リニア」タグアーカイブ

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(失敗尻ぬぐい編)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの2つ目である.フルバージョンはこちら.

  •  2つ目:事業失敗の「穴埋め」で国民への多大な負担と犠牲の押し付けが起きる危険性がある

事業失敗のケースは,実は2種ある.1つは建設段階の失敗,もう一つは,開業後の失敗である.
建設段階の失敗については,実はあまり心配する必要がない.なぜなら,失敗しても何とかなるように,建設のスピードがキャッシュフローで制約されている.もっと簡単に言うと,間もなく概ね終了する東海道新幹線の買取分割ローン払いの分を新線建設にまわすようなものなので,それが失敗行動ならすでに現時点でJRは経営破綻している(でも,実際にはしていない).つまり,外部に影響を及ぼすような失敗の見込は基本的には無く,たとえ失敗しても東海道新幹線の経営が破綻するわけでもなければ,背負ったこともないような巨額の負債に喘いで苦しむわけでもない.負債の額は最大でも東海道新幹線買取時の額までに抑えるようになっている.一気に投資できれば,大阪まで同時開業できるはずだが,できないのは年々の投資額を過去の経験に基づいてセーブしているからである.指摘主は知らないんだろうか?
むしろ,企業経営面よりも国益面では,キャッシュフローによる制約が社会的失敗の原因になりかねない.整備に時間がかかることで沿線の人口分布が変化してしまい,衰退する都市が出てくると大都市なので影響が大きくて放置するわけにもいかず,別のお手当(活性化のてこ入れ策)が必要になる可能性すらある.基本的にはリニアは優良事業なので,促進した方が国益の点では有利なくらいである.リニアは民間活動を大きくサポートするインフラだ.
開業後の経営段階の失敗の可能性はありうる.リニアの失敗と言うよりは東海道新幹線の軟着陸策の失敗の可能性である.リニアは現行の新幹線よりも1時間から1時間半程度時間短縮され,運賃も大幅には上昇させない方針のため,開業すればみんなリニアに乗りたがる状態になることが予想される.そうすると,現行の東海道新幹線の客が減るわけだが,リニア+東海道新幹線の総客数が増えない限り,JRの収入もあまり増えないので,経費ばかりがかさんで利益が減る可能性はある.インフラ産業の悲しいところは,客が1人も居なくても,インフラがそこにあるだけで維持費がかかってしまうことである.
そうすると,リニア開業後の事業成否のカギは,実はリニアではなくてガラガラになった東海道新幹線における新規顧客開拓である.下手に薄利多売に打って出ると,せっかくのリニア客を食ってしまう可能性もあり,利益率も悪くなってしまう.比較的高い運賃を保ちながら,今までの東海道新幹線では提供できなかった新しい種類のサービスを提供すれば成功,できなければ苦しい状況に陥る可能性はある.今のところ,東海道新幹線での新しいサービス提供については,明確な表明はない.
(都市圏通勤輸送に乗り出すのでは,という話はあるが,既存通勤鉄道線とパイの奪い合いにある可能性もあり,さらには通勤輸送だと客単価を高くできない可能性もある.)
JRは日本国有鉄道ではなく株式会社なので,指摘するなら「国民への多大な負担と犠牲の押し付け」の前に「株主の責任が厳しく問われるとともに,株式出資の範囲内での経済的責任が明確化されること」や「貸し主の貸し倒れの可能性」を指摘するのが妥当.でも,それって余計なお世話だよね.株主にしろ出資者にしろ,各自の判断で行動してるんだから.
もし失敗しても,地方のローカル鉄道とは異なり,日本の中心部分の鉄道なので,東西間輸送事業そのものは再生できる可能性が高く,事業が再出発できれば再上場も可能と思われるため,最終的には一般国民の血税がダラダラ垂れ流しになる事態にはなりにくい.(出資者は除く)それとも,この指摘主は「資本家」の心配をしているのだろうか?
(リニアの需要を心配してあげるなら,経由地をなるべく人口密度が高い地帯にした方がいいですよ,という提案をしてみてはどうでしょう.…と言うか「リニアの需要が予測通りに伸びない」ことよりも,「リニアの切符が人気すぎて買えない」ことを心配した方がいいでしょう.それから「在来線の廃止」は何処のことを言っているのか,よくわからんが,閑散路線のことならリニア以前の国の鉄道政策の問題です.たたく相手を間違ってますよ.)

