計画・構想」タグアーカイブ

リニア新幹線整備の理由(華麗にスルー,パブコメ編)

いろいろと突っ込みどころが多い審議過程だったので,公式にパブコメとして募集時期にちゃんと指摘している…が,いろいろと都合の悪いことが書かれていたのだろうか,華麗にスルー.そんな指摘はなかったかのような扱いである.私の周りには他にも華麗にスルーされた人がいるようだ.気に入らないからって,スルーは良くないよね.これじゃぁ,パブコメの意味なかろう(厳しく言えば,行政手続法第43条に違反だよね).
以下,誤字脱字を含めて,送ったものそのまま.ただし,メールアドレスは,変なメールがいっぱい来ないように@を◎に置き換えてある.
**************************************************
差出人:hatoko◎ce.osaka-sandai.ac.jp
件名: 中央新幹線に関するパブリックコメント
日付: 2010/08/28 13:53
宛先: g_RWB_KTD◎mlit.go.jp
CC: hatoko◎ce.osaka-sandai.ac.jp

国土交通省鉄道局幹線鉄道課 御中

お世話になります。
中央新幹線に関するパブリックコメントを提出いたします。
募集要領の「テキスト形式でお願い致します。」の意味が
不明瞭でしたので、本メール本文および添付ファイル(word
ファイル)をお送りします。内容は同一です。
********************************************************************
「中央新幹線に関するパブリックコメント」
(フリガナ):(ハトコ マサトシ)
1.氏  名:波床 正敏
2.住  所:大阪府大東市中垣内3丁目1−1
3.所  属:大阪産業大学工学部都市創造工学科
4.電 話 番 号:072-875-3001(内線3722)
5.電子メールアドレス:hatoko◎ce.osaka-sandai.ac.jp
意  見
【1】全国新幹線鉄道整備法施行令第二条に基づく再計算
中央新幹線は昭和48年11月に運輸省告示第466号により基本計画線となっているが、昭和45年9月制定の全国新幹線鉄道整備法施行令第二条によると、基本計画を決定しようとする際には以下の事項を調査しなければならないことになっている。
(1)新幹線鉄道の輸送需要量の見通し
(2)新幹線鉄道の整備による所要輸送時間の短縮および輸送力の増加がもたらす経済的効果
(3)新幹線鉄道の収支の見通し及び新幹線鉄道が他の鉄道の収支に及ぼす影響
すなわち、すでに中央新幹線が基本計画となっているということは、上記調査が済んでいるということである。これら諸量は、新幹線鉄道の速度等が設定され、都市間の所要時間が決まらない限り求めることができないが、昭和48年当時は磁気浮上の実験がようやく成功したばかりであるため、上記諸量は従来型の新幹線鉄道を想定して計算されているはずである。時速500キロという運転は想定されていないため、再計算が必要と思われる。
このうち、(1)についてはすでに明らかにされていると思われるが、(2)については所要輸送時間の短縮については明らかになっているものの、経済的効果(特に地域経済に与える影響)については不明瞭であり、公表が必要である。また、(3)については収支の見通しは計算されているものの、他の鉄道への影響については既設の東海道新幹線への影響が示されているに過ぎない。
このような再計算を行う際、中央新幹線を超高速運転しようとしていることに十分注意しなければならない。従来型の新幹線整備の影響はせいぜい沿線に配慮して計算すれば、大きな誤差を生じる可能性は小さい。しかし、リニア新幹線は、在来線はもちろんのこと、従来型の新幹線鉄道網をも支線として機能させてしまうほど高速であるため、影響は極めて広範囲に及ぶ。リニア新幹線沿線相互間の影響は全体のごく一部である可能性が高い。したがって、沿線に限定した経済的効果や他の鉄道への影響の再計算では不十分であり、全国的な視点が必要である。
【2】整備目的の明確化が必要
中央新幹線をリニア新幹線として整備するその本来の目的は、わが国中央部に位置する三大都市圏を結ぶ東海道新幹線の機能を補完・向上させることであると理解しているが、現状のリニア新幹線計画には幾つかの不明瞭な点が存在する。
第一の点は、大都市を完全には結んでいない点である。東海道新幹線ののぞみ号の機能をリニア新幹線に移転させようとしているという基本的な方針については理解できる。しかし、のぞみ号が結んでいる大都市と中央新幹線の経路は一致していないため、三大都市圏を結ぶ東海道新幹線のバイパスとしてリニア新幹線を位置づけようとすると、その機能は万全ではないと思われる。大都市間の相対的位置関係を大きく崩さないために、どのような方策を考えているのか、明確にすべきではなかろうか。このままでは、中央新幹線沿線となる大都市と沿線外となる大都市との間で、利便性の大きな差を生むことになり、中長期的にはそれら大都市の盛衰を大きく左右する可能性が高い。
