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リニア新幹線整備の理由(名古屋-大阪間:混み具合編)

リニア新幹線の現行計画では,名古屋-大阪間を奈良経由で結ぶことになっており,結構大きな都市である京都をスルーすることになっている.リニア新幹線と既存の東海道新幹線の分担予想は,東京−大阪間全体で概ね半分程度とされているが,はて,ちょと待てよと思う.
この予測の内訳や計算方法等詳細については公表されていないが,例えばこういうことを前提にしてないだろうか?

  1. 京都発着の客は乗り換えが面倒なので,横浜や東京(品川)に行く場合も東海道新幹線を使い続ける
  2. 横浜発着の客は新横浜から東海道新幹線を使って西にゆく
  3. 山陽新幹線方面から来る客で名古屋までの客は東海道新幹線を必ず使う

1.について考えてみると…
S:京都→(のぞみ119分)→新横浜→(JR13分)→横浜:途中のロス込みで139分
L:京都→(のぞみ36分)→名古屋→(リニア40分)→品川→(JR16分):ロス込みで122分(17分早い)
S:京都→(のぞみ119分)→品川:134分
L:京都→(のぞみ36分)→名古屋→(リニア40分)→品川:ロス込みで91分(43分早い)
ということで,急ぐ人は横浜ですらリニア経由の方が早いので,大半の京都発着の人はリニアに乗り換えてしまいそう.そうすると,リニアの座席は新大阪-名古屋間で空席になりやすいということか?

次は2.について考えてみよう…
S:横浜→(JR11分)→新横浜→(のぞみ82分)→名古屋:途中のロス込みで107分
L:横浜→(JR16分)→品川→(リニア40分)→名古屋:途中のロス込みで71分(36分早い)
ということで,新横浜の次の駅の名古屋ですら東海道新幹線には乗りそうもない.

さらに3.については…
S:(新大阪以遠)→(のぞみ52分)→名古屋:52分
L:(新大阪以遠)→(リニア25分)→名古屋:途中のロス込みで40分(12分早い)
ということで,比較的近距離のはずが,リニアの方が早い.

時間だけで言えば,いずれもリニアの勝利.ただ,乗換1回あたり時間換算30分前後のロスと同程度という話もあるので,3.については新幹線乗り通しが標準かなぁ.大阪発着については,もちろんリニア一択.
そうすると見えてくるのは,全線開業時には「予想以上にリニア大人気!特に東京-名古屋間は席を確保しにくいPlatinumチケット!」という風景だが,その陰で,リニアの新大阪-名古屋間は割と空いているという感じだろうか? その空きは名古屋-新大阪間のリニア区間客で埋まるからいいんだろうか.
これを京都経由にするとどう変化するだろうか.京都から名古屋でリニアに乗り換える客の分,新大阪-名古屋間の空席は少なくなる一方で,名古屋-新大阪間の客の分が減る?…ちゃんと数字拾って計算しないと難しいなぁ.
まぁ,そんな難しいこと考えなくても,現状の東海道新幹線はピーク時でも無い限り毎時片道9本でリニアの片道本数と同じ.座席は普通車5列がリニアで4列になるが,どうせ「B席」はピーク時間帯を除いて空いていることが多いので,京都経由でも名古屋-大阪間は大半の時間帯は問題なし(現状の東海道新幹線と大差なし).
リニアの品川-名古屋間については,京都を通ろうが奈良を通ろうがPlatinumチケットということになるだろうか.

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(番外編+まとめ)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの番外編.フルバージョンだけに書いてある内容である.

  • 番外編:リニアに「まちづくり」の将来をかけていいのか――“過大な期待による過大な投資”は地域経済を押しつぶす

旧タイプの新幹線でも,いろいろと期待するけど,リニアは超高性能新幹線なので,『「まちづくり」の将来をかける』のは普通の行動だろう.この千載一遇のチャンスを逃してなるものか,というのが普通の行動.もちろん,「過大な投資」というよりは「的外れな投資」は意味が無いが,千載一遇のチャンスを見す見す逃すなどあり得ない.

