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「新幹線をあきらめきれない面々」という表現

半年ほど前にこんなweb記事があった.

記事の内容そのものについては,近年の状況を述べているだけなので,さほど違和感はないのだが,軽い嫌悪感を感じるのはそのタイトルである.

 「新幹線」をあきらめきれない面々

面々という表現は,単純には人々とか各方面とかそういう意味なのだが,近年の日本語の表現としては「懲りない面々」「浮かれる面々」「容赦ない面々」「無責任な面々」「奇妙な面々」など,やや冷淡に見ている場合に使われることが多い表現である.

そして,標題として「あきらめきれない人たちがいる」ということを取り上げると言うことは,裏を返すと「あきらめるのが普通なのに,あきらめない人がいる.これは変だね,取り上げてみよう」という意図が見え隠れする.

現在新幹線が走っている地域は,歴史的経緯からたまたま新幹線が走るようになった地域である.こう言うと反発があるかもしれないが,例えば関東平野は今でこそ日本の中心地域だが,かつては開発途上の野原であり,江戸期になって本格的に開けた地域である.もし江戸時代が始まろうかとしているその時期に,徳川家康が「幕府は尾張に!」と決めていたなら,首都は名古屋で,関東は今も寂れた地域だったかもしれない.

あるいは,明治の最初の鉄道が当初の思惑通りに中山道沿いに建設されていたら,最初の新幹線は中央新幹線で,今ごろ第2中央新幹線を東海道に沿って建設すべきかどうか議論がされていたかもしれない.

そういう点からすると,ちょっとだけ他地域に比べて開発が進んでいるからといって,「あきらめきれない面々」と書いてしまうのはやや上から目線ではなかろうかと思ってしまう.

この手の表現は形を変えながら時々大都市の人の口から出てくる.だが,今の状況はたまたまそうなっているだけなのかもしれない,という謙虚さは欲しいものである.この手の上から目線の話を聞くといつも思い出すのは,芥川龍之介の「蜘蛛の糸」に出てくる犍陀多(かんだた)の事である.

とやかく言えるほど,エラいのか?

ONE OSAKAの都市計画・交通計画は妥当な案か(VOL.12+VOL.13編)

大阪の与党の広報誌Vol.12に記載されている都市計画,交通計画がらみの案の妥当性の考察である.なお,広報誌Vol.13もほとんど内容が同じなので「合併号」である.

Vol.5編はこっち,Vol.6編はこっち.Vol.8の(1)はこっち,Vol.8の(2)はこっち,Vol.8の(3)はこっち,Vol.9編はこっち,Vol.10編はこっち,Vol.11編はこっちである.

今回は紙面構成が前回までとやや変化している.


Vol.12の1枚目.

大阪東京のツインエンジンで…こんなに変わる!

→国土の双眼構造に言及している.双眼構造が重要であるという点は同意である.ただし,この広報誌(大阪の与党)の認識は甘い.
→詳しくは,当サイトの「都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり」シリーズを読んでください.それから,高橋洋一さん(*)(**)の「データに基づく社会科学の議論でないと感じた」への返答にもなっています.(直接メールを氏に送ろうとしたけど,最近は大学教員といえどもwebサイトに堂々とアドレス載っけてる人って少ないのね)

(*)このコラム,他にもツッコミどころがいくつかある.
(**)BSの番組で「大阪市は高度成長期以降人口が減少し続けている」とドヤ顔で見せてたグラフの解釈へのヒントもあります.要するに,大きな都市なので単に郊外化して中心部分の大阪市が居住地から業務地に変化しただけですね.私なら恥ずかしくてあのグラフを衰退の説明には出せないです.

第1話-新幹線偉大なり編第2話-産業振興vs交流編第3話-他の交通機関編
第4話-東海道vs中山道編第5話-新幹線駅が都市圏形成編第6話-駅アリ>駅ナシ編
第7話-20年差が命取り編第8話-後手必敗編第9話-東密西粗編編
第10話-リニア編

あと,足りなければこれもどうぞ.