第二の点は経路選定の理由が明確でない区間が存在することである。東京−名古屋間については、東海地震等の被害を最小限にするという観点から内陸部経由を採用することには一定の合理性がある。しかしながら、名古屋−大阪間についてはルート選定の明確な理由が見いだせない。東京−名古屋間を中央新幹線として整備するからといって、全幹法の中央新幹線の経路をそのまま大阪まで辿らなければならない、という積極的な理由は存在しない。基本計画線は全線一括で整備計画にしなければならない、ということもない。現に北海道新幹線は青森から旭川までが基本計画であるが、整備計画になったのは札幌までである。地質調査等が済んでいるからという理由についても、国土構造を変化させるかもしれない大事業に関する理由としては、積極的とは言い難い。
唯一考えられるのは、奈良経由により沿線を開発するという目的であるが、リニア新幹線の主たる目的は三大都市圏間の結節、特にのぞみ号が停車するような大都市間の結節機能であるので、沿線開発は副次的なはずである。もし沿線開発目的が最重要であるとするならば、それは他の整備新幹線と同じ整備目的であるということになり、費用負担や並行在来線(この場合は実態を考慮すると近畿日本鉄道になるであろうか)の問題など、一般的な整備新幹線の建設手順のルールに従うべきである。
【3】大阪延伸の遅延は国土構造に悪影響
大阪への延伸が、現時点の計画では2045年になっているようであるが、遅すぎる。名古屋開業から20年近くもかかってしまうと、大阪都市圏の衰退が明瞭になり国土構造が変化してしまう。これでは、東西間の円滑な交通を提供するという東海道新幹線およびそのバイパスの機能を十分に果たさないことになる。
歴史的に見て、明治期の鉄道網構築期において早期整備された地域(太平洋岸など)と遅れたところ(日本海側など)の整備時期の差は概ね20年程度であった。この時期にわが国の人口分布は大きく変化している。また、戦後の高速交通網の整備時期においても交通利便性の地域的格差を生じており、その後の地域発展の度合いに影響を与えている。リニア新幹線は既設新幹線に比べて速度が倍程度であり、運行頻度は航空機よりも格段に多い。このため、明治、戦後に続くわが国陸上交通に多大な影響を与える第三の波になる可能性が高く、遅延は看過できない。加えて、影響は三大都市圏に限らず、かなり広範囲に及ぶはずであるが、沿線の議論に終始してしまっているのも残念である。
大阪への延伸が大きく遅れる原因は資金調達である。巨額の建設資金を自己資金として調達するという決断は、わが国の交通史に刻まれる大英断である。しかしその一方で、民間企業の資金調達問題が国土構造をゆがめてしまうことは避けるべきではなかろうか。資金が民間により調達されるからといって、国は黙してして語らずという態度を続けるべきではない。
【4】防災の観点について
東海道新幹線のバイパスとして中央新幹線を建設する目的の一つは、大規模地震発生時にも東西間の交通を確保することにある。JR東海作成の資料(第3回プレゼン資料7頁)では東海地震発生時の震度分布に関する資料が示され、中央新幹線が概ね震度の大きい地帯を避けられることが示されている。一方、愛知県の示した資料(第5回愛知県作成プレゼン5頁)によると東海地震と東南海地震の同時発生時には、中央新幹線は名古屋付近においてかなり広範囲に震度6弱以上の地帯を通過しなければならないことが示されている。
歴史的に見て東海地震が単独発生したことは無いようであるので、大地震への備えという点では愛知県の示した震度分布の資料を重視して東西間交通確保の方策を考えるべきと考えられるが、それに対する考えが明確でない。名古屋が被災して使えなくなれば、東海道新幹線であれ、中央新幹線であれ東西間を結ぶことができない。大地震発生時の東西間交通の確保は、東海道新幹線と中央新幹線だけでなく、さらに北方の幹線鉄道網も含めて対応を考えておくべきではないか。
********************************************************************

s15510080203- hatoko.docx
*—*
波床正敏(HATOKO Masatoshi)
大阪産業大学 工学部 都市創造工学科
http://www.osaka-sandai.ac.jp/ce/rt/

リニア新幹線整備の理由(整備計画のツッコミどころ編)

中央新幹線計画に関する手順がいろいろとツッコミどころが多い話の続きである.今回は,整備計画関係である.整備計画を定めるには,施行令第3条に従って以下の項目を定めることとなっているが,やはりツッコミどころがある.