  • 新幹線開通後の地方経済をみると、「効果」だけではなく、「ストロー現象」の影響も慎重な検討が必要である

新幹線の無い地方を見てから言った方がいいですよ.新幹線があった方がマシ.無いともっと悲惨な状況になってますよ. そういう場所には,新幹線も高速道路も無くて,なかなか遊説に訪れる機会そのものが少ないかもしれませんけど.
「ストロー」については,新幹線に限らず,交通機関で結ばれると,結ばれた地域が相互に変化してゆきます.とある機能に着目すると肥え太るものもあり,別の機能はやせ細るものもあり,全体としては適材適所に機能が再編されてゆき,「選択と集中」状態になって効率が上がります.新幹線で結ばれた都市群システムに組み込まれて,特定の機能に特化してしまうけどみんなで賑やかにやってゆくのか,それとも,どことも結ばれること無く従前のまま細々と(多くの場合,先細りで)独りでやってゆくのか.どちらかなんですよ.
「リニア頼みじゃ無い策」で,なおかつ「リニア頼みに匹敵する策」って何かありますか? 具体的に!と言われると,小規模なものを除いてあんまり思いつかないでしょ?あれば,もうやってますよ.

  • まとめ:「多様な意見」は重要だが,多少調べてから意見を組み立てた方がいい項目が多そう. 

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(安全確保編)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの5つ目である.フルバージョンはこちら.

  • 5つ目:運転手が乗車せず遠隔操縦で運行するなど、安全確保への大きな不安を“置き去り”にする建設になっている

すいません,これ見たとき,思わず笑ってしまいました.これじゃぁ,この指摘主は今走っている普通の新幹線にも乗れないなぁ,って.失礼,すいませんwww.こういうご懸念,数十年前の東海道新幹線の建設時にも某新聞がネガキャンしてましたよね.
じゃぁ,ちゃんと説明します.全ての交通機関が目視運転で安全確保されているかというと,そうではなくて,適切な保安装置があってはじめて安全確保できます.逆に適切な保安装置が無ければ,いくら運転士が乗っていても安全ではありません(例えば尼崎の列車事故).完全に目視確認だけで運転している鉄道は路面電車くらいなものです.
リニアの前に,普通の新幹線について書いておくと,新幹線の運転士の目視で確認できるのはせいぜい数百メートルだそうで,運転士が「危ない」って感じて即座にブレーキをかけても,200−300キロで走っている場合には絶対にそこまでには止まれないそうです(新幹線の運転免許を持っている方に聞いた話).2kmくらい走ってしまいますから,全く役に立ちません.
特に夜間や雨天時は顕著で,夜間に前照灯が照らせるのはせいぜい100−200メートル程度で,前を見ることについて言えばほとんど役に立たないようです.あれは列車の前か後ろかを識別するという役割が大きいようです.(新幹線の前照灯の正規式名称には「照」の字が入って無かったと思う.)
雨天時は雨粒が窓に当たって前方はほとんど何も見えないそうで,どこを走っているのかは,運転席の横の窓を見ながら風景で判断するそうです.そういうわけで,新幹線の運転士には前方注意義務が無いそうです(在来線の運転士には前方注意義務があるらしい).
じゃぁ,どうやって安全を確保しているかというと,線路に特殊な電流を流しておいて列車の存在を感知しておき,列車間隔が詰まってしまったり駅が近づいたりした場合には,列車の車載装置が自動的にブレーキをかけます.この自動ブレーキは非常ブレーキでは無くて,毎日毎列車駅が近づく毎に使われています.運転士が手動操作するのは列車のドアと乗客の列をぴったり合わせる微調整操作くらいで,停車動作については現時点で既にほとんど自動運転になっています.
倒木や崖崩れ等を検知する装置がついている箇所もあります.このへんは検知装置が無いと目視で見つけても間に合いません.つまり,リニア以前に,現時点で既に高速鉄道の安全は機械に頼ったものになっています.
リニア新幹線にも類似の保安システムを入れることくらいは検討しているでしょう.「機械は信用できん!」と言われてしまえばそれまでですが,それじゃぁ,エレベータは怖くて乗れないよね.
#必ずしも「運転士がいない」=「乗務員がいない」では無いことに注意すべし.
#運転士に前方注意義務の無いような交通機関だが,天皇陛下もご乗車されている.