波床正敏:「明治期以降の交通網整備が我が国の地域構造に及ぼした影響に関する研究」, 京都大学学位論文, 全134頁, 1998
LinkIcon表紙 [PDF 20KB] LinkIcon序 [PDF 12KB] LinkIcon目次 [PDF 16KB] LinkIcon第1章 [PDF 60KB] LinkIcon第2章 [PDF 160KB] LinkIcon第3章 [PDF 276KB] LinkIcon第4章 [PDF 312KB] LinkIcon第5章 [PDF 236KB] LinkIcon第6章 [PDF 104KB] LinkIcon第7章 [PDF 288KB] LinkIcon第8章 [PDF 28KB] LinkIcon謝辞 [PDF 8KB]

→とは言え大量の資料を読むのも大変なので,大阪与党の認識の甘さを要約すると,東京一極集中の原因が東京の都市開発にあると思っている点である.そうではなくて,集中の原因は東京を中心とするような広域交通インフラの整備(および大阪へと向かう広域インフラの不整備)にあり,大都市施設(官民とも)の立地条件が根本的に劣っていることが大きな原因である.
→立地条件が悪い場所でいくらがんばっても,水をやらない草木のように早晩枯れてしまう.府市二重でビルを建てて失敗したのは,「二重行政」ではなくて,不況と大阪の広域利便性の悪さが原因である.(各ビルの立地場所そのものもセンスがないという話もあるが)
→地域整備と交通整備はクルマの両輪,ニワトリと卵の関係に近いものがあるが,地域整備を重点的にやって長期的繁栄を得た地域は少なく,逆に交通整備によって長期的繁栄を得た地域は多い.
→大阪が昔「天下の台所」であったのは,当時としては広域利便性が良かったからなんですよね.大阪の人は気づいてないかもしれないけど.
→この一連のチラシを見る限り,都構想は行政の効率化で捻出した資金を地域整備に回す構想のように見えるが,自地域整備を優先する方策はあまり得策ではない.(←データ分析の結果に基づく考察です.念のため)

地価上昇率全国トップクラス!

→批判していた阿倍野の再開発に絡むものが2つもランクインしてますけど…

有効求人倍率大幅改善
外国人観光客大幅増

→全国の動向もあわせて示さないと,大阪が良くなったのかどうかの証拠になってないですね.

百貨店の売上高大幅増

→最近,百貨店を建てまくりましたからねぇ.


Vol.12の2枚目.

Q3:民営化しても区民の利益にならない?…数千億円の株式を大阪市民が手にすることに

→大阪市を廃止して「大阪市民の手」とはこれいかに,というくだらないツッコミは置いておくことにします.
→民営化して株式は手にしますが,それは単に資産を流動化させただけで,資産が増えたわけではありません.その株式をたとえ売り払って「数千億円の現金を手にすることに」に変化したとしても,流動資産化しただけで,大きさが変化したわけではありません.念のため.
→府市統合しなくても,流動資金が必要なら株式の売却は可能です.

関西電力株の売却で1000億円

→府市統合しなくても売るのが適切だと思えば売れば良いのでは?
→地下鉄や水道と同じく,不意に流動資金を手にすると,無駄遣いしがちですよ.(ヒント:あたり馬券,宝くじ)


一応,One Osakaシリーズ終わり.

関西から東京へは北陸新幹線で!?(実際に買ってみた編)

北陸新幹線が開通したので,東京出張の片道を北陸新幹線に変えてみた.以下,京都発着の場合なので,大阪発着の場合が同じようになるのかどうかは知らない.

まず,通常通り単純往復すると,通常期の場合はこうなる.

京都←(新幹線)→東京
運賃8210円+のぞみ5700円=13910円
往復すると,13910円×2=27820円

さて,こうやって一周してくると

京都→(サンダーバード)→金沢→(新幹線)→東京→(新幹線)→京都
特急料金は,1450円(乗継割引)+6780円+5700円=13930円

問題なのは運賃部分であるが,京都から時計回りにぐるっと回ると京都の隣の駅の山科駅と京都駅の間が往復になってしまって切符が二枚になってしまう,とかいう話があるのだが,こういう解決策があった.

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13820円也.先ほどの特急料金とあわせると27750円.70円安くなった.

昔の国鉄時代なら山科駅までしか買えなかったようだが,往路を在来線指定して復路を新幹線指定し,発側を京都市内,着側を京都駅限定にすることで,ぐるっと一周の切符を発券可能になるようだ.

ちょっと時間がかかったが一発発券.さすがプロの窓口担当氏である.