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(輸送力編)

リニア新幹線についてはいろいろと段取りがおかしいことを指摘しているが,しかしながら基本的には,リニア整備については「さっさとつくるべし」という立場である.だが,世の中にはそうでは無い意見も存在しており,気になるところである.
そういう「反対意見」にあれこれ言うと,後々面倒なことになる可能性が高いことは,堺のLRT関係の経験で重々承知なのだが,やはり気になるのでちょっと考えてみよう.(中には見落としていた視点が指摘されていることもあるので,多様な意見は重要である.)
さて,反対意見の代表的なものとして選んだ,というか,ネット検索でわかりやすい形で引っかかったと言った方が正確だが,この意見の各項目を考えてみる.主に5項目あげられており,話が長くなりそうなので,1項目ずつ考えてみる.

  • 1つ目:「輸送需要」「時間短縮」などに国民的な要望も経済的社会的な要請もなく、建設には“大義”がない

実は2つ指摘事項が書かれており,量としての輸送需要の問題と時間短縮という質の問題ともに大義がないという指摘である.
まず,量の面での「輸送需要」については,webmasterも同様の指摘はしたことはある.別線がなくても,信号システム(ATC)の更新,品川駅の設置,人口減少局面突入,北陸新幹線計画の存在などにより,「既存の」輸送需要に対する逼迫のピークは過ぎつつある可能性はある.
だが一方で,リニアの時間短縮量は他の交通機関に比べて半端ではない.東京-大阪間1時間では航空便と変わらないという指摘もあろうが,航空と鉄道では使い勝手が雲泥の差であることは明々白々.もし使い勝手が同じなら,現時点で航空の圧勝のはずだが,そうはなっていない.便利な鉄道の大幅な時間短縮により,新規需要が喚起されることは確実で,特に山陽新幹線などリニアと乗り継いで移動するような区間において航空からリニア(+新幹線等)へとシフトする量が多いことが予想される.料金も現行ののぞみ号に比べて大きくは上げない方針のようだ.なので,リニアは開業早々に輸送力不足に悩まされるほど大人気になると信じている.
「時間短縮」については,東海道新幹線のぞみ号に乗車してみればすぐわかるだろう.東海道新幹線は観光客も乗るが基本的には太平洋ベルトの主軸を走るビジネス列車である.時間給の高い有能なビジネスマン達が,2時間以上も列車に箱詰めされている様子を見れば,これは経済的に見ても大変な損失だと感じることだろう.(ただし,観光客は別である.彼らは箱の中に居ることを楽しんでいることが往々にしてある.)それとも,彼らビジネスマンの姿を見ても何も感じないのだろうか?
基本的には2項目とも強い要望があるのが東海道新幹線である.(白浜温泉や城崎温泉に行く列車とはニーズが違う)
新幹線に対する「国民的な要望」については,料金や時間が同じような条件なら航空よりは新幹線を選ぶことが多い,という国民性で証明されている.プラカード持ってデモをしたり,ハチマキ巻いて陳情したりするだけが国民の要望ではない.時間短縮すれば,それに応じて客が増える事例があることから見ても,サイレントマジョリティの要望は明白だろう.あれだけボコボコに言われていた整備新幹線も,開業すると従前の特急列車よりも客数を伸ばしている.
経済的な要望については,産業界が「さっさとつくれ」といっている状態なので,要請は明確に存在している.東海道新幹線についても輸送能力がネックで輸送需要サービスの多様化に対応できていない状況にすらなりつつある.海外じゃぁ,荷物輸送に高速鉄道を使ったり,超高級快速列車を高速鉄道に走らせたり,いろんな使い方が始まっているんですけど.
社会的な要望についても,のぞみ号が浜名湖を通過する度に何かを感じませんか? それとも,このへん通過中は,いつも寝ていて気づかない,というなら仕方ないですが.
(あと,「巨額の資金を30年以上にわたって投入」と噛みついてらっしゃいますが,JR東海は日本国有鉄道ではないので,基本的には何にどれだけ投資するかは経営者のさじ加減の範疇です.むしろ,株主にばらまかずに,本来なら国が金を出して実施しても不思議ではない事業に投資するという話ですから,「巨額の複数年にわたる設備投資ありがとう」と言うべきでしょう.)
(それから,「東京―大阪間で、1時間半程度」は誤りで,70分弱ですよ.「東海道新幹線は東京-大阪間4時間あまり[ただし,こだま]」とは言わないよね.)

リニア新幹線整備の理由(段取りまとめ編)

新幹線整備の計画プロセス,想定と実際の違いのまとめ.何がまずいか,わかるかなぁ?


