(ずいぶん昔だが)鉄道事業法が改正になって,線路の保有(第三種)と列車の運行(第二種)が別事業として実施できるようになった.もちろん,両方一体でもできる(第一種).いわゆる「上下分離」である.最近はLRT事業を睨んで,軌道事業でも似たようなスタイルが導入できるようになってきている.
ところで一方,トラック事業とかバス事業はどうだろうか.もちろん道路を運輸業者が自ら造って,その上でトラックとかバスを運行しても構わないのだが,通常はそんなことはせずに道路は公共(あるいは,それに近い事業体),走行する車両は事業者という分担が普通である.
さて本題である.鉄道の重要性が見直されていると言われている昨今だが,その割にはさっぱり整備が進まない.正便益不採算(*)が原因だとかなんだとかいろいろ言われているが,政策の上下分離ができていないことも原因ではないだろうか.経営の上下分離にあらず.
(*)社会的には事業実施した方がメリットが大きいことは明白なのだが,企業会計的には赤字になるので民間事業のような形態では成立させにくい,という話.
バス事業だと,インフラ部分の整備は公共で道路や街路などのインフラ整備部門のお仕事.その上は民間のバスが走り,これの管理・監督は公共の運輸部門のお仕事である.じゃぁ,同じようなシステムを鉄軌道にも導入したらどうだろうか.つまり,インフラ部分の整備は公共のお仕事なんだがインフラ整備専門部門のお仕事.その上を走行する車両等のシステム管理は,同じく公共のお仕事なんだが運輸システム専門部門のお仕事.
ちなみに現在の鉄道関係では,下物のインフラ整備部分も上物の運輸そのものの管理も同じセクションのお仕事.わが国でも交通基本法が導入され,通路概念に近いものが入ってきているので,通路確保のお仕事と,それを使って実際に運ぶお仕事を概念的に分離して,実際の政策も分離した方がいいのではないだろうか.
国土交通省が発足してもうすぐ15年.未だ何も変わらないというのでは,省庁再編の意味があったのか?
「国土計画」タグアーカイブ
リニア全線同時開業「難しい」の?
リニア新幹線の大阪までの全線開業に関し,以前JRは有利子負債はこれ以上抱え込むことが出来ないと表明していたが,与党が「じゃぁ,無利子で貸すよ」という案を出したら,今度は(実は社長がこの間に交代しているが)「環境への影響調査や工事に時間がかかるため、同時は難しい(副社長)」とか「5兆円を超える債務は持たないのが基本方針」とか表明するようになった.
まぁ,まさかそんな案出てくるまいと思ってたんだろうと思うが,環境影響評価については現時点では手間取っているようだが,間もなく名古屋-品川間が着工できれば「経験値」を手に入れた調査部隊の手が空くので,ノウハウを蓄積した組織が今度は距離が2/3程の区間を対象に仕事することになる.名古屋までは4年かかったかもしれないが,さほどかからないよね(ルートで揉めなければ).標高2000㍍級の山に長大トンネル掘るようなこともないので,工期もやっぱり,そんなにかからないよね.鈴鹿山系は既にトンネルがいっぱい掘られているので,「未知の地質」というわけでもないし,捨ててなければどこかの倉庫に東海道新幹線のルート検討時に調査した鈴鹿山系の地質図もあるかもしれないし,そんなにかからないよね.
「5兆円を超える債務は持たないのが基本方針」についても,バランスシートに入らない方法もありますので,ご検討を.(というか,与党はまだその案に気付いてないよね.)
それから,利子補給があればバランスシートに債務が入っていても10年程度の前倒し開業は不可能ではないですよね.(本当に早期開業させる意思があるのなら)
新聞記事の精度(京都民報編-その2)
タブロイド紙の件の続きである.市の担当部局も噛みつかれているようである.
