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初夢鉄道2016答え合わせ(地方創生編−1)

さて,気がつくともう12月である.マスコミでは恒例の2016年重大ニュース系の記事や番組が出始めている.

当サイトでも年末恒例になりつつある「初夢鉄道答え合わせ」をしてみよう.さてさて,テキトーに思いつきで書いた年初の記事はどの程度当たっただろうか.

今回は「初夢鉄道2016(地方創生編)」の(その1)である.

2015年春に北陸新幹線が出来た後,ずいぶん金沢が注目されてにぎわったせいもあり,地方創生に新幹線は有効だという社会的認識が形成されるきっかけとなった.翌年,北海道新幹線が函館市の北方まで出来た際も,函館まで新幹線で行って道南観光をした後,千歳空港アウトという観光ルートが一般的になり,こちらもそこそこにぎわった.

これはほぼ当たったかな.中央政府の省庁はともかく,地方では新幹線が地方創生の切り札として認識されるようになった.

北海道新幹線についても,マスコミでは当初は北海道新幹線はガラガラだと喧伝していたが,(元々の母数が小さいので絶対数はまだまだ伸びしろがあるけれど)新幹線を使った北海道観光は活性化している.航空が新幹線に置き換わるかと思いきや,流動量そのものが増えているようだ.

妙なプロジェクトに金を出すよりはこっちに出した方が確実だという話になり,財務省の査定は新幹線とそれがらみの案件は通りやすくなった.いわゆる整備新幹線も残工事の完成は時間の問題と言うことがわかってきたため,「新」整備新幹線の策定,つまり基本計画線のうち,有望な路線や区間を新たに整備計画にしようかという話になってきていた.

財務省の財布のヒモは相変わらず固いが,別の方法でリニア新幹線の早期開業や整備新幹線の建設促進のために資金が準備されるようになった.ただし,純然たる新幹線建設費の増額ではなく,低利融資という方法であり,返済は必要である.

基本計画線の整備計画への格上げについてはまだ実現していないが,この一年,基本計画線の建設実現の熱は上がることはあっても冷めることは無かった.

ある程度地域バランスをとりながら,数路線区が取り上げられ,整備計画になるとともに具体的な工事の段取りについても着手された.これまでの整備5線は昭和40年代策定で半世紀以上かかって完成していたため,時間のかかりすぎだと言うことを反省し,現実的な時期に完成できるように資金計画が練られた.新たな整備計画線は,そこそこ客数が多い区間や大都市部における区間など,沿線開発も重視しながらも実際の利用客数がある程度見込める区間が選定されている.

整備計画への格上げはさすがに無かったが,現実的な時期に完成させることは重要との認識はできてきているのでは無いかと思う.これまで整備新幹線の着工等では沿線開発について言及されることはほぼ皆無であったが,北陸新幹線の敦賀以西区間のルート選定にあたって,数値に表れない項目の報告が求められるようになり,その報告として沿線開発について言及されるようになってきた.ただし,まだ開発効果を数値として示して新幹線建設と結びつけることまでは行われていない.

(づづく)

異なる試算結果のなぜ?…北陸新幹線敦賀以西

このお話.

北陸新幹線で未着工となっている福井県・敦賀以西の3ルート案をめぐり、滋賀県は28日、県の独自試算と国土交通省が公表した試算との相違点についての分析をまとめた。利…

情報源: 異なる試算結果のなぜ? 滋賀「米原ルート」国「小浜京都ルート」…北陸新幹線敦賀以西ルート(1/2ページ) – 産経WEST

交通計画する人にはほとんど疑問に思わない話でも,一般の人には難解かも.


「(滋賀県は)米原ルートについて、米原駅での乗り換え時間を県が5分と計算したのに対し、国交省は15分としていた。」

5分というのはラッチ(中間改札)無しでホーム対面の乗換でダイヤが綿密に調整されている場合だとこの程度.確か,九州新幹線の暫定開業時の新八代がこの程度だったかと思う.実際の東海道新幹線のラッチ経由在来線乗り継ぎの駅は7-10分程度を最低限の時間に設定している例が多い.