【基本計画】


本来 実際
考慮事項(全幹法)
  1. 輸送需要
  2. 国土開発の方向性
  3. 効果的な整備
  • 1973年までに,250km/h運転を前提に検討したはず.
  • そうでないと,基本計画は成立していない.
  • 新全総に従って,「国土の均衡ある発展」を目指すような経路設定.

本来 実際
調査内容(施行令)
  1. 輸送需要の見通し
  2. 所要輸送時間の短縮
  3. 輸送力増加による経済的効果
  4. 収支の見通し
  5. 他の鉄道の収支への影響
  • 1973年までに,250km/h運転を前提に検討したはず.
  • そうでないと,基本計画は成立していない.

本来 実際
決定事項(施行令)
  1. 建設線の路線名
  2. 起点と終点
  3. 主要な経過地
  • 1973年に実際に決定されている.

★★★★そして,技術的に500km/h運転が現実的になり,最近になって…★★★


【整備計画】


本来 実際
決定事項(施行令)
  1. 走行方式
  2. 最高設計速度
  3. 建設に要する費用の概算額
  4. その他必要な事項
  • 基本計画と大きく速度が異なる
  • 国土計画も数度の変更がなされている
  • したがって,基本計画決定の前提条件が崩れている.
  • だが,基本計画の内容を見直すこと無くこれらを決定.

本来 実際
規定無し
  • 整備計画の段階では全幹法や施行令に規定が無い内容(本来は基本計画策定時の内容)
  • 整備計画決定の段階で基本計画策定時の調査内容相当の調査等を実施.
  • 基本計画の前提が崩れているからか?→ならば,基本計画の見直しが必要であったはず.
  • 整備計画の審議段階で何でも大幅変更できるのなら,基本計画は要らなかった,ということか?

本来 実際
補足的内容(施行令)
  1. 着工時期に応じ、区間ごと決定可能
  • 名古屋-大阪間は,資金が原因で開業が30年も先.
  • にもかかわらず,全区間一括で計画決定.

何だか,このテンプレート,表組みあんまりきれいに出ないなぁ…

リニア新幹線整備の理由(華麗にスルー,パブコメ編)

いろいろと突っ込みどころが多い審議過程だったので,公式にパブコメとして募集時期にちゃんと指摘している…が,いろいろと都合の悪いことが書かれていたのだろうか,華麗にスルー.そんな指摘はなかったかのような扱いである.私の周りには他にも華麗にスルーされた人がいるようだ.気に入らないからって,スルーは良くないよね.これじゃぁ,パブコメの意味なかろう(厳しく言えば,行政手続法第43条に違反だよね).
以下,誤字脱字を含めて,送ったものそのまま.ただし,メールアドレスは,変なメールがいっぱい来ないように@を◎に置き換えてある.
**************************************************
差出人:hatoko◎ce.osaka-sandai.ac.jp
件名: 中央新幹線に関するパブリックコメント
日付: 2010/08/28 13:53
宛先: g_RWB_KTD◎mlit.go.jp
CC: hatoko◎ce.osaka-sandai.ac.jp

