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KIX-エクスプレスのラフ検討

関西国際空港へアクセス鉄道としてリニアを整備せよ,という構想がある.おそらく上海のトランスラピッドに感化されたものだと思うが,果たして芽があるかどうか,ラフなフィージビリティスタディをしてみよう.起点を新大阪にすると,関空までの最短の鉄道延長は約50kmであるので,この数字を使ってみる.
最高速度を500km/h,加速度および減速度を山陽新幹線なみの2.5km/h/sとすると,加減速に要する時間は各200秒である.このとき,加減速時の平均速度は250km/hであることから,加減速時に要する走行距離は各々13.9kmと計算できる.残りの22.2kmが500km/hでの巡航となり,これに要する時間は160秒である.結局,合計560秒(=9.3分)が全区間の所要時間となり,特急はるかの48分と比べて38.7分の短縮である.建設費は東京-大阪間が約9兆円なら,1/10程度の距離なので9000億円といったところか.
次に,加減速度を阪神電車なみの4km/h/sにしてみると,加減速に要する時間は各125秒,加減速時に要する走行距離は8.7km,500km/hでの巡航距離は32.6km,走行時間235秒となり,合計485秒(=8.1分)が全区間の所要時間である.特急はるか比39.9分の短縮.
じゃぁ,通常タイプの新幹線ならどうだろうか. 最高速度を250km/h,加減速度を2.5km/h/sとすると(実際には速度が上がると加速度が落ちるが),加減速に要する時間は各100秒,加減速時に要する走行距離は3.5km,250km/hでの巡航距離は43km,走行時間619秒となり,合計819秒(=13.7分)が全区間の所要時間である.特急はるか比34.3分の短縮.建設費は最近の整備新幹線の見積である100億円/kmをもとにすると,5000億円か.
ついでなので,最高速度160km/hの在来線タイプならどうだろうか.加減速度を2.5km/h/sとすると,加減速には各64秒,その間の走行距離は1.4km,160km/hでの巡航距離は47.2km,走行時間1061秒となり,合計1189秒(=19.8分)である.特急はるか比28.2分の短縮.建設費はあんまり安くはならないので,5000億円程度か.
まとめると,こうなる.さて,どれを選ぶ?

建設費 所要時間 短縮 △1分あたり
リニア新幹線500km/h 9000億円 8.1分 △39.9分 226億円/分
通常新幹線250km/h 5000億円 13.7分 △34.3分 146億円/分
在来線160km/h 5000億円 19.8分 △28.2分 177億円/分

どうしてできない新幹線(鉄道「政策」の上下分離を)

(ずいぶん昔だが)鉄道事業法が改正になって,線路の保有(第三種)と列車の運行(第二種)が別事業として実施できるようになった.もちろん,両方一体でもできる(第一種).いわゆる「上下分離」である.最近はLRT事業を睨んで,軌道事業でも似たようなスタイルが導入できるようになってきている.
ところで一方,トラック事業とかバス事業はどうだろうか.もちろん道路を運輸業者が自ら造って,その上でトラックとかバスを運行しても構わないのだが,通常はそんなことはせずに道路は公共(あるいは,それに近い事業体),走行する車両は事業者という分担が普通である.
さて本題である.鉄道の重要性が見直されていると言われている昨今だが,その割にはさっぱり整備が進まない.正便益不採算(*)が原因だとかなんだとかいろいろ言われているが,政策の上下分離ができていないことも原因ではないだろうか.経営の上下分離にあらず.
(*)社会的には事業実施した方がメリットが大きいことは明白なのだが,企業会計的には赤字になるので民間事業のような形態では成立させにくい,という話.
バス事業だと,インフラ部分の整備は公共で道路や街路などのインフラ整備部門のお仕事.その上は民間のバスが走り,これの管理・監督は公共の運輸部門のお仕事である.じゃぁ,同じようなシステムを鉄軌道にも導入したらどうだろうか.つまり,インフラ部分の整備は公共のお仕事なんだがインフラ整備専門部門のお仕事.その上を走行する車両等のシステム管理は,同じく公共のお仕事なんだが運輸システム専門部門のお仕事.
ちなみに現在の鉄道関係では,下物のインフラ整備部分も上物の運輸そのものの管理も同じセクションのお仕事.わが国でも交通基本法が導入され,通路概念に近いものが入ってきているので,通路確保のお仕事と,それを使って実際に運ぶお仕事を概念的に分離して,実際の政策も分離した方がいいのではないだろうか.
国土交通省が発足してもうすぐ15年.未だ何も変わらないというのでは,省庁再編の意味があったのか?