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(環境編)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの4つ目である.フルバージョンはこちら.

  • 4つ目:リニアは使用電力が新幹線の3倍以上で、エネルギー浪費型の社会、交通体系を導入することには道理がない

そこだけ取り上げればその通りなのだが,やはり見落としがある.この部分は鉄道会社も見落としているんじゃないかと思われる.
単純に東京−大阪間の既存の新幹線客をリニア新幹線にシフトするだけだと,おっしゃるとおり,エネルギー効率が悪くなってしまう.ところが,そのエネルギー効率があまりよろしくないリニアよりもさらに効率の悪い交通機関がいくつか存在する.航空と道路輸送である.
東京側から見た大阪以遠,もしくは大阪側から見た東京以遠の区間で,現状において航空依存の区間というのが存在する.例えば東京−九州などだ.これがリニア開業によって競争力が上がり,新幹線+リニアに置き換えることができれば国土全体ではエネルギ効率が上がる.
それから,(こういう話は当の鉄道会社はあまりいい顔をしていないようだが)リニア完成後に比較的暇になった東海道新幹線を使って物流などを行ってトラック輸送の一部を置き換えることができれば,これもエネルギ効率が上がる.
木を見て森を見ていない批判的意見ですね.(鉄道会社もPRが下手)
「リニア新幹線じゃ無くて,時速350キロ運転,いや出来れば400キロ運転の鉄輪式新幹線にすべきだ.そうすればリニアに比べて10〜20分ほど遅いだけで,他の路線とも直通できるし,エネルギ消費も少ないし,部分開業しても乗り換えさせる必要が無いし,方式変更すべきだ」という批判建設的代案の提案ならわからないでもない.…が,とにかくリニアが憎いようである.批判するなら合理的に.

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(地震対策・復興編)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの3つ目である.フルバージョンはこちら.

  • 3つ目;リニア建設でなく、東海道新幹線の地震・津波対策や東日本大震災からの鉄道網の復旧を行うべきである

これには論点が3つ含まれている.

  1. 東海道新幹線の地震対策をすべし
  2. 東海道新幹線の津波対策をすべし
  3. 震災復旧を優先すべし

まず,地震対策であるが,これはやっている.指摘主は調査不足.やっているのにやってないというのは,さすがに鉄道会社がかわいそうである.これ以上を望むのならば,線路を揺れが襲わない地域に付け替えるか,軌道をジェットコースターのような真っ逆さまになっても脱線しない構造(レールをパイプにして,三方向からがっちり抱え込む形式)に変更するかくらいしか無い.何でも言えばよい,とうわけではない.抜き書きすると,こういうを対策実施中のようだ.

  1. 構造物および軌道の強化
    • 高架橋の耐震補強
    • 橋脚・盛土の耐震補強
  2. 列車を早く止める対策
    • 沿線に地震計を配備
    • 地震動早期検知警報システムを導入(非常停止)
  3. 脱線・逸脱防止対策
    • 脱線防止ガード
    • 逸脱防止ストッパ
    • バラスト流出、盛土沈下、高架橋変位を抑制

次に津波対策であるが,これについて鉄道会社は「津波の影響はない」と言っているので,たぶん,公式には何もしていないだろう.『静岡文化芸術大の磯田道史准教授が浜名湖上を通過する東海道新幹線の津波に対する安全性に疑問を投げ掛けていることに関して「どういう根拠で言っているか分からない」と指摘』しているそうだが,公式公開資料と現地調査だけでもこういった分析ができてしまうので,やはり要注意箇所は存在する.歴史の忠告は無視すべきでない,というのは東北の震災の教訓ではなかったか?
津波対策と言っても,線路に沿って万里の長城のような防波堤を建設するわけにもいかない.危ない箇所は線路を付け替えるというのが通常の対策方法であり,例えば浜名湖を大きく迂回するか,あるいはリニア新幹線のように完全に別経路を準備するかということになる.ということなので,リニアを建設して東西間輸送を確実にするという判断は,有効な方法の一つである.
最後に東日本大震災の鉄道復旧の部分だが,そもそも鉄道会社が違うし,鉄道路線の目的も違うし,同じリソースを両者で奪い合っているわけでもない.復旧が遅いとすれば,それは(この震災に限らず),鉄道の災害復旧政策がイマイチだということであり,たたく相手を間違っている.
フルバージョンには,9兆円も金があるのなら国鉄の借金返済に充てて,それを原資に復旧すべしと書いてあるようだが,国鉄再建の枠組みを30年近くたってちゃぶ台返しする話である.事業再生の基本的な手法を知らないんだろうか.国家権力振り回して国庫に納めさせるのか?この国は独裁国家ではない.JR東海はリニア建設という形で「国家的事業」に儲けた金をつぎ込むことで,国民に利益還元しようとしていると思うが,まぁ,話が噛み合いそうにないので,この辺で.