国土交通省鉄道局幹線鉄道課 御中

お世話になります。
中央新幹線に関するパブリックコメントを提出いたします。
募集要領の「テキスト形式でお願い致します。」の意味が
不明瞭でしたので、本メール本文および添付ファイル(word
ファイル)をお送りします。内容は同一です。
********************************************************************
「中央新幹線に関するパブリックコメント」
(フリガナ):(ハトコ マサトシ)
1.氏  名:波床 正敏
2.住  所:大阪府大東市中垣内3丁目1−1
3.所  属:大阪産業大学工学部都市創造工学科
4.電 話 番 号:072-875-3001(内線3722)
5.電子メールアドレス:hatoko◎ce.osaka-sandai.ac.jp
意  見
【1】全国新幹線鉄道整備法施行令第二条に基づく再計算
中央新幹線は昭和48年11月に運輸省告示第466号により基本計画線となっているが、昭和45年9月制定の全国新幹線鉄道整備法施行令第二条によると、基本計画を決定しようとする際には以下の事項を調査しなければならないことになっている。
(1)新幹線鉄道の輸送需要量の見通し
(2)新幹線鉄道の整備による所要輸送時間の短縮および輸送力の増加がもたらす経済的効果
(3)新幹線鉄道の収支の見通し及び新幹線鉄道が他の鉄道の収支に及ぼす影響
すなわち、すでに中央新幹線が基本計画となっているということは、上記調査が済んでいるということである。これら諸量は、新幹線鉄道の速度等が設定され、都市間の所要時間が決まらない限り求めることができないが、昭和48年当時は磁気浮上の実験がようやく成功したばかりであるため、上記諸量は従来型の新幹線鉄道を想定して計算されているはずである。時速500キロという運転は想定されていないため、再計算が必要と思われる。
このうち、(1)についてはすでに明らかにされていると思われるが、(2)については所要輸送時間の短縮については明らかになっているものの、経済的効果(特に地域経済に与える影響)については不明瞭であり、公表が必要である。また、(3)については収支の見通しは計算されているものの、他の鉄道への影響については既設の東海道新幹線への影響が示されているに過ぎない。
このような再計算を行う際、中央新幹線を超高速運転しようとしていることに十分注意しなければならない。従来型の新幹線整備の影響はせいぜい沿線に配慮して計算すれば、大きな誤差を生じる可能性は小さい。しかし、リニア新幹線は、在来線はもちろんのこと、従来型の新幹線鉄道網をも支線として機能させてしまうほど高速であるため、影響は極めて広範囲に及ぶ。リニア新幹線沿線相互間の影響は全体のごく一部である可能性が高い。したがって、沿線に限定した経済的効果や他の鉄道への影響の再計算では不十分であり、全国的な視点が必要である。
【2】整備目的の明確化が必要
中央新幹線をリニア新幹線として整備するその本来の目的は、わが国中央部に位置する三大都市圏を結ぶ東海道新幹線の機能を補完・向上させることであると理解しているが、現状のリニア新幹線計画には幾つかの不明瞭な点が存在する。
第一の点は、大都市を完全には結んでいない点である。東海道新幹線ののぞみ号の機能をリニア新幹線に移転させようとしているという基本的な方針については理解できる。しかし、のぞみ号が結んでいる大都市と中央新幹線の経路は一致していないため、三大都市圏を結ぶ東海道新幹線のバイパスとしてリニア新幹線を位置づけようとすると、その機能は万全ではないと思われる。大都市間の相対的位置関係を大きく崩さないために、どのような方策を考えているのか、明確にすべきではなかろうか。このままでは、中央新幹線沿線となる大都市と沿線外となる大都市との間で、利便性の大きな差を生むことになり、中長期的にはそれら大都市の盛衰を大きく左右する可能性が高い。
第二の点は経路選定の理由が明確でない区間が存在することである。東京−名古屋間については、東海地震等の被害を最小限にするという観点から内陸部経由を採用することには一定の合理性がある。しかしながら、名古屋−大阪間についてはルート選定の明確な理由が見いだせない。東京−名古屋間を中央新幹線として整備するからといって、全幹法の中央新幹線の経路をそのまま大阪まで辿らなければならない、という積極的な理由は存在しない。基本計画線は全線一括で整備計画にしなければならない、ということもない。現に北海道新幹線は青森から旭川までが基本計画であるが、整備計画になったのは札幌までである。地質調査等が済んでいるからという理由についても、国土構造を変化させるかもしれない大事業に関する理由としては、積極的とは言い難い。
唯一考えられるのは、奈良経由により沿線を開発するという目的であるが、リニア新幹線の主たる目的は三大都市圏間の結節、特にのぞみ号が停車するような大都市間の結節機能であるので、沿線開発は副次的なはずである。もし沿線開発目的が最重要であるとするならば、それは他の整備新幹線と同じ整備目的であるということになり、費用負担や並行在来線(この場合は実態を考慮すると近畿日本鉄道になるであろうか)の問題など、一般的な整備新幹線の建設手順のルールに従うべきである。
【3】大阪延伸の遅延は国土構造に悪影響
大阪への延伸が、現時点の計画では2045年になっているようであるが、遅すぎる。名古屋開業から20年近くもかかってしまうと、大阪都市圏の衰退が明瞭になり国土構造が変化してしまう。これでは、東西間の円滑な交通を提供するという東海道新幹線およびそのバイパスの機能を十分に果たさないことになる。
歴史的に見て、明治期の鉄道網構築期において早期整備された地域(太平洋岸など)と遅れたところ(日本海側など)の整備時期の差は概ね20年程度であった。この時期にわが国の人口分布は大きく変化している。また、戦後の高速交通網の整備時期においても交通利便性の地域的格差を生じており、その後の地域発展の度合いに影響を与えている。リニア新幹線は既設新幹線に比べて速度が倍程度であり、運行頻度は航空機よりも格段に多い。このため、明治、戦後に続くわが国陸上交通に多大な影響を与える第三の波になる可能性が高く、遅延は看過できない。加えて、影響は三大都市圏に限らず、かなり広範囲に及ぶはずであるが、沿線の議論に終始してしまっているのも残念である。
大阪への延伸が大きく遅れる原因は資金調達である。巨額の建設資金を自己資金として調達するという決断は、わが国の交通史に刻まれる大英断である。しかしその一方で、民間企業の資金調達問題が国土構造をゆがめてしまうことは避けるべきではなかろうか。資金が民間により調達されるからといって、国は黙してして語らずという態度を続けるべきではない。
【4】防災の観点について
東海道新幹線のバイパスとして中央新幹線を建設する目的の一つは、大規模地震発生時にも東西間の交通を確保することにある。JR東海作成の資料(第3回プレゼン資料7頁)では東海地震発生時の震度分布に関する資料が示され、中央新幹線が概ね震度の大きい地帯を避けられることが示されている。一方、愛知県の示した資料(第5回愛知県作成プレゼン5頁)によると東海地震と東南海地震の同時発生時には、中央新幹線は名古屋付近においてかなり広範囲に震度6弱以上の地帯を通過しなければならないことが示されている。
歴史的に見て東海地震が単独発生したことは無いようであるので、大地震への備えという点では愛知県の示した震度分布の資料を重視して東西間交通確保の方策を考えるべきと考えられるが、それに対する考えが明確でない。名古屋が被災して使えなくなれば、東海道新幹線であれ、中央新幹線であれ東西間を結ぶことができない。大地震発生時の東西間交通の確保は、東海道新幹線と中央新幹線だけでなく、さらに北方の幹線鉄道網も含めて対応を考えておくべきではないか。
********************************************************************