どうしてできない新幹線(「しない」シリーズ編)

  • Question:これ,なーんだ?
  1. 政策立案しない
    • 40年前の政策のまま.国土政策が大きく変わっているのに,鉄道政策はそのままでいいのか?
  2. 財源確保しない
    • 特定財源無し.他の資金確保の案なし.新幹線建設の純粋な国費は公共事業支出の1%程度です(国家予算の1%ではありません).
  3. 予算確保しない
    • 予算要求は前年度踏襲すればいい方で,工事が一段落することを理由に減額要求すらしかねない状況にある.国土強靱化のような「千載一遇のチャンス」も見す見す逃しつつある.
  4. ”ご説明”しない
    • キーパーソンへの働きかけしない.国会答弁もしどろもどろで,よく聞いていても,主語と述語の対応関係もよくわからない状況.
  5. 主導権発揮しない
    • イニシアチブとらないので,いろんな局面で姿が見えない.
  6. PRしない
    • 本来は鉄道の社会的重要性の広報を率先してしなければならないはずだが,不十分.Webサイトは最近ちょっとマシになったが,まだ貧弱.
  7. 工夫しない
    • 旧来の手法に凝り固まっており,新しい鉄道システムなどの工夫がほとんどない.
  8. 調査しない
    • 自ら調査はせず,外郭団体や民間会社まかせ.
  9. 設計しない
    • もちろん,設計も外郭団体や民間会社まかせ.
  10. 施工しない
    • 当然だが,工事も外郭団体や民間会社まかせ.
  11. 運営しない
    • まぁ,当たり前だが民間会社のお仕事なので.
  • Hint:業界では「お公家様」と呼ばれているらしいです.
  • #「しない」が入ってないけど,「鉄道に対する愛情がない」とか「国民の方を向いていない」とかも付け加えてもいいかも.管理するだけで,このすばらしいものを拡げよう,活用しようという姿勢が感じられないんだが.ここが活躍しなければ,他には該当するセクションがないんだが.

新聞記事の精度(京都民報編-その1)

次は京都民報という左系のタブロイド紙の場合である.なるべく正しい情報を得ていただくために,(超繁忙期とか,原始的な質問過ぎる場合を除いて)新聞や放送番組等への情報提供は基本的には断わらないのでこの紙の取材にも応じた.波床の名前が出てこなくても,提供した情報に基づいて記者の独自の分析で記事が書かれていることもある.そういった中,この紙の記事は久々に見る違和感である.カギ括弧の中が編集されていることはもちろん,私以外の各所への取材結果についても切り貼りして記者に都合の悪い部分は切り捨てられているので,事実関係をまとめたというよりは,全体の主張は記者の創作意見である.…というか,週刊誌みたいな書き方なわけやね(ぁ,週刊誌か).
京都民報2014年6月15日版には…

  • (タイトル部分)「ルート変更は困難」「推進派ブレーンが明言」

…と書いてあるが,まず,「推進派」じゃねぇよ,だ.市民でもなければ府民でもなく,職場も大阪平野の端っこなんだが.この紙に限らず,マスコミはラベルを貼りたがる傾向にある.そうした方が自分の意見を書きやすくなるのでそうしたがるんだろうと思うが,そんな単純ではない.リニア新幹線全線早期開業に関しては遅れると国土の二眼構造を崩しかねないので「推進」だが,ルートに関しては特にどれも推してませんが.事実関係をなるべく正しく伝えるのが社会的使命だと思っているので,特定の立場はとってないですよ.全線早期開業以外では,国の整備計画に関する審議過程が法令の想定する過程と異なっているのでダウトだと言ってはいますが,ルートは特にどれを推進とは言ってないんですがね.(機会は少ないが)奈良県内のルートで揉めてる件について聞かれれば,奈良県内ルート各案の長所短所など説明したりしてますけど.
次に,「ブレーン」の部分だが,もし私が京都市のブレーンならば,この京都民報紙を含めて複数の新聞や通信社などのブレーンということにもなってしまう.特定の立場に対して特定の情報提供はしてないですよ.市に対して説明している内容,京都民報紙に対して説明している内容,その他で説明している内容は,質・量ともにほとんど同じです.テキトーなラベル貼り作業はやめましょう.
それから,記事冒頭のリード部分だが…

  • …(略)…しかし推進派のブレーンは「誘致は困難」と明言.…(略)…

…明言してねぇよ.カギ括弧付けて印象操作するのはやめましょう.カギ括弧は実際に口から音波として発している必要があるとともに,抜き出すなら文意が伝わる範囲にしなければならないんだが.特に「明言」と書く場合は実際にそう発言してないと書いちゃあいけません.カギ括弧の使い方は小学校の国語で習いましたよね.大幅に編集したり記者の見解にカギ括弧を付けて,意見を聞いた人が発言したかのように見せかけるのはやめましょう.
私の意見は本文の記述にある「計画変更の時間的余裕がない」部分までが基本.計画変更のためには取り除かなければならない問題は多数あり,時間も限られていることは確かだが,それを以て誘致が「困難」かどうか判断するのは市や府ですよ.鬼の首取ったような書き方しているが「計画変更の時間的余裕がない」点については,他紙ではずいぶん前に同内容の記事が出てるんで,今さらなんだが…
1面本文最後の方には…

  • 波床氏は言います.「市が期待しているのは観光客でしょう.それなら,東海道新幹線にお座敷列車を走らせる方がよっぽど効果があるんじゃないですか.」

…なんか,悪意のある編集だな.「言います」と書くなら,カギ括弧内は無編集が原則だが,やはりこの部分も編集されている.編集権があっても,主旨の変わる変更は御法度であるが,後半部分を切り捨てて主旨を変える手法のようだ.「よっぽど効果がある」などという比較発言もしたことがないので,これは記者の創作である.フルで書くなら,こうだろ.