#もっとも,東京駅しか途中下車できないので,都内をJRで移動すればその分高くなるが…

ドーナツの認識方法について

低迷する大阪を何とかしたい,その問題意識は正しい.

だが,大阪の長期衰退の原因は,西日本における中心性の低下,国土の双眼構造の崩壊に他ならない.

府と市をくっつけて都を名乗ればそれで解決できるようなレベルではない構造的な問題が既に発生しており,数十年単位でこの先,大阪(および近畿一円)が苦しみ続けるのではないかと心配している.だが,残念ながら現時点では内向きの議論ばかりなのが悲しいところ.

首都圏と関西圏では新幹線をはじめとする広域交通インフラの差が歴然としており,これが西日本における中心性を失っている主因である.

ドーナツは周辺があるからドーナツだ.周りがなければ,どこが中心かわからない.


詳しくは,以下のリンクを参照.
「都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり」

第1話-新幹線偉大なり編第2話-産業振興vs交流編第3話-他の交通機関編
第4話-東海道vs中山道編第5話-新幹線駅が都市圏形成編第6話-駅アリ>駅ナシ編
第7話-20年差が命取り編第8話-後手必敗編第9話-東密西粗編編
第10話-リニア編

都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり(第10話-リニア編)

一応第9話までで完結しているので,番外編である.第9話までは以下のリンク先をどうぞ.

第1話-新幹線偉大なり編第2話-産業振興vs交流編第3話-他の交通機関編
第4話-東海道vs中山道編第5話-新幹線駅が都市圏形成編第6話-駅アリ>駅ナシ編
第7話-20年差が命取り編第8話-後手必敗編第9話-東密西粗編編


2ヶ月ほど前に,こういう記事があった.

リニア延伸遅れに焦り 関西財界セミナー、京都誘致も影響 : 京都新聞.

この記事の中で,京大の藤井先生が「東京一極集中を是正するためにも同時開業が必要だ。実現できなければ大阪は18年間にわたって名古屋圏の地方都市になる」と説明したらしいが,私の感想としては…藤井さん優しいなぁ,である.

どういうことかというと,第7話-20年差が命取り編を思い出して欲しい.それまでに無かった新たな交通機関が出現するときには,20年ほどの整備時期の差がその後の盛衰に大きく影響して,後から追い付こうとしても差が縮まらなかった.

ということは,こういうことではないだろうかと思っている.

×:(同時開業が)実現できなければ大阪は18年間にわたって名古屋圏の地方都市になる
○:(同時開業が)実現できなければ大阪はたとえ18年後に開業しても半永久的に名古屋圏の地方都市になる

名古屋を再び追い越してぶっちぎるには,リニアだけでは足らなくて,新大阪駅を中心にして四方八方に高速鉄道が整備されるくらいの勢いでないといけない.単に追いつくだけでは,18年の差を埋めることはできない.


この記事の後半もなかなか興味深い.

京都がリニア誘致をあきらめない話が書かれている.リニア整備の時期が約20年差でも致命的な影響が生じる可能性があるわけなので,リニアの駅そのものの有無は未来永劫の盛衰を左右するレベルである.そりゃぁ,あきらめないだろう.

大阪の経済団体は「法律で奈良市付近を通るルートに決定しているという認識で統一されている」とのことだが,これもなかなか興味深い.

大阪は京阪神の中心,近畿一円の中心,関西の要である.(どうなるかどうかわからないが)道州制というような構想もあり,もしかしたら将来的には大阪が経ヶ岬から潮岬までについて我が事のように気を配らなければならない日がやってくるかもしれないのだが,現時点では隣の京都の盛衰は気にならないようである.かといって奈良がどうでもいいということでもない.

リニアの効果を最大限に近畿一円で受け止めながら,その全体に恩恵を巡らすような,全体合意可能な案が必要なのだが,そういったところには意識はいっていないようである.

自ら前へ前へと出る事には長けているが,他地域とうまくやってゆくのはあまり得意ではない地域性が出てしまっているのかも知れない.大阪が真の地域圏のリーダーになるには,もうちょっと修行が必要かもしれない.(逆ギレしないでね.)


こんどこそ終わり.