リニア新幹線は,予定では東京,名古屋,大阪の各都市に設置される駅は全列車の停車を想定した2面4線の駅構造(ホームが2面,各ホームの両側に線路が2線ずつの計4線という意味),それ以外は通過線2線+停車用線2線の計4線が想定されている.後者の駅については1時間あたり1本の停車を想定し,東-名-阪間の速達便が1時間あたり8本を想定している.噛みつかれているのはこの辺である.
リニア用車両は定員1000名程度とされているので,「それ以外」の構造になるであろうリニア京都駅では24時間ぶっ通しで運転しても1日2.4万人になり,市の計算の1日あたり3.3万人は処理できないではないか,というタブロイド紙の指摘である.
市は中間駅での実現は無理,と言っているようだが,そうなのかな? 例えば,東海道新幹線の場合は概ね3分弱-4分間隔程度で運転でき,毎時15本から17本以上運転できるようになっている.リニア新幹線については,実は現時点では最小運転間隔については公表されておらず,「毎時片道あたり8-9本しか運転できません」とも言っていない.車両基地が都心から離れた箇所に設置されることになっており,営業列車とは別に回送列車が品川-基地間などに走ることがわかっている.つまり,線路の能力そのものは「8-9本」より多いことは確かである.
リニア新幹線の最小運転間隔は公表されていないが,途中1駅停車の速達便が全線で67分,途中7駅停車の各駅停車型が全線で100分程度の所要時間であることが公表されている.速達型は平均7分半毎に運転されるので,各停型の所要時間が33分余分にかかっていることから,各駅停車型は速達型に33÷7.5=4.4回(平均)抜かれる.「中間駅」6駅中4.4回なので,停車すればかなりの率で追い抜かれるわけである.
在来線の場合は,普通列車と特急列車では使用車両が異なり,走行性能も大きく異なるが,新幹線の場合は東海道新幹線であってもリニア新幹線であっても,各停型と速達型とでは車両性能は違わない(同じものが使われる).ということは,ダイヤ編成上,速達型と次の速達型のダイヤの隙間には各停型の走れる隙間が常に確保されているということである.
各停リニア先発 | →→→ | 途中駅停車 | (空きダイヤ) | |
速達リニア次発 | →→→ | ↓ | →→→ | 速達リニア先着 |
(空きダイヤ) | 途中駅発車 | →→→ | 各停リニア後着 |
各停型が4.4回抜かれるのなら,少なくとも「ダイヤの隙間」は+1本の5.4本分は隠されていることになる.5.4本分の隙間のうち,1本を各停型に,残りを回送列車用にという使い方であろうか.
8本の速達型用のダイヤと5.4本の回送/各停用ダイヤ,つまり,毎時13-14本以上,最小運転間隔は4分半程度未満というのが理論上の最大容量ではないだろうか.これはちょっと前の東海道新幹線の線路容量(運転可能な本数)である毎時15本とそう大きな差はない.
#論拠はそろってないが,最小運転間隔は3分45秒じゃないかな.3’45″×16=60’00″.16本の容量のうち8本を速達型に割り当て,その隙間の8本を各停型/回送に割り当てて,追い抜きされる場合は各停型が停車駅で「次の隙間」に移れるように全体のシステム設計をするとダイヤ編成は東海道新幹線のノウハウが活用できる.デジタルATC導入前の東海道新幹線は最小運転間隔は3分45秒だったと思う.
現在,東海道新幹線の「中間駅」ではこだま号もしくはひかり号の各駅停車型は毎時3本程度,旧式車両と旧式保安装置で走っていた国鉄末期でも各停型は毎時4本運転されており,これを参考にすると,毎時1本しか線路容量的に停車できない,ということは無さそうだと思われる.停車場設備の簡素なリニア「中間駅」の停車方法については鉄道の専門家からもいろんな提案がなされている.