s15510080203- hatoko.docx
*—*
波床正敏(HATOKO Masatoshi)
大阪産業大学 工学部 都市創造工学科
http://www.osaka-sandai.ac.jp/ce/rt/

リニア新幹線整備の理由(整備計画のツッコミどころ編)

中央新幹線計画に関する手順がいろいろとツッコミどころが多い話の続きである.今回は,整備計画関係である.整備計画を定めるには,施行令第3条に従って以下の項目を定めることとなっているが,やはりツッコミどころがある.

  • A.走行方式
    B.最高設計速度
    この辺の項目は,整備計画の策定手順が改定された際に比較的最近になって追加された項目である.一見,ここで決め直しさえすれば基本計画の想定についてはオーバーライド(上書き)がOKなように思えてしまうが,さにあらず.整備計画は基本計画の上に成り立っているので,基本計画が有効である場合にのみ整備計画が有効なはずである.前回指摘したように基本計画の前提条件が時代の流れとともに大きく変化してしまっているにもかかわらず,何らまともな見直しがなされていない状況では,基本計画の正当性が失われている可能性が大きい.整備計画の実際の審議過程では,350km/h運転の鉄輪式の場合と500km/h運転の磁気浮上式が比較検討されているが,前者でも250km/hに比べると40%増,後者に至っては100%増で,特に後者は基本計画の想定とは大きくかけ離れた設定になっている.基本計画が単なる方便と化しており,正当性の合理的な証明がなされていない.
  • C.建設に要する費用の概算額
    この辺は,まぁスルー
  • D.その他必要な事項
    整備計画に関する審議では,整備計画の審議時に必須事項として法令では記されていない不思議な項目も議論されている(しかも,パブコメが終わってから).それは何かというと,経済効果等である.思い出して欲しいのだが,「輸送力の増加がもたらす経済的効果」の検討は基本計画の策定時におこなわなければならないのだが,なぜか整備計画の段階で審議している.これでは明確な政令違反である.いくら専門家2名のお墨付きを付けても,「計算があっている」だけで,手続きの合理性は得られない.

続けて,施行令第3条第2項に関しては…

  • I.整備計画は、工事を着手すべき時期に応じ、建設線の区間ごとに定めることができる
    整備計画の審議の結果,全線一括で整備計画に格上げになったが,2045年開業区間が「工事を着手すべき時期に応じ」たものかどうか,怪しい.整備5線は,整備計画策定時には速やかに着工しようとしていて,結果として整備時期が遅れてしまったが,こちらは最初から遅くなることがわかっているのに,なぜか一括である.30年も経過すると,社会構造自体が変化してしまう可能性がある.現計画のスケジュールは,全体計画の速やかな実施能力を欠いていることを証明してしまっていると判断するのが妥当ではないだろうか.

いろいろと本則から外れた審議過程に思われる.

