへ…で終わりじゃないよ

こういう話がある.
<新成長戦略>リニア中央新幹線 大阪延伸前倒しを明記へ (毎日新聞) – Yahoo!ニュース.
「健全経営と安定配当が大前提」 リニア大阪前倒し開業論でJR東海社長 – MSN産経ニュース.
当初のリニア新幹線の大阪延伸計画は2045年.もちろん,大阪近辺では「もう死んどるわ」という感想を持って受け止められていたが,まずは(同時とは言っていないが)早期開業を目指す国の方針が出てきたことは喜ばしいことである.
ところで,早期開業ばかり注目を浴びているが,名古屋から西の区間については,整備計画の審議段階において大阪まで繋ぐことの重要性については確認できているが,その経路については十分な審議がされておらず,唯一の論拠が1973年に決めたから,だけである.
もちろん,国の決定は重要なのだが,何度も書くように当時の政策背景は新全総であり,昔風の言い方をするのならば新幹線のネットワークを全国に拡げる「新幹線の建主改従」であった.いっぽう,リニア新幹線は当の鉄道会社が声高らかに主張するように「バイパス」であり「改築」である.昔風に言うなら「新幹線の改主建従」である.世の中の政策も1970年代の高度成長の産めよ増やせよの時代ではなくなっており,同じ国土政策の方向性とは言い難い.
要するに,名古屋と大阪という両端はともかく,途中の通過経路はほんとにそれでいいのか,議論されていないのが問題だということである.現在の状態は言葉は悪いが名古屋以東の議論にくっついて西側の話も通ってしまった状態だといっても過言ではない.
建設前倒しの理由が「新たな成長戦略」であるならば,どういう経路が成長にとって最適であるのかは今一度考えた方がいいだろう.1970年代のように新線建設して新駅つくれば周辺に無条件で機能が張り付く時代ではなくなっている.
もし,この辺の舵取りを間違えて既存の大都市が衰退などすれば,「成長戦略」ではなくなるし,推進した関西の議員さん達は関西全体に目配せできるだけの慧眼を持っていなかったということになるし,東西間の輸送を一手に引き受けるんだと意気込んでいたはずの鉄道会社は沿線の顧客の利便を確保することが出来なかった田分け者の誹りを受けることになるし,いずれも歴史に名を刻んでしまうことだろう.(悪い意味で)

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(ゆっくりしろ編)

気になる反対論には,こういう意見もある.論点部分としては,こうである.

  •  しかし、環境評価書を提出したとはいえ、未解決の課題や不安は数多く残っている。このまま突き進んでよいのかと、思わずにはいられない。

ふむふむ,それで…?

  •  例えば、工事によって大量に発生する残土への懸念がある。東京−名古屋区間は南アルプスを貫通し、9割近くが地下かトンネルを通る。「土」より「岩」に近いものも含む残土が約5680万立方メートル(東京ドーム46杯分)発生すると言われる。

記事には具体的な部分としてこれしか書かれていないので,これが最重要項目だろうか?

  •  ところがその置き場や処分法はほとんど決まっていない。…(中略)…具体的なあてが示されているわけではない。

新聞社が懸念を示さなくても,工事実施計画の認可が待っているので,残土の処理が決まってないと許可が下りないでしょうねぇ.残土処理がいい加減で,大目玉食らった鉄道会社も過去にはありますので.…それで…?

  •  残土は、土砂崩れを起こす危険があるほか、運搬の過程で周囲の動植物や景観に影響を与える恐れもある。本来なら、残土の処理計画を明確にし、それが環境上、問題のないことを具体的に確認したうえで評価書をまとめるべきだが、そうした作業は工事の認可後となる見通しだ。

…? 誰の見通し? 新聞社の見通し? そういう予定が公表されたの? そこ大事なんだけど.そこ明らかじゃないと,結論部分が導けないんだけど.肝心な部分ぼかさないでね.新聞社の憶測? 誰の見通し?

  •  一度、走り出せば…(略)…である。「着工ありき」ではなく、環境、安全、経済合理性など、幅広く、長期的な観点から、精査を尽くすべきだ。認可決定前に、国会で徹底審議を行ってもらいたい。

環境と,安全と,経済合理性は,名古屋から東部分については整備計画に関する答申を出す段階で審議されてますが…??? 新聞社がよくわからないから,もういっぺん国会でやって欲しいという話かな? 公表資料読めば書いてあるけど.名古屋から東部分は.(名古屋から西部分は,かなり曖昧,というか議論はほとんどされていない)
以下,米国への売り込みの話が続くが,話が発散するので略.