あまり話題になっていないが,リニア新幹線は営業時間帯が長い可能性が高い.東海道新幹線よりも1-1.5時間時間短縮されるので,その分終電の時間が遅くなるはず.6-23時の17時間,上の考察を参考に毎時4本停車,1000人のうち半分だけ降車と想定すると,計3.4万人になり,概ね計算が合うんだが.不可能で無い限り,客がいれば鉄道会社はそれに応じて停車させるのが基本であろう.
- ということで,毎時1本なのにおかしい,と噛みつくほどの話では無さそうである.
#まだ1面.
新聞記事の精度(京都民報編-その1)
次は京都民報という左系のタブロイド紙の場合である.なるべく正しい情報を得ていただくために,(超繁忙期とか,原始的な質問過ぎる場合を除いて)新聞や放送番組等への情報提供は基本的には断わらないのでこの紙の取材にも応じた.波床の名前が出てこなくても,提供した情報に基づいて記者の独自の分析で記事が書かれていることもある.そういった中,この紙の記事は久々に見る違和感である.カギ括弧の中が編集されていることはもちろん,私以外の各所への取材結果についても切り貼りして記者に都合の悪い部分は切り捨てられているので,事実関係をまとめたというよりは,全体の主張は記者の創作意見である.…というか,週刊誌みたいな書き方なわけやね(ぁ,週刊誌か).
京都民報2014年6月15日版には…
- (タイトル部分)「ルート変更は困難」「推進派ブレーンが明言」
…と書いてあるが,まず,「推進派」じゃねぇよ,だ.市民でもなければ府民でもなく,職場も大阪平野の端っこなんだが.この紙に限らず,マスコミはラベルを貼りたがる傾向にある.そうした方が自分の意見を書きやすくなるのでそうしたがるんだろうと思うが,そんな単純ではない.リニア新幹線全線早期開業に関しては遅れると国土の二眼構造を崩しかねないので「推進」だが,ルートに関しては特にどれも推してませんが.事実関係をなるべく正しく伝えるのが社会的使命だと思っているので,特定の立場はとってないですよ.全線早期開業以外では,国の整備計画に関する審議過程が法令の想定する過程と異なっているのでダウトだと言ってはいますが,ルートは特にどれを推進とは言ってないんですがね.(機会は少ないが)奈良県内のルートで揉めてる件について聞かれれば,奈良県内ルート各案の長所短所など説明したりしてますけど.
次に,「ブレーン」の部分だが,もし私が京都市のブレーンならば,この京都民報紙を含めて複数の新聞や通信社などのブレーンということにもなってしまう.特定の立場に対して特定の情報提供はしてないですよ.市に対して説明している内容,京都民報紙に対して説明している内容,その他で説明している内容は,質・量ともにほとんど同じです.テキトーなラベル貼り作業はやめましょう.
それから,記事冒頭のリード部分だが…
- …(略)…しかし推進派のブレーンは「誘致は困難」と明言.…(略)…
…明言してねぇよ.カギ括弧付けて印象操作するのはやめましょう.カギ括弧は実際に口から音波として発している必要があるとともに,抜き出すなら文意が伝わる範囲にしなければならないんだが.特に「明言」と書く場合は実際にそう発言してないと書いちゃあいけません.カギ括弧の使い方は小学校の国語で習いましたよね.大幅に編集したり記者の見解にカギ括弧を付けて,意見を聞いた人が発言したかのように見せかけるのはやめましょう.
私の意見は本文の記述にある「計画変更の時間的余裕がない」部分までが基本.計画変更のためには取り除かなければならない問題は多数あり,時間も限られていることは確かだが,それを以て誘致が「困難」かどうか判断するのは市や府ですよ.鬼の首取ったような書き方しているが「計画変更の時間的余裕がない」点については,他紙ではずいぶん前に同内容の記事が出てるんで,今さらなんだが…
1面本文最後の方には…
- 波床氏は言います.「市が期待しているのは観光客でしょう.それなら,東海道新幹線にお座敷列車を走らせる方がよっぽど効果があるんじゃないですか.」
…なんか,悪意のある編集だな.「言います」と書くなら,カギ括弧内は無編集が原則だが,やはりこの部分も編集されている.編集権があっても,主旨の変わる変更は御法度であるが,後半部分を切り捨てて主旨を変える手法のようだ.「よっぽど効果がある」などという比較発言もしたことがないので,これは記者の創作である.フルで書くなら,こうだろ.