  • A.走行方式
    B.最高設計速度
    この辺の項目は,整備計画の策定手順が改定された際に比較的最近になって追加された項目である.一見,ここで決め直しさえすれば基本計画の想定についてはオーバーライド(上書き)がOKなように思えてしまうが,さにあらず.整備計画は基本計画の上に成り立っているので,基本計画が有効である場合にのみ整備計画が有効なはずである.前回指摘したように基本計画の前提条件が時代の流れとともに大きく変化してしまっているにもかかわらず,何らまともな見直しがなされていない状況では,基本計画の正当性が失われている可能性が大きい.整備計画の実際の審議過程では,350km/h運転の鉄輪式の場合と500km/h運転の磁気浮上式が比較検討されているが,前者でも250km/hに比べると40%増,後者に至っては100%増で,特に後者は基本計画の想定とは大きくかけ離れた設定になっている.基本計画が単なる方便と化しており,正当性の合理的な証明がなされていない.
  • C.建設に要する費用の概算額
    この辺は,まぁスルー
  • D.その他必要な事項
    整備計画に関する審議では,整備計画の審議時に必須事項として法令では記されていない不思議な項目も議論されている(しかも,パブコメが終わってから).それは何かというと,経済効果等である.思い出して欲しいのだが,「輸送力の増加がもたらす経済的効果」の検討は基本計画の策定時におこなわなければならないのだが,なぜか整備計画の段階で審議している.これでは明確な政令違反である.いくら専門家2名のお墨付きを付けても,「計算があっている」だけで,手続きの合理性は得られない.

続けて,施行令第3条第2項に関しては…

  • I.整備計画は、工事を着手すべき時期に応じ、建設線の区間ごとに定めることができる
    整備計画の審議の結果,全線一括で整備計画に格上げになったが,2045年開業区間が「工事を着手すべき時期に応じ」たものかどうか,怪しい.整備5線は,整備計画策定時には速やかに着工しようとしていて,結果として整備時期が遅れてしまったが,こちらは最初から遅くなることがわかっているのに,なぜか一括である.30年も経過すると,社会構造自体が変化してしまう可能性がある.現計画のスケジュールは,全体計画の速やかな実施能力を欠いていることを証明してしまっていると判断するのが妥当ではないだろうか.

いろいろと本則から外れた審議過程に思われる.

リニア新幹線整備の理由(基本計画のツッコミどころ編)

前回は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)全国新幹線鉄道整備法施行令(施行令)に忠実に段取りをするとどうなるのかについて書いてみたが,実際の中央新幹線計画に関する手順はいろいろと妙である.今回は基本計画関係である.
まず,全幹法に従って1973年に中央新幹線の基本計画が立てられているので,全幹法により考慮された事項も施行令により実際に調査された項目も(ドラえもんもBack To The Futureのデロリアンもまだ出現していないので)当時の想定で調査され,決定されている.そうすると,それぞれ,以下のツッコミができる.まずは全幹法第4条関係.

  • 1.輸送需要の動向
    輸送需要を想定するには,所要時間がわかっている必要がある.速い交通機関には客が集まるが,遅い交通機関には客が来ない.速度がわからないと需要など想定のしようがない.当時の新幹線は250km/hを想定したインフラ上を210km/h運転していた.500km/hはまだまだなのに,当時の想定で作った計画を流用している.250km/hが260km/hになりました…なら大して違いはない.300km/hでも2割の違い程度だ.倍半分ではさすがに気がつく(はず,なんだがねぇ).
  • 2.国土開発の重点的な方向
    当時の国土計画は「新全総」,国土整備の方向性としては「大規模プロジェクト構想」,大規模インフラ整備で「国土の均衡ある発展」を目指すのが当時の方向性であった.今は「国土の均衡ある発展」の看板は下ろされ,「国家のリスクマネジメント」というのが最新のスローガンである.方針が違えば形成すべきネットワークが違うはずだが,そのまま流用.
  • 3.効果的な整備を図るため必要な事項
    当時は,日本国有鉄道.今は旅客鉄道会社.しかも株式を全部放出した完全民営会社.「効果的」の基準が異なる可能性がある.

