毎日新聞社説の精度(リニア新幹線公費の投入は話が違う…の件)

この話.

 JR東海が建設中のリニア中央新幹線に、国の資金が投入される方向だ。政府は近くまとめる大規模経済対策の柱にリニア支援を据える。  国が財投債と呼ばれる国債を発行して約3兆円調達し、それを長期、固定の超低金利でJR東海に回す。同社の負担が軽くなる結果、借金の残高が一定以下に減るまで待つ予定だった名古屋−大阪の着工を早められ、完成を現在の2045年から最大8年前倒しできるという。

情報源: 社説:リニア新幹線 公費の投入は話が違う

中央新幹線計画は国策の全幹法ベースの基本計画線であり,それに乗っかってリニア新幹線計画が国の審議を経たわけだ.JR東海自身も勘違いしているようだが,国策にがっつり載っかったプロジェクトなので,そもそも論として「手も口も出すな」は無理がある.

計画内容の審議は通常の鉄道計画(鉄道事業法ベースの私的事業)とは異なり,全国新幹線鉄道整備法という国策に従って審議されたわけであり,国益に資するかどうかが主要な視点なわけだ.今回の3兆円貸し付けは,このまま民間に任せているだけでは国益を損なうとの政策判断がされたわけだ.

「整備新幹線のような公的資金による国家プロジェクトの位置づけであったら、JR東海単独の事業として認められただろうか。」と書いてあるが(…この文章,国家プロジェクトならJR東海の事業じゃ無いだろ,新聞屋の文章として恥ずかしくないのかなという基本的な指摘はさておき),東京大阪間の鉄道なので,通常タイプの新幹線としても事業は有望なレベル(おそらく整備5線よりも有望なレベル)であり,もしも通常型新幹線なら,整備新幹線の建設費の相場のキロ70億円程度で計算すると,全線約500kmで3〜4兆円程度になる.つまり,この程度の公費負担は不思議な額ではない.

そういう点では3兆円というのは妥当な規模の資金投入だ.

なお,新聞社は勘違い(世論のミスリードを狙った表現?)しているようだが,この3兆円投入は「公費投入」ではなくて「公費の貸し付け」であり,(超低金利ではあるが)返済を要するものである.

それから,「南アルプスを貫く総延長約25キロのトンネル工事など、経験のない難航が予想される。」と書いてあるが,21世紀の現在では,想像を絶するレベルの長さのトンネルというわけではない.社説を書いた人の頭にはシンプロントンネルが浮かんだのかもしれないが,それは20世紀初頭の産物だ.

この25kmトンネルの土被りは1400mらしいが,土被り2000m級のトンネルがスイスで先日開通してるので,この工事ができないなら日本のゼネコンは今後は海外で受注できなくなる可能性があり,必死で貫通させるだろう.

あと「過去の公共事業でみられたように工期が長引き費用が膨張する恐れもある。追加支援を求められ国の負担が増加したり、予定通りに返済されずに国民負担が発生したりする可能性はないのか。」だが,そうなったらJR東海は日本航空と同じ運命をたどることになる可能性があり,JR社は必死になって回避するだろう.その点が通常の公共事業の工事と大きく異なる点である.民間主導の公共事業については何通りか方法があるので,記事を書く前に勉強しましょうね.当然知ってるよね?