都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり(第9話-東密西粗編)

最終回であり,結論である.
第1話-新幹線偉大なり編2話-産業振興vs交流編
第3話-他の交通機関編
第4話-東海道vs中山道編
第5話-新幹線駅が都市圏形成編第6話-駅アリ>駅ナシ編
第7話-20年差が命取り編第8話-後手必敗編

最初の出発点は以下の図であるが,新幹線は地域振興に資するという単純なメッセージの他に,目新しい交通機関が出現したときには早期整備する必要があるということが重要ということである.同時に地域整備そのものよりも交通整備の方が効果が大きいということであった.

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さてさて,大阪を取り巻く交通整備であるが,今から約10年ちょっと後の2027年頃の様子は次の図のようになる.東北新幹線は北海道新幹線につながり,北海道南部までは到達している.北陸新幹線は金沢から福井を経て琵琶湖の手前まで来ている.リニアも出来ているが名古屋まで.

東京からはミニ新幹線を含めて新幹線で行けない県は中部以東ではほとんどなく,近県の茨城と千葉だけである.

それに比べて大阪はどうだろうか.九州新幹線につながる山陽新幹線はあるものの,北陸新幹線もつながってなければリニアもつながっていない.山陰新幹線や四国新幹線は当面開通できる状況にない.

これで,東京に勝てるか,というと,はっきり言って絶望的である.

府市統合のような中心都市の行政効率を上げて(ほんとに効率が上がるのかという議論すら多いが),その分を地域整備に回すことで大阪の地位が向上するのかというと2を読んでのとおり,その方法では望み薄である.加えて,効率の上がった分が存在するとして,それを地域整備にどのように回すのかすら今ひとつわからない—市に集中投資するのか,それとも府下にばらまくのか—.(大阪市長は市に集中還元させるというようなことを言っているようだが,それだと府がこの統合に参加する意義が見いだせない.逆に府下にばらまくのなら,やはり市は割を食うのか? いずれにせよ,不明な点が多いまま話が進んでいる.)

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ちなみに,大阪を取り巻く高速鉄道網整備は下の図の緑色の線のようにかなりたくさん残されている.これらが完成すれば大阪を中心とするネットワークは東京を中心とするものに遜色がなくなって国土の二眼構造が復活する.

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だが,残念ながら大阪の人は自らが頑張りさえすれば何とかなると思い込んでいるわけで,大阪以外の地域とうまくやって行くという発想そのものが無いようなのが悲しいところ.(…と指摘したからと言って,逆ギレしないでね)

以上が市販本やwebで引用されている元図の背景である.大阪都構想(府市統合)という目立つ話の陰で,大阪の長期衰退は当に今,始まろうとしている.

#逆ギレしないでね.いちいち逆ギレしていると,大事なことを話す人が少なくなってしまうので,結局損するのは逆ギレした人,という状況になると思う.日本国憲法第21条とか,日本国憲法第23条って大事だよね.

都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり(第4話-東海道VS中山道編)

以下の話の続きである.
第1話-新幹線偉大なり編
第2話-産業振興vs交流編
第3話-他の交通機関編

今回は東海道新幹線の影響のお話しである.太平洋ベルト地帯に位置する都市や地域に住んでいる人にとっては,新幹線は当たり前の交通機関であり,それがどんな影響があるのか…なんて,ほとんど考えたことすらないと思う.あって当たり前の交通機関.それだけに,大阪および京阪神地域では新しい交通機関の整備については意識が薄いようで,気がついたときには手遅れになりそう(と言うか,既になっているかも—いちいち逆ギレしないでね).

さて,昔々,その昔,新幹線もなければ高速道路も鉄道もない時代.街道を自らの足で歩くか,お金があるなら駕籠,あるいは沿岸航路という時代.東京-大阪間2週間という時代が下の図.

和歌山や徳島,あるいは富山や金沢といった都市が全国屈指の大都市だった理由はここにある.つまり,沿岸航路沿いの都市だったということ.このころは瀬戸内海も(徒歩に比べて相対的に)高速大量輸送軌間の交通路として使われていたため,その奧にあった陸地との接点である大阪は正に交通の要衝.繁栄するだけの地の利を備えていた.その後の鉄道整備では,瀬戸内海が便利すぎて,四国や中国地方西側,九州東側の鉄道整備が遅れる遠因になってしまうわけだが,今回の本題は瀬戸内ではなくて東京-大阪間である.以下のお話しは,15年くらい前にThe21という雑誌に書いた記事内容ほぼそのままである.