15分というのは跨線橋を渡ったりする可能性あり,プラス,乗り継ぎのダイヤ調整が完全ではない可能性を考慮するとこの程度かと思う.現状の「しらさぎ」と東海道新幹線の乗り継ぎがこの程度であったかと思う.

どっちが良いかというと,どっちもあり得る.JR会社間の協力次第.現状の雰囲気だと後者になる可能性が高いかな.


「(滋賀)県はいずれのルートも敦賀駅に止まる想定だが、国交省は止まらないと想定」

これも,どっちもあり得る.現状のサンダーバードですら,敦賀停車のものとそうでないものとがある.


「(滋賀県は)列車の速度を県が時速約165キロとしたのに対し、国交省は時速約200キロで試算」

これも,どっちもあり得る.前者は最近建設された新幹線の全駅停車列車ではありそうな値.後者は速達便でよく使う値.


ということで,「じゃぁ,試算結果はどう使えば良いの?」ということになると思うが,今回は「整備計画線」という路線なので,大阪まで建設する(新幹線で結ぶ)こと自体は決まっているため,ルート間の優劣を見るのが試算の重要目的になる.試算結果の数値の絶対値自体は参考情報であり,おそらく現実に開業した場合はどちらの数字でもない.

じゃぁ,どの数字を見ながら優劣を考えるのが適切かというと,それは整備の目的による,ということになる.

お金がないのでとにかく効率重視で整備したいのなら「B/C」の順序.整備の効果の大きさ重視で整備したいのなら「B-C」の順序.特定の地域の開発をねらっているのなら,その特定地域に関する「B」の大きさの順序.とにかく早期開業したいのなら,BやCではなくて工期の数字.

さて,いろいろ議論はあっても良いのだが,北陸新幹線て何のために建設するんだったっけ? 実はそのことを忘れている人が多いので,議論が迷走しているように思える.目的がはっきりすれば,自ずと答えは見えてくる.

#交通計画の授業で学生にこういって説明する.目の前に渋滞している道路があって困っているとしよう.これをなんとかしたい.いろいろ検討した結果ベストな案だといって出てきたのが「これが最も大もうけできる案」だったらどうする? 思わず「いやいやいや,で,その案で渋滞解消するの?」と聞きたくなるだろ? っってね.

 

11年前の試算結果

11年前の学会プレゼンファイルの1枚.フル版はこちらから.文章も読みたい人はこちらから.クリックすると図は拡大できます.

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どうも緑色のルートに近いものができそうな気配が出てきた模様.10年以上前に試しに計算してみたものに現実の議論が近いというのは変な気分だな.

簡単に解説しておくと,オリジナル小浜ルートよりは京都に立ち寄った方が便利(グラフの棒が長い方がbetter)というもの.在来線乗り入れ(湖西線に乗り入れ)つまりFGTはイマイチという結果.ついでに,米原接続も(値段は激安だが)イマイチ.

京都と大阪間にもう1駅追加するなら,枚方や寝屋川あたりがいいが,ここ数日突如として出てきた京田辺は可もなく不可もなく(寄り道してもギリギリ許せるレベル)という結果.

なお,このファイルは当研究室のサイトに10年以上前から転がっている.

四条畷駅で日々繰り広げられる悲劇

JR学研都市線こと片町線.客の多い時間帯はこういう列車構成.

快速電車:京橋←→四条畷←→長尾・松井山手←(全停)→木津方面
普通電車:京橋←→四条畷←→長尾・松井山手
普通電車:京橋←→四条畷

ところが,数年前から土日や平日の昼間はこういう構成になった.

区間快速:京橋←→四条畷←(全停)→木津方面
普通電車:京橋←→四条畷

大阪の都心方面である京橋発着の場合はあまり問題がないのだが,区間快速の「四条畷←(全停)→木津方面」の各駅と普通電車の「京橋←→四条畷」の各駅との間を移動するには,四条畷駅での乗換が必要になる.

特に問題なのは郊外側木津方面から区間快速に乗って四条畷駅で普通電車に乗り換える場合である.

何が問題かというと,四条畷駅発着の普通電車は,区間快速到着時には1番線と4番線の両方に停まっており,ともに「普通:西明石」を表示しているのだ.