- 観光客に期待しているのかもしれないが,将来的に観光都市として生きてゆくなら,東海道新幹線に観光列車を走らせるだけでも十分でしょう.ですが,京都は奈良とは違い,政令指定都市であり,多数の産業もある.リニアのルートから外れると,長期的には衰退する可能性もある.
記者の要約能力が低いか,話を聞いてないかのどちらかやね.波床発言風部分についてまとめると…
- 多様な意見は大切だが,ペンで勝負しているなら,情報源にも敬意を表しましょう.ジャーナリストが創作してはいけません.”主旨は変えてない”と思っているのなら,それは聞いた話を要約する能力が低いのでしょう.肯定するにしても,否定するにしても,正しい情報に基づいて,正確に分析しましょう.論の展開がいい加減だと,週刊誌の記事みたいになっちゃいますよ.(ぁ,週刊誌か)
その他にもツッコミどころの多い記事なので,続きはまた後日.
新聞記事の精度(中日新聞編)
最近,リニア関係で取材を受けることが多いのだが,記事になった文字を見るとなんか違和感のあることが多い.文字数が制限され散る中で多くを記述しようとしたり,記者の理解度が低いがために,よくわからない部分を記者が想像で加筆したケースだと思うが,例えば,中日新聞2014年6月2日(月)夕刊E版10面には…
- 「法的には京都は外堀を埋められた状況.『同時開業』に近畿が一枚岩になる中,足も引っ張れないだろう.逆転のハードルは五十年前よりも高い.」
…と話したように見えるが,カギ括弧がついているからと言って,その中味が編集されていないということはなく,突っ込みどころは多い.
法的に外堀が埋まっているのは確かだが,「『同時開業』に近畿が一枚岩になる中,」とは言ってない.明らかに各府県の思惑が違うので,一枚岩などと言う言葉は使うはずもなく,実態は呉越同舟の方が近いぞ.一枚岩は,記者がそう思い込んでいるのだろう.(個人的には,「一枚岩」という表現は全体主義を想起させるような気がして好きではないので,使わない.)
それから,「足も引っ張れないだろう.」とも言ってない.”足を引っ張る”というのは誰かが悪者である前提の表現だが,奈良も,京都も,どちらかが悪いとも言ってない.敢えて言うなら,長期間にわたって幹線鉄道政策を放置してきた政府と国会かもしれない.
後半部のカギ括弧内もやはり編集されている.こちらは文字数を抑えるために何が言いたいのかわかりにくくなっているケースだが…
- 「かつての城下町や宿場が近代以降,主要鉄道網から外れ,都市として成長力を失った例は多い.京都がそうなってもいいのか.これまで新幹線誘致などで耐え抜いてきた意味を全国にいかに広く問えるかだ」
…と話したかのように見えるが,これも記者の言葉である.前半部はともかく,最後の一文の意味がよくわからない.主語は何?? 何を”超訳”してこういう風に記述したのか,取材時の話を思い返してみてもよくわからないが,こういうことだろうか?
修正案
- 「かつての城下町や宿場が近代以降,主要鉄道網から外れ,都市として成長力を失った例は多い.京都がそうなってもいいのか.(全国には,)これまで新幹線誘致などで耐え抜いてきた(都市や地域が少なくないが,そういった都市や地域がなぜそこまでして誘致し続けているかの)意味を全国にいかに広く問えるかだ(.)」
どうしてできない新幹線(基本計画フェードアウトの件)
さて,皆さん,新幹線の「基本計画図」を最近見たことがあるでしょうか.えぇっ,ググればすぐに見つかるって?