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今でこそ東京と大阪を結ぶルートは東海道新幹線以外の選択肢が事実上無くなっているが,昔々,その昔,まだ徒歩移動が主体だったころは東海道ルートと中山道ルート(と,あとは海路)が主体であった.

そこで,旧東海道に沿った市町村と,旧中山道に沿った市町村とについて,人口を比べてみることにする.市町村人口は国勢調査開始の1920年以降なら正確なことがわかるので,その推移を図にしたものが下である.

棒グラフは沿線市町村人口の合計の実数で右側の軸で見る.オレンジ色の棒が旧東海道沿線の人口で,緑色の棒が旧中山道の沿線人口であり,両者に含まれる東京は抜いてある.東海道は途中から海路が含まれたりするので,岐阜県下に向けてのルートで計算し,集計対象は両者が合流する岐阜県下までである.

沿線の平地の広さに差があるので,棒グラフは最初から東海道ルートの方が大きく,沿線人口は多く,1920年以降増加し続けている.一方,中山道ルートについても人口は少なめであるが人口は増加している.

そこで,最初の1920年が1になるように,それぞれの人口を最初の1920年の人口で割った数字を計算して折れ線グラフをつくった.ピンク色が東海道ルートで若草色が中山道ルートである.

1920年以降,両者は増加しているが折れ線の推移に大きな差は無い.つまり,内陸だから人口の増え方が少ない,ということは無いということである.ただし,そのような差の無い状態はこの図の左半分についてである.

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さて,上の図の右半分はどうだろうか.オレンジ色の棒グラフは伸び続けているものの,緑色の棒グラフは頭打ちになる.折れ線グラフもグラフの半ばまでは差が無かったものが,段々と口を開き始める.これは何だろうか?

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そう,その開き始める時期こそが東海道新幹線の開業である.もちろん,高度経済成長も関係しているだろうが,高度成長はもう少し早く始まっている.

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あらためて全体を見てみると,この折れ線グラフの「開き始め」の時期には日本の国の形が大きく変化したことは明らかである.

つづく

都構想の陰で進行する大阪長期衰退の始まり(第2話-産業振興VS交流編)

第1話-新幹線偉大なり編の続きである.

「地域の発展」というと,昔は富国強兵,殖産興業だが,比較的最近なら全国的な発展度合いを均衡化しようとしていた,つまり国土の均衡ある発展を目指していた一連の全国総合開発計画が思い浮かぶ.

全総関係のプロジェクトはいろいろあるが,大きく分けて交通系の大規模なプロジェクトと,地域開発系の大規模なプロジェクトとがある.地域開発系のもので有名なのは社会科の教科書にも出てくる「新産業都市」である.

新たに工業都市を設置して,それを核に地域開発しようというのが新産業都市であり,主として地方部に配置された.よく似た「工業整備特別地域」の方は,新産業都市が新規設置であったのに対して,こちらは既にある程度開発が進んでいた地区を指定して工業促進を図ったものである.

その全国的な分布の概略が下の図であり,緑色の星印が新産業都市で基本的には地方部に位置する.黄色の星印が工業整備特別地域であり,太平洋ベルト地帯に多い.

semi-041a均衡ある発展を目指したプロジェクトだったはずなので,成功すれば地方部にも人口が張り付いて,例えば人口ベスト15から落選した都市にいくつか返り咲きが生じても不思議じゃぁ無かったわけだが,そうでもなかった.

結局は緑色の星の配置よりは,新幹線の配置の方がしっくりくるという結果になる.つまり,産業を意識的に配置するよりは,新幹線の方が影響が大きかったということだろう.

つまり,大阪(および近畿一円)の発展のためには,自地域における産業を直接的に活性化するという視点だけでは長期的な繁栄はおぼつかないということである.とかく大阪の人は自らが頑張れば何とかなると思いがちなのだが,こういった地域間の連携につながる策が必要なのだが…(…逆ギレしないでね.)

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経済学が専門の人に「簡単すぎる」と叱られるのを覚悟で簡便化して説明すると次のような話になる.地域というのは,全国的に金太郎アメなワケでは無くて,場所場所によって得手不得手がある.