次に施行令第二条関係.

  • a.輸送需要の見通し
    上にも書いたように,500km/h運転の交通機関はまだ存在せず,せいぜい250km/h運転が想定範囲なので,見通しもこれに基づくもの.さすがに倍半分では結果は大きく違う.基本計画策定時の議事録等の公文書が残ってれば書いてあるはずだが…
  • b.所要輸送時間の短縮
    「所要時間=距離÷速度」なので,速度が倍違えば所要時間も倍半分の関係.速度が決まらない限り,これは求まらない.速度が変われば,これも変わる.変われば計画策定時の前提条件が大きく変わったことになる.
  • c.輸送力の増加がもたらす経済的効果
    輸送力とは,量的な能力と速度的な能力の2面あるが,少なくとも速度面は大きく変更されている.経済効果は速度面が大きく影響するが,速度が変われば経済効果は大きく変わる.大きく変われば計画の前提条件も大きく変わったということになる.
  • d.収支の見通し
    収支見通しは建設費と運賃と客数と運営費が大きな要因だが,リニアと鉄輪では建設費も客数も運営費もだいぶ違うはずだが,基本計画時に『「鉄輪式の中央新幹線」と「リニア式の中央エクスプレス」とが比較された』などという話は聞いたことが無い.というか,当時は公式検討できるほども実験は進んでおらず,だいぶ後になって技術的な見通しが公式にお墨付きを得ている.
  • e.他の鉄道の収支に及ぼす影響
    速度が違えば影響が変わる.国土計画が変われば路線形態,経路,起終点すら変わる可能性がある.速度を計画時の倍にしておいて,計画時と同じことが言えるのか?

このように,基本計画策定時とは前提条件が大きく変わってしまっているにもかかわらず,基本計画は再検討されることも無く次の段階に進んでしまった.社会状況が大きく変わるような状況下では同じ計画では具合が悪いというのは,教科書レベルの話なんだけどなぁ.基本計画の合理性は?大義は有りや無しや?
事実上の法令違反ではないか?

リニア新幹線整備の理由(法律の想定する段取り編)

再び同じような話で恐縮だが,新幹線を計画史,整備の段取りをして工事に入るまでの行程を,全国新幹線鉄道整備法(全幹法)と関連する政令の全国新幹線鉄道整備法施行令(施行令)に従って解読すると,このようになる.(大事な話なので,繰り返しました.)
まず,全幹法に従って基本計画を立てる.全幹法第4条の1により以下の3項目を考慮し…

  1. 輸送需要の動向
  2. 国土開発の重点的な方向
  3. 効果的な整備を図るため必要な事項

施行令第2条に従って,以下の調査を行い…

  1. 輸送需要の見通し
  2. 所要輸送時間の短縮
  3. 輸送力の増加がもたらす経済的効果
  4. 収支の見通し
  5. 他の鉄道の収支に及ぼす影響

施行令第1条に示された事項を決めて…

  1. 建設線の路線名
  2. 起点
  3. 終点
  4. 主要な経過地

全幹法第3条に示された路線を計画する

  1. 幹線鉄道網を形成
  2. 中核都市を連結

ここまでで基本計画策定.//
さらに,整備計画策定を定めるには,施行令第3条に従って以下の項目を定め…

  1. 走行方式
  2. 最高設計速度
  3. 建設に要する費用の概算額
  4. その他必要な事項

施行令第3条第2項に従って…

  1. 整備計画は、工事を着手すべき時期に応じ、建設線の区間ごとに定めることができる

となっている.ここまでで整備計画策定.//
この後,環境影響評価を行った後,工事実施計画をつくって許可を得てようやく着工.この段取り手順,よーく覚えておいてね.