運が良ければ,区間快速の停車したホームの対面から乗り換えた普通電車が出発するが,運が悪いと跨線橋を越えての乗換になる.

ちゃんと電光掲示を見ていれば問題はないが,多くの客は区間快速から降りると「普通:西明石」の表示を見て何の疑問も抱かずにほぼ無条件でホームの対面に停車中の普通に乗り換える.

数分後,おもむろに普通電車が出発するが,何の疑問も抱かずに乗り換えた電車が先発である確率は1/2.残り1/2は15分間車内で待たされる.観察していると毎便毎便,かなりの頻度で悲劇が発生している模様.

何のことはない,JRの職員の行動をかえればいいだけなのだが,もう年単位で改善される気配はない.どういうことかというと,京橋から到着した四条畷駅折り返しの電車は,とにかく到着後に「普通:西明石」を表示させてからドアを乗降可能な状態のまま車掌も運転士も持ち場を離れる(先発でなくとも).あらかじめ準備をしたつもりだろうが,これが乗客の誤乗の原因.

解決策は簡単である.到着したら一旦ドアを閉めて,本当の先発普通電車の出発を待ってからドアを開放する.もしくは本当の先発普通電車の出発を待って「普通:西明石」を表示させるかである.引き上げ線が無い分,多少の気配りは必要である.

乗務員の行動の合理化≠乗客の利便向上

という悪い事例.JとRの間に「N」が再び見えてませんか?

 

奈良盆地で工事をすると…

奈良つながりで思い出したお話.昨日の話題とは直接の関係は無い.

奈良盆地で土木工事をすると…

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いろいろ出てくることもある模様.これは土器かな.噂には聞いていたが,ほんとに移植ごてみたいなスコップとハケで掘ってる.基本は記録を取ってその後は工事続行らしいが,たまにとんでもないものが発見されたりすると,計画が大きく変更されることもあったかと思う.

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有名どころは国道24号.奈良の市街の西側にバイパスをつくろうとしたら,平城宮跡の一部が出てきてしまい,東へと大きく迂回.

奈良にリニアの駅をつくるのなら,個人的には近鉄大和西大寺駅併設が奈良県にとってもっとも便利だと思っているが,場所が場所だけにまず工事は無理.…で,どこにつくるのかなぁ.

#上の写真は郡山市と天理市の境界付近.奈良市内を外せば大丈夫というわけでもない模様.京奈和自動車道や国道24号バイパスの建設が妙に遅い原因は,こういった背景もあるかな.

 

”新幹線なら間に合ってます” と返答して奈良が失ったかもしれないこと

このお話.

北陸新幹線の大阪延伸をめぐり、京都-新大阪間で検討されている南北の新ルート2案のうち、関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)を通る「南側ルート」について与党…

情報源: 北陸新幹線「京都―新大阪」間に“第3のルート” 知事の意向受け奈良回避、与党が国土交通省へ検討要請

これまでの整備新幹線沿線各地と比べて負担額そのものは大したことが無いが,(今さら言っても遅いけど)リニアに気を取られて奈良が失ったかもしれない将来のポジションのお話.逃した魚は超デカい.

記事では北陸新幹線の南側ルートを打診して『けいはんな学研都市経由では多くの利用者が期待できず「財政負担に見合うメリットがない」と述べた。』とある.どこに駅をつくる想定で打診したのかは定かではないが,//奈良市やその周辺にとって便利な位置に駅をつくってくれ//…と,近隣のどこかの駅に併設させるような交渉をする価値はあったかもしれない.

ご存じのように,中央新幹線が奈良市付近を通過することが決まっている.これは東海道新幹線の代替バージョンアップ路線.北陸新幹線が奈良市付近にきた場合は,これは北陸本線(&湖西線)の代替バージョンアップ路線.構想レベルだが北陸新幹線は山陰新幹線と京阪間の線路を共用する可能性がある.これは山陰本線の代替バージョンアップ路線.