よく見てください,それは公式資料ですか? それは最近の資料ですか? よく見るとどこかに「昭和」って書いてませんか? 国のつくる公式書類で「基本計画図」を最近見たことありますか?
新幹線の基本計画線を整備計画に格上げしなければならない話とか,そこまで行かなくても在来線の改良を新幹線の暫定整備計画の枠組みでできないか,とかの話を政府担当某局に持って行くと,てきめん機嫌が悪くなると言うことは良く聞く.
加えて,インフラ整備がらみの話で「基本計画図」を参照したくなっても,最近は公式な図をとんと見かけなくなったという話も良く聞く.
もう「基本計画」は無かったことにしたいんだろうか? それならそれで,基本計画の廃止の手続きを法律に則ってすべきなのだが,それすら気配は無い.のらりくらりと,フェードアウトして忘却の彼方に過ぎ去ることを狙っているのだろうか?
鉄道後進国ニッポン(独仏高速新線絶賛建設中)
昨年夏,ドイツ国内を半月ほど研究調査目的でぶらぶらしてきたが,相変わらず,鉄道整備の勢いは衰えず,新線建設や在来線改良(ローカル列車用と優等列車用の複々線化工事)などが見られた.
例えば,ドイツの中規模以上の都市でICEが無いのはChemnitzだけであり,他の中規模・大規模都市ではICEのサービスが完備されている.ところで,そのChemnitzに実際に行ってみると,駅のホームは大規模に改築され,構内配線も改良工事中で,ICE乗り入れが近いのではないかと思われる.
それ以外の地域でも在来線の高速化改良は随所でみられるとともに,新線工事もしばしばみられる.下の写真は,Erfurt付近の新線工事である.
日本の高速新線網は,もう何年整備し続けてるんだったっけ?
リニア新幹線整備の理由(どうしてこうなった編)
リニア新幹線の計画過程に限らず,残念ながら,わが国の近年の新幹線計画は総じてグダグダである.
本来なら社会の状況が変わるたび,いや,法令に書いてあるとおりに国土整備の方向性などが変わるたびに計画を見直して行かなくてはいけないのだが,猪突猛進,いっぺん決めたら方向が変えられない.突っ走っているならまだしも,行き詰まっていても方向が変えられない.あらら,困った,困った.(いっぺん決めたことを再検討すると,議論噴出しそうで怖いから手を付けない,パンドラの箱だと思ってるのだろう.)
いわゆるPDCAがまわってない状態である.Plan-Do-Check-Action…全国大学の土木系教室を悩ませているあのシステムである.見事に存在しない.企業の方には,ISO9000シリーズといった方が分かりやすいか.
政府担当部署の内部的にはOKなのかもしれないが,昨今の世間的にはNGな事務システムであ
リニア新幹線整備の理由(名古屋-大阪間:国土計画編)
リニア新幹線の東京-名古屋間については,経済効果はともかく,国土計画が40年前からずいぶん変化した現在においても,国土整備上の重要な理由が存在していることについては説明したとおりである.短期なら北陸新幹線経由で東西間を結べば数ヶ月程度なら我慢できる範囲だろう.しかし,年単位で不通の可能性があるなら,それでは具合が悪い.公式には数年単位の不通は無いことになっているが,不安な箇所が存在することは説明した通りである.
じゃぁ,名古屋-大阪間を現行計画のまま整備する理由は…?
んんんんんんんん……………………思いつかない.
確かに,中央新幹線の基本計画は奈良を経過地として指定してある.ただし,これは背景の政策が40年前の新全総であり,走行する乗り物として想定していたのは250km/h運転の団子っ鼻新幹線であった.びゅわーんびゅわーん走る,である.
残念ながら,その後の国土計画は「国土の均衡ある発展を目指した開発」の看板を下ろしてしまっている.最新の国土整備の方向性としては「国家のリスクマネジメント」であるとか「リニアを幹にして新幹線を支線に」であるとかという方針が出始めている.