リニア新幹線整備の理由(東京-名古屋編)

ネタ提供したことのある話題なので,すでに本などで読んだことがある人も多いお話し.ただし,彼の本の記述よりはちょっと詳しい.
すでに整備計画が策定されたリニア新幹線であるが,その意義について法律に従って再検証してみよう.まずは,間もなく工事が開始されるであろう名古屋から東側区間である.
新幹線整備に必要な考慮事項は以下の三点であったが,1番目と3番目をまとめると経済合理性とも言えるので,結局主要な論拠は,1)経済合理性がある,2)国土整備の方向性と合致している,の2つになる.名古屋から東側区間については1)は株式会社がすることなのでともかく,2)はそれなりに理由がつく.

  1. 輸送需要の動向
  2. 国土開発の重点的な方向
  3. 効果的な整備を図るため必要な事項

1962年に始まった一連の全総計画は,1987年の四全総まで形を変えながら「開発」を掲げ,国土の均衡ある発展を目指してきた.その後,五全総相当の21世紀の国土のグランドデザインでは「開発」の看板を下ろし,2008年には根拠法そのものを改正して法律名からも開発が消えた.震災後は,正式な国土計画ではないが具体的な国土整備の方向性として「国家のリスクマネジメント」を掲げた「…国土強靱化基本法」に基づいて各種整備が進められつつある.
こういった国土整備の方向性から考えると,内陸に幹線を整備するという方向性は一定の合理性はある.
東海道新幹線の脆弱な箇所は明確にはされていないが,数ヶ月単位では収まらない決定的な被害を受ける可能性のある区間としては浜名湖を渡る部分が考えられる.いちおう,国土交通省鉄道局は大丈夫といっているらしいが,外洋から15-20m近い津波がやってきたらどうなる? 今切れ口付近に6m程度の防潮堤があるとはいえ,無傷で安全,とは考えにくい.
そもそも,500年ほど前の明応地震(1498年)に地盤沈下して集落が海中に没しているような地区である.
さて,下の写真は昨年夏に撮った写真であるが,ちょうど干満の中間,平均的な海面の写真を撮ったようである.最近は便利なことに場所と日時を指定すれば,海面の高さの計算値を表示してくれるサイトがある.
140117b-p23
さらに便利なことに鉄橋には目盛りがついているので,写真から,平均海面から在来線の橋梁の下部までの距離が約3.5mだということも簡単にわかる.
加えて便利なことに,現地に行くとあちこちに地面の海抜高度が表示されており,この橋の付近の海抜高度は約4.8mだということもわかる.
もっともっと便利なことに,静岡県のサイトには内閣府が試算した満潮時に津波が襲った場合に,地面が何メートル浸水するかの計算結果も出ている.どうやらこの橋の付近は「2〜5m」の浸水予想である.
140117b-p27
そうすると,地盤の高さに浸水予想を加えると,満潮時に津波が来た場合にどの辺まで水面が来るのか計算できてしまう.結果は,少なく見積もって6.8m,最大9.8mになる.この数字は,平均海面からの高さであるので,写真にどの程度か描いてみると,こういう結果になった.ベースの岩盤の沈下は考慮してあるそうだが,砂地盤が液状化して長面浦や500年前の村櫛伝説のようになることは想定していない結果である.低めの計算でも橋桁すれすれくらいまでは水面が上がるようである.(安全率1,もしくは1未満ということ)
なお,津波のことに詳しい先生に「津波が来ても浜名湖のところは安全だと国交省が言ってるんですけど…」と振ってみたら「安全なわけないでしょ」と笑われてしまいましたとさ.(続けて,この手の予測計算法の概略と精度の限界についても解説していただきました.さらに浜名湖よりももっと衝撃的な話についてもお伺いしたが,刺激が強いのでさすがに書けない…)
追記:津波の押し波,引き波の際,こういった水路はかなりの激流になるそうで,河床や橋脚の足下が洗掘されるそうです.ここ,細砂地盤で,新居町付近は建設時に軟弱地盤地帯としてリストアップされてましたよね.静岡県下の新幹線富士川橋梁で,1982年の水害時に河床が7m,橋脚の足下が4m近く,合計10m以上洗掘されたこともありますよね(ただし震度ゼロ).
もし,この区間が500年前の集落水没時のように地面そのものが海中に没し,橋も使えなくなって,浜名湖ではなくて「浜名湾」になってしまったら,東海道新幹線の復旧には湾を迂回するような新線工事が必要になる可能性があり,昭和の東京オリンピック前の突貫工事のように急いでも数年は不通になる.
(まぁ,浜名湖は浅いので,「浜名湾」も浅いと思う.東海道新幹線のルート選定時には現在線の1kmほど北方の浜名湖の湖面上を橋で通す計画も検討された経緯もあるくらいなので,大きく迂回しなくても橋を作り直せばOKという話もある.とはいえ,数ヶ月で開通というのはやはり難しく,作り直すなら津波の影響を受けない足の長い橋を数年かけて,ということになるだろう.)
そういう点では,内陸を通るリニアには一定の合理性はあると思う.少々の被災なら,数ヶ月我慢すればいいだけなので,新線の必要は薄く,北陸新幹線を大阪まで開通させておけば十分であるから,わざわざ新線を整備する合理性が崩れかねない.
140117b-p29
聞くところによると,静岡県下では海岸部から内陸に人が移住しはじめているらしく,海岸部の人口が減少しはじめているらしい.