さらに,北陸新幹線が新大阪に達すると,現状の新幹線電車そのものでは難しいが山陽新幹線が京都あたりまで乗り入れてくる可能性は十分ある.というかJR西はずいぶん前からそれを希望していたと思う.つまり山陽新幹線も手に入れる.さらにさらに,北陸新幹線を新大阪経由で関空方面へと直通させるという構想もある.これは特急はるかの代替バージョンアップ.

つまり,上に書いた交渉をしていれば,ほぼ現状の京都市のポジションを手に入れることができた.東海道山陽新幹線だけでなく,国際空港アクセスや日本海側への高速アクセスが可能なポジションである.リニアの分だけ優位なので,100年くらいすると京都市と奈良市の全国的な地位が入れ替わったかもしれないのだ.だが,どうやらそこまでは考えが及ばなかったようである.

千載一遇のチャンスを逃したお話.

この結果,奈良がどうなったかについては,概ね100年後の2100年頃の歴史家がまとめてくれると思う.先見の明って大事だね.

#なお,リニアだけの状態だと「東京まで1時間半,名古屋まで30分ほど,所属する大都市圏の中心部まで1時間ほど,それ以外は特筆すべきもの無し」なので,全国的には豊橋市程度のポジションかな.都市規模的にも同程度だ.

明治のホームは新幹線の姿を見ることができるか?

新幹線工事の始まっている長崎の諫早駅のホーム.旧島原鉄道&JRの1番線ホームである.このホーム,よく見ると「地層」が見られる.一番下の地層はレンガ積みである.その後の列車の床面上昇に合わせてかさ上げされている.

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長崎の鉄道開業は他県に比べるとやや遅かったが,それでも1898年(明治31年)には九州鉄道の駅として諫早駅が開業している.島原鉄道は1908年(明治41年)の開業だ.とすると,このレンガホームはその当時のホームかな?

かさ上げ前はこんなイメージ.(これは明治村)

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約125年後,そのホームのすぐ近くに260km/h運転の新幹線ホームが増設される模様.完成後は,東側から順に島原鉄道,在来線島式ホームx2,新幹線相対式ホームになり,このホームは新1番線&2番線になるようなので,このホームはそのまま生き残る可能性がある.

FGTがどうのこうのと揉めてるが,レンガホームからは「長生きしてみるもんだ」という声が聞こえてきそう.

#もっとも,そのまま流用はされるものの,外側からの見た目はきれいに化粧される可能性も高い.果たして明治のホームは新幹線の姿を見られるのか…?

青函トンネル内高速化検討

青函トンネル内の運転速度を140km/hから160km/hへと向上させる話があるようだ.

情報源: 東京―新函館北斗3時間台へ青函高速化検討 トンネル内限定 | どうしんウェブ/電子版(経済)

元々,青函トンネルの新幹線の設計速度は確か160km/h(旧型新幹線車両使用時の勾配における登坂能力やブレーキ能力の関係で)だったと思うので,ようやく当初計画レベルになる模様.

青函トンネル自体は新幹線規格のサイズで設計されているが,三線軌のためにカント(左右のレールの高さの差.自動車のテストコースの曲線部分を思いだしてね)が十分に取れないようで,同じマクラギを共通で使用している限りは狭軌のカントの1.34倍程度である.しかも狭軌の方は事実上の貨物列車専用線なので,在来線特急が目一杯の速度で走るような最大カントの105ミリにはせずに標準的な70ミリなのかもしれない.(→調べたがよくわからない)

そうすると標準軌の方は1.34分の一のせいぜい95ミリということで,新幹線のカントの最大値(200ミリ)の半分くらい.青函トンネル内の曲線は,東北新幹線レベルの半径4000メートルよりもさらに緩い6500メートルだったかと思うが,もしカント95ミリしか無いとすると,せいぜい230キロ運転が限界か?

そもそも新幹線の160km/h運転を想定して青函トンネルが設計されているので,曲線部における建築限界も160km/h運転を想定して設定されており,高速運転用にカントが設定できても建築限界の問題が解決しないのではという話もある模様.