例えば,甲地域は商品Aを生産するのが得意で,100円という安価で生産できる(別に商品でなくてもサービスでも良いが,あまり細かい話は置いておく).でも商品Bを生産するのはあまり得意ではなくて,200円かかる.

一方,乙地域では商品Aの生産は得意ではなくて200円かかるが,商品Bの方は得意であり,100円で生産できる.

このとき,甲地域も乙地域も,それぞれ商品Aを100個,商品Bも100個必要だったとして,お互いの交流が全くなく,必要なものは自地域で全て生産したとしよう.そうすると,全体で必要な生産費用は下の図のように60,000円になる.

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さてさて,ここでお互い得意なものを交換できるようになったとしよう.得意でない方の商品は生産を止めて,甲地域は商品Aを200個,乙地域は商品Bを200個生産して,それぞれ100個ずつ交換する.交換の際に相手側に渡す際の値段を100円ではなくて150円にしたとしよう.

そうすると,お互い交換する商品については,値段と量が同じなので(輸送費等の話を脇に置いておくと)相殺できたとして,全体で必要な生産費は40,000円になる.先ほどの場合と比べると全体の生産費は下がった.必要なものはそれぞれの地域で必要な個数確保できている.

地域間交流ばんざい,なのかもしれない.いわゆる「選択と集中」の基礎だろう.自由貿易の基本概念だろう.交通整備が必要な基礎的背景はここにあるといえる.(同時に自由な取引を阻害すべきでないという基礎もここにある)

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ただし,このシステムは必ず成功するとは限らない.自由貿易論者が隠している別のシチュエーションが存在しているので要注意である.

Give & Takeの関係が成功してWin-Winの関係が構築できるのは,それぞれの地域が必ず他地域に差し出せるだけのレベルと量の「得意なもの」を持っているという暗黙の前提がある.

例えば,下のように甲地域は商品Aも商品Bも生産が得意でない場合,甲と乙を結んでしまうと全体の生産コストは下がって効率化が進むが甲では何も生産できずにただ買うばかりになってしまい,地域の経済が破綻する.それでも交流が開始された地域間では効率化が進むので,全体としては何もしていない地域群に比べると強い地域圏が形成される.新幹線はそういった地域圏を形成する効果があるといえる.

give-take.027 が…まだ第2話である.これだけで話は終わらない.

つづく

新幹線との対面乗り換えが注目されて10年以上経過したんだが

九州新幹線が鹿児島付近の先っぽだけ営業していた時代,新八代で新幹線と在来線特急が対面で乗り換えできていたのは有名な話.これは便利だということで,同様の取り組みをしようと結構あちこちで盛り上がっていたんじゃないかと思うが,あれから約10年.大した設備ではないはずなのだが,1つも実現しない.

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システムの違う鉄道をホームの両側に乗り入れなければならないので,取り付け線の整備程度などはいるがフル規格新幹線建設などに比べて大幅に簡便なはずだったのだが…

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いや,べつに軌間可変装置を付けなければならないということはないんですよ.車両と装置が開発できたら後付けで付ければ良いだけで,FGTが実現するまで在来線と新幹線を接続してはいけないということはないんですよ.出来そうなところはやりましょうよ.

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長野駅から南方面とか,名古屋やリニア三重県駅から三重県南部とか,新大阪から日本海側各地とか和歌山とか,岡山を起点に各方面とか,小倉から大分・宮崎とか,鹿児島中央から宮崎とか・・・

新潟駅はいつ出来るんだったっけ?

#こういった小技についても,「整備計画」認定できるようにしようよ>国交省殿

元祖リニア実験線

フランスのオルレアンの北方にはエアロトランの実験線があったが,日本の宮崎の北方には元祖リニアモーターカーの実験線があった.

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エアロトランの実験線に比べると,地震への対応のためか橋脚の足が太い.畑の中を日豊本線に沿ってほぼ真っ直ぐに進む.DSCN2069

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元はJR総研の施設で,今は地面効果を利用した航空機である「エアロトレイン」の実験場になっているようである.

DSCN2088・・・が,宮崎に高速鉄道の恩恵がやってくるのはいつなんだろうか?
そろそろ新しい全国の高速鉄道ビジョンを策定しようよ.PDCAまわってないよ.