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-施設老朽化&まとめ編)

  • リニア新幹線整備に関する昔の主張の最後は,「東海道新幹線の施設が老朽化しているので,新線が必要」というものである.

この点に関しては,現行計画の審議の段階でも論拠として示されている.東海道新幹線が開業して(当時)40年(そして今年は50年),施設が老朽化しているので改修が必要であり,そのためにも新線が必要というものである.
しかし,これについても改修のための資金積立の制度も創設され,現行線の改修が進められつつある.大規模な改修も東海道新幹線の運行を止めること無く進める方針が出されており,じゃぁ,どうして新線が必要なの?という素朴な疑問は解消されていない.


ということで,10年以上前には様々な必要論が展開されていたものの,実際に残った論としては以下の項目だけではなかろうかと思われる.

  1. 巨大かつ効率的な経済圏の形成
  2. 冗長性確保(南海トラフ巨大地震)

付け加えるならば,いったん引っ込めた理由ではあるものの,その後の情勢変化により復活させた方が良いもの,あるいは修正した上で主張した方が良いものとしては以下の3つ.

  1. 首都機能移転時における新首都機能のサポート
  2. 全国の皆様の移動時間短縮のためには東西大都市間の輸送能力の大幅な向上が必要
  3. 東京-大阪間に限らず,全国的鉄道ネットワーク全体の強化による都市間移動のCO2削減(モード転換の促進)

このような整備の必要論の再定義をした上で,路線整備の是非を議論した方が良かったはずだが,なんだかまるでローカル新幹線のような議論をして整備計画をつくってしまった感がある(まぁ,基本計画自体がローカル新幹線なんだけど).

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-施設老朽化&まとめ編)

  • リニア新幹線整備に関する昔の主張の最後は,「東海道新幹線の施設が老朽化しているので,新線が必要」というものである.

この点に関しては,現行計画の審議の段階でも論拠として示されている.東海道新幹線が開業して(当時)40年(そして今年は50年),施設が老朽化しているので改修が必要であり,そのためにも新線が必要というものである.
しかし,これについても改修のための資金積立の制度も創設され,現行線の改修が進められつつある.大規模な改修も東海道新幹線の運行を止めること無く進める方針が出されており,じゃぁ,どうして新線が必要なの?という素朴な疑問は解消されていない.


ということで,10年以上前には様々な必要論が展開されていたものの,実際に残った論としては以下の項目だけではなかろうかと思われる.

  1. 巨大かつ効率的な経済圏の形成
  2. 冗長性確保(南海トラフ巨大地震)

付け加えるならば,いったん引っ込めた理由ではあるものの,その後の情勢変化により復活させた方が良いもの,あるいは修正した上で主張した方が良いものとしては以下の3つ.

  1. 首都機能移転時における新首都機能のサポート
  2. 全国の皆様の移動時間短縮のためには東西大都市間の輸送能力の大幅な向上が必要
  3. 東京-大阪間に限らず,全国的鉄道ネットワーク全体の強化による都市間移動のCO2削減(モード転換の促進)

このような整備の必要論の再定義をした上で,路線整備の是非を議論した方が良かったはずだが,なんだかまるでローカル新幹線のような議論をして整備計画をつくってしまった感がある(まぁ,基本計画自体がローカル新幹線なんだけど).

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-環境編)

  • リニア新幹線整備の昔の主張の5つ目は,「エネルギー環境問題への対応」である.つまり,乗用車や航空機に頼るよりは鉄道の方が良い,という主張であった.