青函トンネルにおける新幹線化前の在来線特急の速度は140km/hであったが,これに合わせてカント量が設定されているとすると,曲線部でのカント量はわずか25ミリ.新幹線がその1.34倍とすると34ミリ.これだと新幹線でも140km/h運転になりそう.現状はもしかして,これか?(→調べたがよくわからない)

なお,風圧で貨物列車が荷崩れを起こす可能性については,50年以上前の東海道新幹線建設時において既に指摘がされており,東海道新幹線の工事誌には新幹線における貨物列車のすれ違い速度は150km/h程度が限度と書かれている.そして,東海道新幹線を使用した新幹線貨物列車の速度も150km/hを想定して構想されていたようだ.

 

新幹線整備スキーム

現在の新幹線整備スキームは,

国:地方=2:1

…の建設費負担割合が原則で,最近はここに借入金などが付加される形だ.だが,まぁ,原則,公設民営である.

ところで,最近は北陸新幹線のルート問題に対して経営予定の会社がいろいろと注文を付けているようだが,注文を付けて確実にそうさせたいのなら,自ら出資する方法もあると思う.

なお,もうすっかり忘却の彼方だが,北陸新幹線の高崎-長野間の建設費負担スキームは上に書いた割合によるものではなく,運営予定のJRの出資も行われている.スキームは未来永劫,固定化する必要は無いと思う.

鉄道事業の地域独占(需給調整)は既に原則廃止されて15年以上経過しており,明確に残存しているのは新幹線だけである,しかも,それについては法律に明文化されているわけではない.新幹線整備関連の法令には事業者を決めろと書いてあるだけで,既存の事業者が引き継げとは書いていない.公費により整備された公共施設を民間が利用する場合はオープンアクセスが原則であり,一事業者に絞る場合でも,公募が本来必要なのだが,形式的なものですらナゼかいまだに行われたことが無い.厳しい見方をすれば,習慣的に特定の幹線鉄道事業を行う事業者への便宜が図られ続けている(巨額の補助金が支出され続けている)状態と見ることもできる.

…と,我が社の主張が当然というような顔をして大きな声でいろいろ発言しているのを見ると,ちょっとひとこと言いたくなる,今日この頃.

マスコミは広告収入減らしたくないから何も言わないよね.

フリーゲージ長崎実験線?

再び,このお話.

九州新幹線長崎ルート(博多-長崎)に導入予定のフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)を巡り、国土交通省の水嶋智鉄道局次長は21日、佐賀県庁で副島良彦副知事…

情報源: フリーゲージ延期を報告 佐賀、長崎県に国交省

国土交通省は,あくまで平成34年(2022年)の時点で九州新幹線の長崎ルート開業時にフリーゲージトレインを入れたい意向だが,ちょっと待て.新技術の使用は机上のスケジュールで決めるのは危ないぞ.

確かに営業列車を使って新しい技術を確かめるという方法は存在する.ただし,それは新技術が「フェールセーフ」の時だけだ.つまり,予定通りの機能を発揮しなくても,安全な挙動を示すだけで致命的な結果には至らないような場合は営業車を使って試験してもかまわないだろう.

例えば,乗り心地を改善する装置なら乗り心地が低下するだけで走行そのものには問題が無いとか,エネルギー効率を改善する装置なら効率が低下したり機器が停止したりするだけで走行そのものは続けられるとかである.

ところが,フリーゲージトレインの新しい技術は走る装置そのものである台車である.走行中に台車が壊れれば,停まるだけ…なわけなく,脱線転覆レベルだ.フリーゲージトレインの開発において,走行中に台車が破損しても大丈夫なように多重系にしたとか,安全に停止できる装置を併設したという話は聞いたことが無い.とすれば,信頼性が一般の新幹線レベルの信頼性に達して初めて営業車に使うべき技術である.

このままだと,十分な走り込みもせずに九州新幹線長崎ルートに投入ということになりかねない.そうなったら,「フリーゲージ長崎実験線」だ.新幹線の安全性は「枯れた技術の投入」が原則ではなかったのか?

現実的な九州新幹線長崎ルートの解は,佐賀県下のフル規格新線建設か,もしくは新鳥栖-佐賀-武雄温泉間のミニ新幹線化(一部は三線軌化)であろう.フリーゲージ導入は,技術が確立されて以降に建設される新幹線からだ.

技術者倫理の観点から,決して「人柱」はしてはいけません.