リニア新幹線整備の理由(基本計画のツッコミどころ編)

前回は全国新幹線鉄道整備法(全幹法)全国新幹線鉄道整備法施行令(施行令)に忠実に段取りをするとどうなるのかについて書いてみたが,実際の中央新幹線計画に関する手順はいろいろと妙である.今回は基本計画関係である.
まず,全幹法に従って1973年に中央新幹線の基本計画が立てられているので,全幹法により考慮された事項も施行令により実際に調査された項目も(ドラえもんもBack To The Futureのデロリアンもまだ出現していないので)当時の想定で調査され,決定されている.そうすると,それぞれ,以下のツッコミができる.まずは全幹法第4条関係.

  • 1.輸送需要の動向
    輸送需要を想定するには,所要時間がわかっている必要がある.速い交通機関には客が集まるが,遅い交通機関には客が来ない.速度がわからないと需要など想定のしようがない.当時の新幹線は250km/hを想定したインフラ上を210km/h運転していた.500km/hはまだまだなのに,当時の想定で作った計画を流用している.250km/hが260km/hになりました…なら大して違いはない.300km/hでも2割の違い程度だ.倍半分ではさすがに気がつく(はず,なんだがねぇ).
  • 2.国土開発の重点的な方向
    当時の国土計画は「新全総」,国土整備の方向性としては「大規模プロジェクト構想」,大規模インフラ整備で「国土の均衡ある発展」を目指すのが当時の方向性であった.今は「国土の均衡ある発展」の看板は下ろされ,「国家のリスクマネジメント」というのが最新のスローガンである.方針が違えば形成すべきネットワークが違うはずだが,そのまま流用.
  • 3.効果的な整備を図るため必要な事項
    当時は,日本国有鉄道.今は旅客鉄道会社.しかも株式を全部放出した完全民営会社.「効果的」の基準が異なる可能性がある.

次に施行令第二条関係.

  • a.輸送需要の見通し
    上にも書いたように,500km/h運転の交通機関はまだ存在せず,せいぜい250km/h運転が想定範囲なので,見通しもこれに基づくもの.さすがに倍半分では結果は大きく違う.基本計画策定時の議事録等の公文書が残ってれば書いてあるはずだが…
  • b.所要輸送時間の短縮
    「所要時間=距離÷速度」なので,速度が倍違えば所要時間も倍半分の関係.速度が決まらない限り,これは求まらない.速度が変われば,これも変わる.変われば計画策定時の前提条件が大きく変わったことになる.
  • c.輸送力の増加がもたらす経済的効果
    輸送力とは,量的な能力と速度的な能力の2面あるが,少なくとも速度面は大きく変更されている.経済効果は速度面が大きく影響するが,速度が変われば経済効果は大きく変わる.大きく変われば計画の前提条件も大きく変わったということになる.
  • d.収支の見通し
    収支見通しは建設費と運賃と客数と運営費が大きな要因だが,リニアと鉄輪では建設費も客数も運営費もだいぶ違うはずだが,基本計画時に『「鉄輪式の中央新幹線」と「リニア式の中央エクスプレス」とが比較された』などという話は聞いたことが無い.というか,当時は公式検討できるほども実験は進んでおらず,だいぶ後になって技術的な見通しが公式にお墨付きを得ている.
  • e.他の鉄道の収支に及ぼす影響
    速度が違えば影響が変わる.国土計画が変われば路線形態,経路,起終点すら変わる可能性がある.速度を計画時の倍にしておいて,計画時と同じことが言えるのか?

このように,基本計画策定時とは前提条件が大きく変わってしまっているにもかかわらず,基本計画は再検討されることも無く次の段階に進んでしまった.社会状況が大きく変わるような状況下では同じ計画では具合が悪いというのは,教科書レベルの話なんだけどなぁ.基本計画の合理性は?大義は有りや無しや?
事実上の法令違反ではないか?

リニア新幹線整備の理由(法律の想定する段取り編)

再び同じような話で恐縮だが,新幹線を計画史,整備の段取りをして工事に入るまでの行程を,全国新幹線鉄道整備法(全幹法)と関連する政令の全国新幹線鉄道整備法施行令(施行令)に従って解読すると,このようになる.(大事な話なので,繰り返しました.)
まず,全幹法に従って基本計画を立てる.全幹法第4条の1により以下の3項目を考慮し…