しかし,リニアは乗用車や航空機よりはマシだが,鉄輪式の新幹線よりもエネルギー効率が劣るのが実情であり,リニア新幹線計画が実際に建設されようかという昨今でも,環境保護団体等から突っ込みを入れられている.
ということで,あまり積極的な理由では無かったが,これについても,「確かにリニア単体ではエネルギー効率はさほど良くないが,鉄道ネットワーク全体を強化するものであり,自家用車や航空から鉄道ネットワークへのシフトが起こりやすくなることで,全体としてはエコ」などと主張しても良かった.だが,そういった視点で調査が行われた形跡も無ければ主張が行われたという話も聞いたことが無い.多分に自線沿線にしか目が行っていないことの表れであろうか.「幹線の中の幹線」ならば,もっと広い視野があっても良いのだが,実際はそうでも無いようである.
リニアに関するエネルギー効率に関する批判についても,東京-大阪間のエネルギー効率に関するものばかりで,リニア導入による対航空機の競争力強化によって,モードがシフトすることで都市間交通全体としてのエネルギー効率向上,という点についてはほとんど考えが及んでいない.

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-南海トラフ編)

  • リニア新幹線の昔の必要論の4つ目は,「南海トラフの大地震-東海地震-により東海道新幹線が途絶するので,バイパス路線が必要」というものであった.

これには一定の説得力があり,整備計画審議の段階でも論拠として示されているが,やはりいくつかの指摘ポイントが存在する.

  1. 大地震で新幹線が途絶したケースは山陽新幹線,上越新幹線,東北新幹線でそれぞれ各1回ずつあったが,いずれも3ヶ月以内で復旧している.もしもこの程度であるのならば,わざわざ新線建設をするほどでもない
  2. 数ヶ月程度であるのなら,やや所要時間はかかるが北陸新幹線を全通させておけば,少々我慢している間に復旧できるレベルなのかもしれない
  3. 名古屋以西は南海トラフ地震が発生しても,壊滅的被害になることは無さそうなので,例え北陸新幹線が一部区間を共通使用して重複していても,東西間交通は確保できる
  4. そもそも,名古屋駅(および近傍区間)は大丈夫か?
  5. 名古屋から西側区間の整備論拠も”南海トラフ大地震”なの?

リニア新幹線については無いよりはあった方が冗長性確保の観点から望ましいが,単に一時的な輸送確保なら別策で十分,ということである.それとも,やはり壊滅的な途絶が発生するのか?

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-輸送力限界編)

  • リニア新幹線の昔の必要論の3つ目は,「東海道新幹線の輸送力が限界に達するので,バイパス路線が必要」というものであった.

当時の東海道新幹線は,信号システムと東京駅での列車折返し能力の問題から,最小運転間隔が約4分であり,計算上の片道あたり運転本数が,毎時15本であった.東京駅と新横浜駅の間には新幹線の車庫への分岐線があり,毎時15本の能力のうち,毎時4本程度は東京駅と車庫との間の回送列車のために空けておかなくてはならなかった.
これでは輸送需要に応えきれなくなるので,バイパス路線としてリニア新幹線が必要,という主張であった.しかし実際には,以下のような状況変化があり,東海道新幹線の輸送能力は足りてしまっているのが現実である.

  1. 信号システムが更新され,運転できる本数が増えた
  2. 東京-新横浜間の車庫分岐線よりも新横浜寄りに品川駅が開業し,回送列車の影響を回避可能になった(→さらに実際には,回送列車の影響をわざわざ回避しなければならない事態は,ほとんど発生していない)
  3. 日本の人口が減少局面に入り,輸送需要そのものが頭打ちになりつつある
  4. 北陸新幹線を整備すれば,首都圏から北陸方面や,北関東から関西方面への需要を分散させることができる

ということで,2014年時点ではこの主張は引っ込められてしまっているようである.しかし,よくよく考えてみると,「男の中の男」「女の中の女」ならぬ「幹線の中の幹線」であるリニア新幹線は,ひとたび開業すればその切符はプラチナチケットと化すのではないかと思うほど全国的効果絶大であり,「東海道新幹線の輸送力が限界なので必要」ではなくて「全国の皆様の移動時間短縮のためには東西間の輸送能力の大幅な向上が必要」という主張に修正されてもいいと思われる.が,しかし,ローカル新幹線として基本計画が立てられているので,考え方もそこから脱皮できていないようである.