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(失敗尻ぬぐい編)

この意見の各項目を考えてみるシリーズの2つ目である.フルバージョンはこちら.

  •  2つ目:事業失敗の「穴埋め」で国民への多大な負担と犠牲の押し付けが起きる危険性がある

事業失敗のケースは,実は2種ある.1つは建設段階の失敗,もう一つは,開業後の失敗である.
建設段階の失敗については,実はあまり心配する必要がない.なぜなら,失敗しても何とかなるように,建設のスピードがキャッシュフローで制約されている.もっと簡単に言うと,間もなく概ね終了する東海道新幹線の買取分割ローン払いの分を新線建設にまわすようなものなので,それが失敗行動ならすでに現時点でJRは経営破綻している(でも,実際にはしていない).つまり,外部に影響を及ぼすような失敗の見込は基本的には無く,たとえ失敗しても東海道新幹線の経営が破綻するわけでもなければ,背負ったこともないような巨額の負債に喘いで苦しむわけでもない.負債の額は最大でも東海道新幹線買取時の額までに抑えるようになっている.一気に投資できれば,大阪まで同時開業できるはずだが,できないのは年々の投資額を過去の経験に基づいてセーブしているからである.指摘主は知らないんだろうか?
むしろ,企業経営面よりも国益面では,キャッシュフローによる制約が社会的失敗の原因になりかねない.整備に時間がかかることで沿線の人口分布が変化してしまい,衰退する都市が出てくると大都市なので影響が大きくて放置するわけにもいかず,別のお手当(活性化のてこ入れ策)が必要になる可能性すらある.基本的にはリニアは優良事業なので,促進した方が国益の点では有利なくらいである.リニアは民間活動を大きくサポートするインフラだ.
開業後の経営段階の失敗の可能性はありうる.リニアの失敗と言うよりは東海道新幹線の軟着陸策の失敗の可能性である.リニアは現行の新幹線よりも1時間から1時間半程度時間短縮され,運賃も大幅には上昇させない方針のため,開業すればみんなリニアに乗りたがる状態になることが予想される.そうすると,現行の東海道新幹線の客が減るわけだが,リニア+東海道新幹線の総客数が増えない限り,JRの収入もあまり増えないので,経費ばかりがかさんで利益が減る可能性はある.インフラ産業の悲しいところは,客が1人も居なくても,インフラがそこにあるだけで維持費がかかってしまうことである.
そうすると,リニア開業後の事業成否のカギは,実はリニアではなくてガラガラになった東海道新幹線における新規顧客開拓である.下手に薄利多売に打って出ると,せっかくのリニア客を食ってしまう可能性もあり,利益率も悪くなってしまう.比較的高い運賃を保ちながら,今までの東海道新幹線では提供できなかった新しい種類のサービスを提供すれば成功,できなければ苦しい状況に陥る可能性はある.今のところ,東海道新幹線での新しいサービス提供については,明確な表明はない.
(都市圏通勤輸送に乗り出すのでは,という話はあるが,既存通勤鉄道線とパイの奪い合いにある可能性もあり,さらには通勤輸送だと客単価を高くできない可能性もある.)
JRは日本国有鉄道ではなく株式会社なので,指摘するなら「国民への多大な負担と犠牲の押し付け」の前に「株主の責任が厳しく問われるとともに,株式出資の範囲内での経済的責任が明確化されること」や「貸し主の貸し倒れの可能性」を指摘するのが妥当.でも,それって余計なお世話だよね.株主にしろ出資者にしろ,各自の判断で行動してるんだから.
もし失敗しても,地方のローカル鉄道とは異なり,日本の中心部分の鉄道なので,東西間輸送事業そのものは再生できる可能性が高く,事業が再出発できれば再上場も可能と思われるため,最終的には一般国民の血税がダラダラ垂れ流しになる事態にはなりにくい.(出資者は除く)それとも,この指摘主は「資本家」の心配をしているのだろうか?
(リニアの需要を心配してあげるなら,経由地をなるべく人口密度が高い地帯にした方がいいですよ,という提案をしてみてはどうでしょう.…と言うか「リニアの需要が予測通りに伸びない」ことよりも,「リニアの切符が人気すぎて買えない」ことを心配した方がいいでしょう.それから「在来線の廃止」は何処のことを言っているのか,よくわからんが,閑散路線のことならリニア以前の国の鉄道政策の問題です.たたく相手を間違ってますよ.)