  •  一方、自民党内では関西選出の議員らが、45年に予定されている大阪までの延伸を、国の資金を使って前倒しするよう政府に求めた。JR東海が総工費9兆円を見込む国家的巨大事業だ。長期の視点に立って、冷静に再点検しても時間の無駄にはならないはずだ。

長期の視点に立つと,大阪延伸が20年弱遅れることが看過できないから,急いでいるわけだが.急いでいる理由知らないのかな,この新聞社は.名古屋-東京間もゆっくりできない理由があるんだが.こっちも急いでいる理由知らないのかな,この新聞社は.

リニア新幹線整備の理由(名古屋-大阪間:混み具合編)

リニア新幹線の現行計画では,名古屋-大阪間を奈良経由で結ぶことになっており,結構大きな都市である京都をスルーすることになっている.リニア新幹線と既存の東海道新幹線の分担予想は,東京−大阪間全体で概ね半分程度とされているが,はて,ちょと待てよと思う.
この予測の内訳や計算方法等詳細については公表されていないが,例えばこういうことを前提にしてないだろうか?

  1. 京都発着の客は乗り換えが面倒なので,横浜や東京(品川)に行く場合も東海道新幹線を使い続ける
  2. 横浜発着の客は新横浜から東海道新幹線を使って西にゆく
  3. 山陽新幹線方面から来る客で名古屋までの客は東海道新幹線を必ず使う

1.について考えてみると…
S:京都→(のぞみ119分)→新横浜→(JR13分)→横浜:途中のロス込みで139分
L:京都→(のぞみ36分)→名古屋→(リニア40分)→品川→(JR16分):ロス込みで122分(17分早い)
S:京都→(のぞみ119分)→品川:134分
L:京都→(のぞみ36分)→名古屋→(リニア40分)→品川:ロス込みで91分(43分早い)
ということで,急ぐ人は横浜ですらリニア経由の方が早いので,大半の京都発着の人はリニアに乗り換えてしまいそう.そうすると,リニアの座席は新大阪-名古屋間で空席になりやすいということか?

次は2.について考えてみよう…
S:横浜→(JR11分)→新横浜→(のぞみ82分)→名古屋:途中のロス込みで107分
L:横浜→(JR16分)→品川→(リニア40分)→名古屋:途中のロス込みで71分(36分早い)
ということで,新横浜の次の駅の名古屋ですら東海道新幹線には乗りそうもない.

さらに3.については…
S:(新大阪以遠)→(のぞみ52分)→名古屋:52分
L:(新大阪以遠)→(リニア25分)→名古屋:途中のロス込みで40分(12分早い)
ということで,比較的近距離のはずが,リニアの方が早い.

時間だけで言えば,いずれもリニアの勝利.ただ,乗換1回あたり時間換算30分前後のロスと同程度という話もあるので,3.については新幹線乗り通しが標準かなぁ.大阪発着については,もちろんリニア一択.
そうすると見えてくるのは,全線開業時には「予想以上にリニア大人気!特に東京-名古屋間は席を確保しにくいPlatinumチケット!」という風景だが,その陰で,リニアの新大阪-名古屋間は割と空いているという感じだろうか? その空きは名古屋-新大阪間のリニア区間客で埋まるからいいんだろうか.
これを京都経由にするとどう変化するだろうか.京都から名古屋でリニアに乗り換える客の分,新大阪-名古屋間の空席は少なくなる一方で,名古屋-新大阪間の客の分が減る?…ちゃんと数字拾って計算しないと難しいなぁ.
まぁ,そんな難しいこと考えなくても,現状の東海道新幹線はピーク時でも無い限り毎時片道9本でリニアの片道本数と同じ.座席は普通車5列がリニアで4列になるが,どうせ「B席」はピーク時間帯を除いて空いていることが多いので,京都経由でも名古屋-大阪間は大半の時間帯は問題なし(現状の東海道新幹線と大差なし).
リニアの品川-名古屋間については,京都を通ろうが奈良を通ろうがPlatinumチケットということになるだろうか.

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(番外編+まとめ)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの番外編.フルバージョンだけに書いてある内容である.

  • 番外編:リニアに「まちづくり」の将来をかけていいのか――“過大な期待による過大な投資”は地域経済を押しつぶす

旧タイプの新幹線でも,いろいろと期待するけど,リニアは超高性能新幹線なので,『「まちづくり」の将来をかける』のは普通の行動だろう.この千載一遇のチャンスを逃してなるものか,というのが普通の行動.もちろん,「過大な投資」というよりは「的外れな投資」は意味が無いが,千載一遇のチャンスを見す見す逃すなどあり得ない.