そういった新しい国土整備の方向性の中で,リニア新幹線の名古屋から西はどこを走るべきか,というのは…議論されたことが…無い.「国家のリスクマネジメント」という観点だと,名古屋から西の区間についても大地震の影響を受けにくい経路を選ぶべきだという議論はあってもいいかもしれない.しかし,そうすると問題になってくるのは濃尾平野をリニア新幹線が通過することそのものだったり,果たして奈良盆地は大丈夫かとか,終点の大阪(新大阪駅?)はそもそも大丈夫かとか,そういう議論をしても良かったのだろうが,名古屋の西側については,議論はスルーで,「基本計画に書いてあるから」で終わっている.それでいいのか?
ほとんど議論に上らなかったが,首都機能の分散・移転と名古屋から西側のリニアの経路の関係はどうなんだ? これもかなり重要な議論なはずだが,基本計画に書いていることだけが理由でスルー…この国の国土計画や幹線鉄道計画は大丈夫か?
国土強靱化の基本計画が策定され,その中には計画のPDCAサイクルの実施が示されているが,日本の幹線鉄道計画はこのサイクルが欠如している.アカンやろ.
#東京オリンピックが決まるまでは,震災後と言うこともあって多少は首都機能に関する議論があった....がしかし,オリンピックが決まるとどこへやら.大災害はオリンピックがあるからといって待ってくれるわけではない.のど元過ぎるとすぐに忘れるという,日本人の悪いクセ.
リニア新幹線大阪延伸前倒しへ…で終わりじゃないよ
こういう話がある.
<新成長戦略>リニア中央新幹線 大阪延伸前倒しを明記へ (毎日新聞) – Yahoo!ニュース.
「健全経営と安定配当が大前提」 リニア大阪前倒し開業論でJR東海社長 – MSN産経ニュース.
当初のリニア新幹線の大阪延伸計画は2045年.もちろん,大阪近辺では「もう死んどるわ」という感想を持って受け止められていたが,まずは(同時とは言っていないが)早期開業を目指す国の方針が出てきたことは喜ばしいことである.
ところで,早期開業ばかり注目を浴びているが,名古屋から西の区間については,整備計画の審議段階において大阪まで繋ぐことの重要性については確認できているが,その経路については十分な審議がされておらず,唯一の論拠が1973年に決めたから,だけである.
もちろん,国の決定は重要なのだが,何度も書くように当時の政策背景は新全総であり,昔風の言い方をするのならば新幹線のネットワークを全国に拡げる「新幹線の建主改従」であった.いっぽう,リニア新幹線は当の鉄道会社が声高らかに主張するように「バイパス」であり「改築」である.昔風に言うなら「新幹線の改主建従」である.世の中の政策も1970年代の高度成長の産めよ増やせよの時代ではなくなっており,同じ国土政策の方向性とは言い難い.
要するに,名古屋と大阪という両端はともかく,途中の通過経路はほんとにそれでいいのか,議論されていないのが問題だということである.現在の状態は言葉は悪いが名古屋以東の議論にくっついて西側の話も通ってしまった状態だといっても過言ではない.
建設前倒しの理由が「新たな成長戦略」であるならば,どういう経路が成長にとって最適であるのかは今一度考えた方がいいだろう.1970年代のように新線建設して新駅つくれば周辺に無条件で機能が張り付く時代ではなくなっている.
もし,この辺の舵取りを間違えて既存の大都市が衰退などすれば,「成長戦略」ではなくなるし,推進した関西の議員さん達は関西全体に目配せできるだけの慧眼を持っていなかったということになるし,東西間の輸送を一手に引き受けるんだと意気込んでいたはずの鉄道会社は沿線の顧客の利便を確保することが出来なかった田分け者の誹りを受けることになるし,いずれも歴史に名を刻んでしまうことだろう.(悪い意味で)