  • 観光客に期待しているのかもしれないが,将来的に観光都市として生きてゆくなら,東海道新幹線に観光列車を走らせるだけでも十分でしょう.ですが,京都は奈良とは違い,政令指定都市であり,多数の産業もある.リニアのルートから外れると,長期的には衰退する可能性もある.

記者の要約能力が低いか,話を聞いてないかのどちらかやね.波床発言風部分についてまとめると…

  • 多様な意見は大切だが,ペンで勝負しているなら,情報源にも敬意を表しましょう.ジャーナリストが創作してはいけません.”主旨は変えてない”と思っているのなら,それは聞いた話を要約する能力が低いのでしょう.肯定するにしても,否定するにしても,正しい情報に基づいて,正確に分析しましょう.論の展開がいい加減だと,週刊誌の記事みたいになっちゃいますよ.(ぁ,週刊誌か)

その他にもツッコミどころの多い記事なので,続きはまた後日.

リニア新幹線整備の理由(名古屋-大阪間:国土計画編)

リニア新幹線の東京-名古屋間については,経済効果はともかく,国土計画が40年前からずいぶん変化した現在においても,国土整備上の重要な理由が存在していることについては説明したとおりである.短期なら北陸新幹線経由で東西間を結べば数ヶ月程度なら我慢できる範囲だろう.しかし,年単位で不通の可能性があるなら,それでは具合が悪い.公式には数年単位の不通は無いことになっているが,不安な箇所が存在することは説明した通りである.
じゃぁ,名古屋-大阪間を現行計画のまま整備する理由は…?
んんんんんんんん……………………思いつかない.
確かに,中央新幹線の基本計画は奈良を経過地として指定してある.ただし,これは背景の政策が40年前の新全総であり,走行する乗り物として想定していたのは250km/h運転の団子っ鼻新幹線であった.びゅわーんびゅわーん走る,である.
残念ながら,その後の国土計画は「国土の均衡ある発展を目指した開発」の看板を下ろしてしまっている.最新の国土整備の方向性としては「国家のリスクマネジメント」であるとか「リニアを幹にして新幹線を支線に」であるとかという方針が出始めている.
そういった新しい国土整備の方向性の中で,リニア新幹線の名古屋から西はどこを走るべきか,というのは…議論されたことが…無い.「国家のリスクマネジメント」という観点だと,名古屋から西の区間についても大地震の影響を受けにくい経路を選ぶべきだという議論はあってもいいかもしれない.しかし,そうすると問題になってくるのは濃尾平野をリニア新幹線が通過することそのものだったり,果たして奈良盆地は大丈夫かとか,終点の大阪(新大阪駅?)はそもそも大丈夫かとか,そういう議論をしても良かったのだろうが,名古屋の西側については,議論はスルーで,「基本計画に書いてあるから」で終わっている.それでいいのか?
ほとんど議論に上らなかったが,首都機能の分散・移転と名古屋から西側のリニアの経路の関係はどうなんだ? これもかなり重要な議論なはずだが,基本計画に書いていることだけが理由でスルー…この国の国土計画や幹線鉄道計画は大丈夫か?
国土強靱化の基本計画が策定され,その中には計画のPDCAサイクルの実施が示されているが,日本の幹線鉄道計画はこのサイクルが欠如している.アカンやろ.
#東京オリンピックが決まるまでは,震災後と言うこともあって多少は首都機能に関する議論があった....がしかし,オリンピックが決まるとどこへやら.大災害はオリンピックがあるからといって待ってくれるわけではない.のど元過ぎるとすぐに忘れるという,日本人の悪いクセ.

鉄道後進国ニッポン(英国快速も225キロ運転)

ずいぶん前に,ドイツの快速列車がめっちゃ速いという話を書いたが,英国の近郊電車もめっちゃ速い.
テレビのCMでみたことのある人も多いと思うが,日立製の電車であり,ロンドン郊外のアシュフォードというところから,ロンドン市内まで走っている.最高速度は公称225km/h. 乗車してみると,内部は特急列車風ではあるが,デッキとの間仕切りはなく,イスもビニール張りの簡素なものである.
英仏海峡を通過するユーロスターの走る高速新線を間借りして走行し,車内の内装さえ気にしなければ走りっぷりは日本の新幹線と寸分変わらない(日立製なので). ロンドンオリンピック期間中は選手村と競技場との間の輸送に使われ,その後は高速通勤鉄道線になっている.
日本にはこういう発想ないんだよなぁ.(昔は首都圏でそういう構想があったが,有耶無耶になった.つくばエクスプレスはその名残.160キロ運転はどうなった>TEX)Javerin-2Javerin-1