  • 新幹線開通後の地方経済をみると、「効果」だけではなく、「ストロー現象」の影響も慎重な検討が必要である

新幹線の無い地方を見てから言った方がいいですよ.新幹線があった方がマシ.無いともっと悲惨な状況になってますよ. そういう場所には,新幹線も高速道路も無くて,なかなか遊説に訪れる機会そのものが少ないかもしれませんけど.
「ストロー」については,新幹線に限らず,交通機関で結ばれると,結ばれた地域が相互に変化してゆきます.とある機能に着目すると肥え太るものもあり,別の機能はやせ細るものもあり,全体としては適材適所に機能が再編されてゆき,「選択と集中」状態になって効率が上がります.新幹線で結ばれた都市群システムに組み込まれて,特定の機能に特化してしまうけどみんなで賑やかにやってゆくのか,それとも,どことも結ばれること無く従前のまま細々と(多くの場合,先細りで)独りでやってゆくのか.どちらかなんですよ.
「リニア頼みじゃ無い策」で,なおかつ「リニア頼みに匹敵する策」って何かありますか? 具体的に!と言われると,小規模なものを除いてあんまり思いつかないでしょ?あれば,もうやってますよ.

  • まとめ:「多様な意見」は重要だが,多少調べてから意見を組み立てた方がいい項目が多そう. 

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(安全確保編)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの5つ目である.フルバージョンはこちら.

  • 5つ目:運転手が乗車せず遠隔操縦で運行するなど、安全確保への大きな不安を“置き去り”にする建設になっている

すいません,これ見たとき,思わず笑ってしまいました.これじゃぁ,この指摘主は今走っている普通の新幹線にも乗れないなぁ,って.失礼,すいませんwww.こういうご懸念,数十年前の東海道新幹線の建設時にも某新聞がネガキャンしてましたよね.
じゃぁ,ちゃんと説明します.全ての交通機関が目視運転で安全確保されているかというと,そうではなくて,適切な保安装置があってはじめて安全確保できます.逆に適切な保安装置が無ければ,いくら運転士が乗っていても安全ではありません(例えば尼崎の列車事故).完全に目視確認だけで運転している鉄道は路面電車くらいなものです.
リニアの前に,普通の新幹線について書いておくと,新幹線の運転士の目視で確認できるのはせいぜい数百メートルだそうで,運転士が「危ない」って感じて即座にブレーキをかけても,200−300キロで走っている場合には絶対にそこまでには止まれないそうです(新幹線の運転免許を持っている方に聞いた話).2kmくらい走ってしまいますから,全く役に立ちません.
特に夜間や雨天時は顕著で,夜間に前照灯が照らせるのはせいぜい100−200メートル程度で,前を見ることについて言えばほとんど役に立たないようです.あれは列車の前か後ろかを識別するという役割が大きいようです.(新幹線の前照灯の正規式名称には「照」の字が入って無かったと思う.)
雨天時は雨粒が窓に当たって前方はほとんど何も見えないそうで,どこを走っているのかは,運転席の横の窓を見ながら風景で判断するそうです.そういうわけで,新幹線の運転士には前方注意義務が無いそうです(在来線の運転士には前方注意義務があるらしい).
じゃぁ,どうやって安全を確保しているかというと,線路に特殊な電流を流しておいて列車の存在を感知しておき,列車間隔が詰まってしまったり駅が近づいたりした場合には,列車の車載装置が自動的にブレーキをかけます.この自動ブレーキは非常ブレーキでは無くて,毎日毎列車駅が近づく毎に使われています.運転士が手動操作するのは列車のドアと乗客の列をぴったり合わせる微調整操作くらいで,停車動作については現時点で既にほとんど自動運転になっています.
倒木や崖崩れ等を検知する装置がついている箇所もあります.このへんは検知装置が無いと目視で見つけても間に合いません.つまり,リニア以前に,現時点で既に高速鉄道の安全は機械に頼ったものになっています.
リニア新幹線にも類似の保安システムを入れることくらいは検討しているでしょう.「機械は信用できん!」と言われてしまえばそれまでですが,それじゃぁ,エレベータは怖くて乗れないよね.
#必ずしも「運転士がいない」=「乗務員がいない」では無いことに注意すべし.
#運転士に前方注意義務の無いような交通機関だが,天皇陛下もご乗車されている.

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(環境編)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの4つ目である.フルバージョンはこちら.

