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リニア新幹線整備の理由(法律の想定する段取り編)

再び同じような話で恐縮だが,新幹線を計画史,整備の段取りをして工事に入るまでの行程を,全国新幹線鉄道整備法(全幹法)と関連する政令の全国新幹線鉄道整備法施行令(施行令)に従って解読すると,このようになる.(大事な話なので,繰り返しました.)
まず,全幹法に従って基本計画を立てる.全幹法第4条の1により以下の3項目を考慮し…

  1. 輸送需要の動向
  2. 国土開発の重点的な方向
  3. 効果的な整備を図るため必要な事項

施行令第2条に従って,以下の調査を行い…

  1. 輸送需要の見通し
  2. 所要輸送時間の短縮
  3. 輸送力の増加がもたらす経済的効果
  4. 収支の見通し
  5. 他の鉄道の収支に及ぼす影響

施行令第1条に示された事項を決めて…

  1. 建設線の路線名
  2. 起点
  3. 終点
  4. 主要な経過地

全幹法第3条に示された路線を計画する

  1. 幹線鉄道網を形成
  2. 中核都市を連結

ここまでで基本計画策定.//
さらに,整備計画策定を定めるには,施行令第3条に従って以下の項目を定め…

  1. 走行方式
  2. 最高設計速度
  3. 建設に要する費用の概算額
  4. その他必要な事項

施行令第3条第2項に従って…

  1. 整備計画は、工事を着手すべき時期に応じ、建設線の区間ごとに定めることができる

となっている.ここまでで整備計画策定.//
この後,環境影響評価を行った後,工事実施計画をつくって許可を得てようやく着工.この段取り手順,よーく覚えておいてね.

リニア新幹線整備の理由(東京-名古屋編)

ネタ提供したことのある話題なので,すでに本などで読んだことがある人も多いお話し.ただし,彼の本の記述よりはちょっと詳しい.
すでに整備計画が策定されたリニア新幹線であるが,その意義について法律に従って再検証してみよう.まずは,間もなく工事が開始されるであろう名古屋から東側区間である.
新幹線整備に必要な考慮事項は以下の三点であったが,1番目と3番目をまとめると経済合理性とも言えるので,結局主要な論拠は,1)経済合理性がある,2)国土整備の方向性と合致している,の2つになる.名古屋から東側区間については1)は株式会社がすることなのでともかく,2)はそれなりに理由がつく.