リニア新幹線反対論は妥当な指摘か?(輸送力編)

リニア新幹線についてはいろいろと段取りがおかしいことを指摘しているが,しかしながら基本的には,リニア整備については「さっさとつくるべし」という立場である.だが,世の中にはそうでは無い意見も存在しており,気になるところである.
そういう「反対意見」にあれこれ言うと,後々面倒なことになる可能性が高いことは,堺のLRT関係の経験で重々承知なのだが,やはり気になるのでちょっと考えてみよう.(中には見落としていた視点が指摘されていることもあるので,多様な意見は重要である.)
さて,反対意見の代表的なものとして選んだ,というか,ネット検索でわかりやすい形で引っかかったと言った方が正確だが,この意見の各項目を考えてみる.主に5項目あげられており,話が長くなりそうなので,1項目ずつ考えてみる.

  • 1つ目:「輸送需要」「時間短縮」などに国民的な要望も経済的社会的な要請もなく、建設には“大義”がない

実は2つ指摘事項が書かれており,量としての輸送需要の問題と時間短縮という質の問題ともに大義がないという指摘である.
まず,量の面での「輸送需要」については,webmasterも同様の指摘はしたことはある.別線がなくても,信号システム(ATC)の更新,品川駅の設置,人口減少局面突入,北陸新幹線計画の存在などにより,「既存の」輸送需要に対する逼迫のピークは過ぎつつある可能性はある.
だが一方で,リニアの時間短縮量は他の交通機関に比べて半端ではない.東京-大阪間1時間では航空便と変わらないという指摘もあろうが,航空と鉄道では使い勝手が雲泥の差であることは明々白々.もし使い勝手が同じなら,現時点で航空の圧勝のはずだが,そうはなっていない.便利な鉄道の大幅な時間短縮により,新規需要が喚起されることは確実で,特に山陽新幹線などリニアと乗り継いで移動するような区間において航空からリニア(+新幹線等)へとシフトする量が多いことが予想される.料金も現行ののぞみ号に比べて大きくは上げない方針のようだ.なので,リニアは開業早々に輸送力不足に悩まされるほど大人気になると信じている.
「時間短縮」については,東海道新幹線のぞみ号に乗車してみればすぐわかるだろう.東海道新幹線は観光客も乗るが基本的には太平洋ベルトの主軸を走るビジネス列車である.時間給の高い有能なビジネスマン達が,2時間以上も列車に箱詰めされている様子を見れば,これは経済的に見ても大変な損失だと感じることだろう.(ただし,観光客は別である.彼らは箱の中に居ることを楽しんでいることが往々にしてある.)それとも,彼らビジネスマンの姿を見ても何も感じないのだろうか?
基本的には2項目とも強い要望があるのが東海道新幹線である.(白浜温泉や城崎温泉に行く列車とはニーズが違う)
新幹線に対する「国民的な要望」については,料金や時間が同じような条件なら航空よりは新幹線を選ぶことが多い,という国民性で証明されている.プラカード持ってデモをしたり,ハチマキ巻いて陳情したりするだけが国民の要望ではない.時間短縮すれば,それに応じて客が増える事例があることから見ても,サイレントマジョリティの要望は明白だろう.あれだけボコボコに言われていた整備新幹線も,開業すると従前の特急列車よりも客数を伸ばしている.
経済的な要望については,産業界が「さっさとつくれ」といっている状態なので,要請は明確に存在している.東海道新幹線についても輸送能力がネックで輸送需要サービスの多様化に対応できていない状況にすらなりつつある.海外じゃぁ,荷物輸送に高速鉄道を使ったり,超高級快速列車を高速鉄道に走らせたり,いろんな使い方が始まっているんですけど.
社会的な要望についても,のぞみ号が浜名湖を通過する度に何かを感じませんか? それとも,このへん通過中は,いつも寝ていて気づかない,というなら仕方ないですが.
(あと,「巨額の資金を30年以上にわたって投入」と噛みついてらっしゃいますが,JR東海は日本国有鉄道ではないので,基本的には何にどれだけ投資するかは経営者のさじ加減の範疇です.むしろ,株主にばらまかずに,本来なら国が金を出して実施しても不思議ではない事業に投資するという話ですから,「巨額の複数年にわたる設備投資ありがとう」と言うべきでしょう.)
(それから,「東京―大阪間で、1時間半程度」は誤りで,70分弱ですよ.「東海道新幹線は東京-大阪間4時間あまり[ただし,こだま]」とは言わないよね.)