  • 4つ目:リニアは使用電力が新幹線の3倍以上で、エネルギー浪費型の社会、交通体系を導入することには道理がない

そこだけ取り上げればその通りなのだが,やはり見落としがある.この部分は鉄道会社も見落としているんじゃないかと思われる.
単純に東京−大阪間の既存の新幹線客をリニア新幹線にシフトするだけだと,おっしゃるとおり,エネルギー効率が悪くなってしまう.ところが,そのエネルギー効率があまりよろしくないリニアよりもさらに効率の悪い交通機関がいくつか存在する.航空と道路輸送である.
東京側から見た大阪以遠,もしくは大阪側から見た東京以遠の区間で,現状において航空依存の区間というのが存在する.例えば東京−九州などだ.これがリニア開業によって競争力が上がり,新幹線+リニアに置き換えることができれば国土全体ではエネルギ効率が上がる.
それから,(こういう話は当の鉄道会社はあまりいい顔をしていないようだが)リニア完成後に比較的暇になった東海道新幹線を使って物流などを行ってトラック輸送の一部を置き換えることができれば,これもエネルギ効率が上がる.
木を見て森を見ていない批判的意見ですね.(鉄道会社もPRが下手)
「リニア新幹線じゃ無くて,時速350キロ運転,いや出来れば400キロ運転の鉄輪式新幹線にすべきだ.そうすればリニアに比べて10〜20分ほど遅いだけで,他の路線とも直通できるし,エネルギ消費も少ないし,部分開業しても乗り換えさせる必要が無いし,方式変更すべきだ」という批判建設的代案の提案ならわからないでもない.…が,とにかくリニアが憎いようである.批判するなら合理的に.

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(地震対策・復興編)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの3つ目である.フルバージョンはこちら.

  • 3つ目;リニア建設でなく、東海道新幹線の地震・津波対策や東日本大震災からの鉄道網の復旧を行うべきである

これには論点が3つ含まれている.

  1. 東海道新幹線の地震対策をすべし
  2. 東海道新幹線の津波対策をすべし
  3. 震災復旧を優先すべし

まず,地震対策であるが,これはやっている.指摘主は調査不足.やっているのにやってないというのは,さすがに鉄道会社がかわいそうである.これ以上を望むのならば,線路を揺れが襲わない地域に付け替えるか,軌道をジェットコースターのような真っ逆さまになっても脱線しない構造(レールをパイプにして,三方向からがっちり抱え込む形式)に変更するかくらいしか無い.何でも言えばよい,とうわけではない.抜き書きすると,こういうを対策実施中のようだ.

  1. 構造物および軌道の強化
    • 高架橋の耐震補強
    • 橋脚・盛土の耐震補強
  2. 列車を早く止める対策
    • 沿線に地震計を配備
    • 地震動早期検知警報システムを導入(非常停止)
  3. 脱線・逸脱防止対策
    • 脱線防止ガード
    • 逸脱防止ストッパ
    • バラスト流出、盛土沈下、高架橋変位を抑制

次に津波対策であるが,これについて鉄道会社は「津波の影響はない」と言っているので,たぶん,公式には何もしていないだろう.『静岡文化芸術大の磯田道史准教授が浜名湖上を通過する東海道新幹線の津波に対する安全性に疑問を投げ掛けていることに関して「どういう根拠で言っているか分からない」と指摘』しているそうだが,公式公開資料と現地調査だけでもこういった分析ができてしまうので,やはり要注意箇所は存在する.歴史の忠告は無視すべきでない,というのは東北の震災の教訓ではなかったか?
津波対策と言っても,線路に沿って万里の長城のような防波堤を建設するわけにもいかない.危ない箇所は線路を付け替えるというのが通常の対策方法であり,例えば浜名湖を大きく迂回するか,あるいはリニア新幹線のように完全に別経路を準備するかということになる.ということなので,リニアを建設して東西間輸送を確実にするという判断は,有効な方法の一つである.
最後に東日本大震災の鉄道復旧の部分だが,そもそも鉄道会社が違うし,鉄道路線の目的も違うし,同じリソースを両者で奪い合っているわけでもない.復旧が遅いとすれば,それは(この震災に限らず),鉄道の災害復旧政策がイマイチだということであり,たたく相手を間違っている.
フルバージョンには,9兆円も金があるのなら国鉄の借金返済に充てて,それを原資に復旧すべしと書いてあるようだが,国鉄再建の枠組みを30年近くたってちゃぶ台返しする話である.事業再生の基本的な手法を知らないんだろうか.国家権力振り回して国庫に納めさせるのか?この国は独裁国家ではない.JR東海はリニア建設という形で「国家的事業」に儲けた金をつぎ込むことで,国民に利益還元しようとしていると思うが,まぁ,話が噛み合いそうにないので,この辺で.