  1. 輸送需要の動向
  2. 国土開発の重点的な方向
  3. 効果的な整備を図るため必要な事項

1962年に始まった一連の全総計画は,1987年の四全総まで形を変えながら「開発」を掲げ,国土の均衡ある発展を目指してきた.その後,五全総相当の21世紀の国土のグランドデザインでは「開発」の看板を下ろし,2008年には根拠法そのものを改正して法律名からも開発が消えた.震災後は,正式な国土計画ではないが具体的な国土整備の方向性として「国家のリスクマネジメント」を掲げた「…国土強靱化基本法」に基づいて各種整備が進められつつある.
こういった国土整備の方向性から考えると,内陸に幹線を整備するという方向性は一定の合理性はある.
東海道新幹線の脆弱な箇所は明確にはされていないが,数ヶ月単位では収まらない決定的な被害を受ける可能性のある区間としては浜名湖を渡る部分が考えられる.いちおう,国土交通省鉄道局は大丈夫といっているらしいが,外洋から15-20m近い津波がやってきたらどうなる? 今切れ口付近に6m程度の防潮堤があるとはいえ,無傷で安全,とは考えにくい.
そもそも,500年ほど前の明応地震(1498年)に地盤沈下して集落が海中に没しているような地区である.
さて,下の写真は昨年夏に撮った写真であるが,ちょうど干満の中間,平均的な海面の写真を撮ったようである.最近は便利なことに場所と日時を指定すれば,海面の高さの計算値を表示してくれるサイトがある.
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さらに便利なことに鉄橋には目盛りがついているので,写真から,平均海面から在来線の橋梁の下部までの距離が約3.5mだということも簡単にわかる.
加えて便利なことに,現地に行くとあちこちに地面の海抜高度が表示されており,この橋の付近の海抜高度は約4.8mだということもわかる.
もっともっと便利なことに,静岡県のサイトには内閣府が試算した満潮時に津波が襲った場合に,地面が何メートル浸水するかの計算結果も出ている.どうやらこの橋の付近は「2〜5m」の浸水予想である.
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そうすると,地盤の高さに浸水予想を加えると,満潮時に津波が来た場合にどの辺まで水面が来るのか計算できてしまう.結果は,少なく見積もって6.8m,最大9.8mになる.この数字は,平均海面からの高さであるので,写真にどの程度か描いてみると,こういう結果になった.ベースの岩盤の沈下は考慮してあるそうだが,砂地盤が液状化して長面浦や500年前の村櫛伝説のようになることは想定していない結果である.低めの計算でも橋桁すれすれくらいまでは水面が上がるようである.(安全率1,もしくは1未満ということ)
なお,津波のことに詳しい先生に「津波が来ても浜名湖のところは安全だと国交省が言ってるんですけど…」と振ってみたら「安全なわけないでしょ」と笑われてしまいましたとさ.(続けて,この手の予測計算法の概略と精度の限界についても解説していただきました.さらに浜名湖よりももっと衝撃的な話についてもお伺いしたが,刺激が強いのでさすがに書けない…)
追記:津波の押し波,引き波の際,こういった水路はかなりの激流になるそうで,河床や橋脚の足下が洗掘されるそうです.ここ,細砂地盤で,新居町付近は建設時に軟弱地盤地帯としてリストアップされてましたよね.静岡県下の新幹線富士川橋梁で,1982年の水害時に河床が7m,橋脚の足下が4m近く,合計10m以上洗掘されたこともありますよね(ただし震度ゼロ).
もし,この区間が500年前の集落水没時のように地面そのものが海中に没し,橋も使えなくなって,浜名湖ではなくて「浜名湾」になってしまったら,東海道新幹線の復旧には湾を迂回するような新線工事が必要になる可能性があり,昭和の東京オリンピック前の突貫工事のように急いでも数年は不通になる.
(まぁ,浜名湖は浅いので,「浜名湾」も浅いと思う.東海道新幹線のルート選定時には現在線の1kmほど北方の浜名湖の湖面上を橋で通す計画も検討された経緯もあるくらいなので,大きく迂回しなくても橋を作り直せばOKという話もある.とはいえ,数ヶ月で開通というのはやはり難しく,作り直すなら津波の影響を受けない足の長い橋を数年かけて,ということになるだろう.)
そういう点では,内陸を通るリニアには一定の合理性はあると思う.少々の被災なら,数ヶ月我慢すればいいだけなので,新線の必要は薄く,北陸新幹線を大阪まで開通させておけば十分であるから,わざわざ新線を整備する合理性が崩れかねない.
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聞くところによると,静岡県下では海岸部から内陸に人が移住しはじめているらしく,海岸部の人口が減少しはじめているらしい.

浜名湖を渡る鉄道(鉄橋観察編)

せっかく現地まで行ったので,浜名湖の鉄橋を観察してみた.舞阪-弁天島-新居町間には南から順に国道1号,在来線,新幹線,県道の橋が架かっている.ここがやられると,非常にまずい場所.戦時中には艦砲射撃をおそれて二俣線(現在の天竜浜名湖鉄道)を内陸側につくったという箇所.
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県道から新幹線を見ると,こんな感じだが,土木系なので,橋脚も気になるところ.
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歩道が橋の下をくぐっている部分にゆくと,こんな感じ.地盤は基本的には砂のようであり,川というよりは砂浜に近い.新幹線の橋梁の銘板を見ると,1962年に作られたもののようであった.足の長さは4.4メートル.その下はケーソン基礎(要するに,筒ですね)で14メートルの深さまで埋められているようである.「細砂」というのは地盤の種類のことか? 支持層まで達しているんだろうか? 荷重にNとPが書かれているので,旅客列車とともに貨物列車の荷重も考慮した設計になっているということであろうか.
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一部の橋脚には目盛りがついており,けた座面から水面までの距離がわかるようになっている.(ここに限らず,ほとんどの橋梁はそうなっている.)1枚目は新幹線,2枚目は在来線.この目盛りを参考にすると,いろいろとわかってくることもある.
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弁天島にある津波時の避難所.この程度の施設で大丈夫なんだろうか.
IMG_1555(2013年8月現在)