  1. 輸送需要の動向
  2. 国土開発の重点的な方向
  3. 効果的な整備を図るため必要な事項

施行令第2条に従って,以下の調査を行い…

  1. 輸送需要の見通し
  2. 所要輸送時間の短縮
  3. 輸送力の増加がもたらす経済的効果
  4. 収支の見通し
  5. 他の鉄道の収支に及ぼす影響

施行令第1条に示された事項を決めて…

  1. 建設線の路線名
  2. 起点
  3. 終点
  4. 主要な経過地

全幹法第3条に示された路線を計画する

  1. 幹線鉄道網を形成
  2. 中核都市を連結

ここまでで基本計画策定.//
さらに,整備計画策定を定めるには,施行令第3条に従って以下の項目を定め…

  1. 走行方式
  2. 最高設計速度
  3. 建設に要する費用の概算額
  4. その他必要な事項

施行令第3条第2項に従って…

  1. 整備計画は、工事を着手すべき時期に応じ、建設線の区間ごとに定めることができる

となっている.ここまでで整備計画策定.//
この後,環境影響評価を行った後,工事実施計画をつくって許可を得てようやく着工.この段取り手順,よーく覚えておいてね.

リニアモーターカー発達史

ML100試験車(1972〜)

研究所の構内を走行し,初の浮上走行に成功.速度は60km/h.人の乗車を想定して設計していないようだが,一応,座席があり,開発者の方がこっそり乗って走行したことがあるらしい.
IMG_2216


ML500試験車(1977〜)

宮崎実験線で使われ,517km/h走行成功.ただし,座席はなく,コイルの装置にカバーを被せたようなもの.
IMG_2197


MLU001試験車(1980〜)

はじめて客室を設置し,宮崎実験線で運用.405km/h運転に成功.
IMG_2215


MLX01試験車(1996〜)

山梨実験線で運用され,581km/h運転に成功.
DSCN5611


中央新幹線の基本計画策定時の試験車は「ML100」,公式に「中央新幹線=リニア」になったのは四全総(1987)からなので,その当時の試験車は「MLU001」.担当者の胸の内ではかなり早期の段階から「500km/hの中央新幹線を」と思っていたかもしれないが,公式にはこういう時代背景であった.

リニア新幹線整備の理由(東京-名古屋編)

ネタ提供したことのある話題なので,すでに本などで読んだことがある人も多いお話し.ただし,彼の本の記述よりはちょっと詳しい.
すでに整備計画が策定されたリニア新幹線であるが,その意義について法律に従って再検証してみよう.まずは,間もなく工事が開始されるであろう名古屋から東側区間である.
新幹線整備に必要な考慮事項は以下の三点であったが,1番目と3番目をまとめると経済合理性とも言えるので,結局主要な論拠は,1)経済合理性がある,2)国土整備の方向性と合致している,の2つになる.名古屋から東側区間については1)は株式会社がすることなのでともかく,2)はそれなりに理由がつく.