整備新幹線前倒し「やった方がいい」 : そのとーり

新聞に麻生氏、整備新幹線前倒し「やった方がいい」 という記事があったが,そのとーり.よくわかってらっしゃる.何がもったいないかというと,中途半端につくられた構造物が,何の利益も効果も発揮することなく,長期間野ざらしにされることほど,もったいないものはない.作り始めたら(もちろん借金の利率にも依るが)さっさと完成させて,使い始めるのが一番.
P1010006
それから,「北陸新幹線については、南海トラフ地震などで東海道新幹線が機能しなくなる可能性を指摘し、危機管理上も早期の整備が必要だとの考えを示した。」という件も,よくわかってらっしゃる.そのとーり.
残念なのは,北陸新幹線の大阪近辺をどうするのかという方針が決まってないこと.大阪近辺はいろいろと幹線鉄道計画の課題がゴチャゴチャと存在しているが,誰も整理できていないというのが,残念なところ.

リニア新幹線整備の理由(昔の主張-経済圏形成編)

中央新幹線計画については,1973年に基本計画が立てられながらも長らく整備計画になることはなかったが,今から10年くらい前はまだ整備計画には格上げされておらず,プロジェクト実現に向けていくつかの必要性の論点が展開されていた.

  • 最初の必要論は,「巨大かつ効率的な経済圏の形成」である.

それぞれが世界でも有数の大都市圏である首都圏,中京圏,京阪神圏を端から端まででも1時間程度で結び,巨大都市圏をつくり出し,経済的な効果を引き出そう,という構想である.この機能こそがリニア最大の効果であるが,いくつかの課題が存在していた.
現時点では若干方向が修正されつつあるものの,10年前の時点では効果の話がリニア新幹線沿線ばかり主張され,まるで整備新幹線5線(北海道,東北,北陸,九州(鹿児島と長崎))と同じような視点が持たれていた.これでは議論が広がるはずも無かった.沿線で友好団体が結成されていたが,これではまるでローカル新幹線であった.
ちょっと計算してみればわかる話であるが,東京-名古屋-大阪間にリニア新幹線が整備されると,都市間の所要時間が短くなるのは三大都市圏沿線相互間だけではなく,接続される「遅い新幹線」沿線にもおよび,全体の効果は沿線相互間だけに比べて数倍はある.リニア新幹線は「男の中の男」「女の中の女」じゃなくて「幹線の中の幹線」である.全国ネットワークの中の位置づけに関しての議論が必要であった.
残念ながら,リニア新幹線の全国ネットワークの中の位置づけに関しての議論は整備計画のための審議の中でも十分に行われることはなく,整備計画が策定された後の最近になってようやく国土計画の中で位置づけられつつあるようである.議論の手順が全く逆で,これではリニア新幹線の整備意義も整備方法も整備内容も満足に検討されるわけがない.実際,現行のリニア新幹線計画には幹線鉄道ネットワーク計画としては不十分な点がいくつか見られる状態にある.