浜名湖を渡る鉄道(村櫛伝説編)

浜松市の博物館に行ってみた.そこにある展示物には,かつての浜名湖の地形を示す地図がいくつかあった.下の2枚の写真はそれであるが,白い部分が昔の陸地,青い部分が昔の浜名湖,黒実線で縁取りされているのが現在の湖岸である.かつては浜名湖と太平洋は陸地で隔てられており,浜名湖南端からいったん西方向に伸び,太平洋(遠州灘)に注ぐ河川があったようである.東海道はこの陸地,つまり砂州上にあり,橋本という地区で河川を越えていたようである.
浜名湖の湖底にはいくつもの遺跡が沈んでいるようであり,地盤が沈下していることがわかる.現在は浜名湖と太平洋がつながっており,浜名湖の水面はさほど高くないが,かつては基本的に隔てられていたことを考えると,水面はおそらく現在よりも高かったと思われる.そうすると,地盤の沈下は水面の低下以上に進行したということであろう.
現在の新幹線等は,1枚目の図の浜名湖南部を通過しており,湖面の一部を埋め立てた飛び地状の陸地を橋で渡ってゆく形態になっている.
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今切れ口(1枚目の地図の「今切」)付近から北東方向を見た様子.古い地図では湖面は見えなかったはずだが,明らかに水没している.宮城県石巻市の長面浦と似たような状況であろうか.この水没した地域にあった集落が2枚目の地図の「村櫛」に移転したという伝説があるらしい.室町時代の話.

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浜名湖を渡る鉄道(今切れ口編)

新幹線や在来線,国道1号は,静岡県下の浜名湖付近で橋を渡っている.多くの人は川を渡っていると思っているが,この部分は川ではなくて,浜名湖の一部である.下の写真は新幹線が浜名湖にかけられた橋を通過しているところであるが,このサイトのバナーの元写真でもある.
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新幹線が渡っている箇所の北側は「浜名湖」.では南側は?こっちも下の写真のように別の湖に見えるが,浜名湖の一部である.つまり列車は浜名湖の上を鉄橋で渡っているということである.橋の途中の陸地は埋め立て地である.
下の写真の赤い鳥居は観光用.ずっと奥には浜名バイパスの大きな橋が見えている.この南側の湖であるが,かつては陸地であり,今から約500年前の大地震(明応地震[1498年])で沈下してできた場所のようである.
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上の写真左側から浜名大橋付近まで行ってみる.海岸が近づくと,まだ海が見えないにもかかわらず,防潮堤があらわれる.高潮対策であろう.陸地の海抜は4メートルほど.防潮堤は1.5メートルほどなので,せいぜい6メートル程度の波高を想定した設備のようである.
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そして,浜名大橋.橋の下は川ではなくて,太平洋と浜名湖をつなぐ水路である.干満にあわせて潮が激しく出入りする.
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今度はぐるっとまわって,浜名大橋の西側に来てみる.
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こちらにも防潮堤があり,その高さは…
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やはり6メートル程度の波高を想定している.下の写真は先ほどの「水路」の反対側からの写真である.太平洋と浜名湖を隔てていた陸地が地盤沈下や津波などで水没して繋がったことから,「今切れ口」というらしい.今まさに切れてつながった入口,という意味か.
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橋の下はこんな感じなので,このバイパス道路が防潮堤として機能する…ということはあまり期待しない方が良さそうである.
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今切れ口付近から,新幹線などが浜名湖を渡っている箇所を見ると,こんな感じ.特に遮るものは何も無い.外洋から大きな津波が来ると…
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(2013年8月現在)