  1. 輸送需要の動向
  2. 国土開発の重点的な方向
  3. 効果的な整備を図るため必要な事項

1962年に始まった一連の全総計画は,1987年の四全総まで形を変えながら「開発」を掲げ,国土の均衡ある発展を目指してきた.その後,五全総相当の21世紀の国土のグランドデザインでは「開発」の看板を下ろし,2008年には根拠法そのものを改正して法律名からも開発が消えた.震災後は,正式な国土計画ではないが具体的な国土整備の方向性として「国家のリスクマネジメント」を掲げた「…国土強靱化基本法」に基づいて各種整備が進められつつある.
こういった国土整備の方向性から考えると,内陸に幹線を整備するという方向性は一定の合理性はある.
東海道新幹線の脆弱な箇所は明確にはされていないが,数ヶ月単位では収まらない決定的な被害を受ける可能性のある区間としては浜名湖を渡る部分が考えられる.いちおう,国土交通省鉄道局は大丈夫といっているらしいが,外洋から15-20m近い津波がやってきたらどうなる? 今切れ口付近に6m程度の防潮堤があるとはいえ,無傷で安全,とは考えにくい.
そもそも,500年ほど前の明応地震(1498年)に地盤沈下して集落が海中に没しているような地区である.
さて,下の写真は昨年夏に撮った写真であるが,ちょうど干満の中間,平均的な海面の写真を撮ったようである.最近は便利なことに場所と日時を指定すれば,海面の高さの計算値を表示してくれるサイトがある.
140117b-p23
さらに便利なことに鉄橋には目盛りがついているので,写真から,平均海面から在来線の橋梁の下部までの距離が約3.5mだということも簡単にわかる.
加えて便利なことに,現地に行くとあちこちに地面の海抜高度が表示されており,この橋の付近の海抜高度は約4.8mだということもわかる.
もっともっと便利なことに,静岡県のサイトには内閣府が試算した満潮時に津波が襲った場合に,地面が何メートル浸水するかの計算結果も出ている.どうやらこの橋の付近は「2〜5m」の浸水予想である.
140117b-p27
そうすると,地盤の高さに浸水予想を加えると,満潮時に津波が来た場合にどの辺まで水面が来るのか計算できてしまう.結果は,少なく見積もって6.8m,最大9.8mになる.この数字は,平均海面からの高さであるので,写真にどの程度か描いてみると,こういう結果になった.ベースの岩盤の沈下は考慮してあるそうだが,砂地盤が液状化して長面浦や500年前の村櫛伝説のようになることは想定していない結果である.低めの計算でも橋桁すれすれくらいまでは水面が上がるようである.(安全率1,もしくは1未満ということ)
なお,津波のことに詳しい先生に「津波が来ても浜名湖のところは安全だと国交省が言ってるんですけど…」と振ってみたら「安全なわけないでしょ」と笑われてしまいましたとさ.(続けて,この手の予測計算法の概略と精度の限界についても解説していただきました.さらに浜名湖よりももっと衝撃的な話についてもお伺いしたが,刺激が強いのでさすがに書けない…)
追記:津波の押し波,引き波の際,こういった水路はかなりの激流になるそうで,河床や橋脚の足下が洗掘されるそうです.ここ,細砂地盤で,新居町付近は建設時に軟弱地盤地帯としてリストアップされてましたよね.静岡県下の新幹線富士川橋梁で,1982年の水害時に河床が7m,橋脚の足下が4m近く,合計10m以上洗掘されたこともありますよね(ただし震度ゼロ).
もし,この区間が500年前の集落水没時のように地面そのものが海中に没し,橋も使えなくなって,浜名湖ではなくて「浜名湾」になってしまったら,東海道新幹線の復旧には湾を迂回するような新線工事が必要になる可能性があり,昭和の東京オリンピック前の突貫工事のように急いでも数年は不通になる.
(まぁ,浜名湖は浅いので,「浜名湾」も浅いと思う.東海道新幹線のルート選定時には現在線の1kmほど北方の浜名湖の湖面上を橋で通す計画も検討された経緯もあるくらいなので,大きく迂回しなくても橋を作り直せばOKという話もある.とはいえ,数ヶ月で開通というのはやはり難しく,作り直すなら津波の影響を受けない足の長い橋を数年かけて,ということになるだろう.)
そういう点では,内陸を通るリニアには一定の合理性はあると思う.少々の被災なら,数ヶ月我慢すればいいだけなので,新線の必要は薄く,北陸新幹線を大阪まで開通させておけば十分であるから,わざわざ新線を整備する合理性が崩れかねない.
140117b-p29
聞くところによると,静岡県下では海岸部から内陸に人が移住しはじめているらしく,海岸部の人口が減少しはじめているらしい.

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-施設老朽化&まとめ編)

  • リニア新幹線整備に関する昔の主張の最後は,「東海道新幹線の施設が老朽化しているので,新線が必要」というものである.

この点に関しては,現行計画の審議の段階でも論拠として示されている.東海道新幹線が開業して(当時)40年(そして今年は50年),施設が老朽化しているので改修が必要であり,そのためにも新線が必要というものである.
しかし,これについても改修のための資金積立の制度も創設され,現行線の改修が進められつつある.大規模な改修も東海道新幹線の運行を止めること無く進める方針が出されており,じゃぁ,どうして新線が必要なの?という素朴な疑問は解消されていない.


ということで,10年以上前には様々な必要論が展開されていたものの,実際に残った論としては以下の項目だけではなかろうかと思われる.

  1. 巨大かつ効率的な経済圏の形成
  2. 冗長性確保(南海トラフ巨大地震)

付け加えるならば,いったん引っ込めた理由ではあるものの,その後の情勢変化により復活させた方が良いもの,あるいは修正した上で主張した方が良いものとしては以下の3つ.

  1. 首都機能移転時における新首都機能のサポート
  2. 全国の皆様の移動時間短縮のためには東西大都市間の輸送能力の大幅な向上が必要
  3. 東京-大阪間に限らず,全国的鉄道ネットワーク全体の強化による都市間移動のCO2削減(モード転換の促進)

このような整備の必要論の再定義をした上で,路線整備の是非を議論した方が良かったはずだが,なんだかまるでローカル新幹線のような議論をして整備計画をつくってしまった感がある(まぁ,基本計画自体がローカル新幹線なんだけど).