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“雑魚な客数のために面倒なことできるかよ!” と返答してJR東海が失ったかもしれないこと(その4)

やっちまったかもしれないお話の(その4)である.

今回は,輸出への影響についてである.日本の新幹線については,海外から見れば「新幹線」のワンブランドのはずだが,その実,細かなシステムがJR東系とJR海系とで異なっており,そのまま両方を直通で走れる列車は現存しない.

かつて国鉄末期には(アナログATC時代だが)両方走れる車両も試験車として開発され,試験走行もされていたかと思うが,今や昔の話.

さて,米原で北陸新幹線と東海道新幹線が直通運転を行っていたとすると,その車両はJR東系とJR海系とのシステムの差異を克服できる車両ということになったはずだった.

ところが,それを実現させる機会が失われてしまったがために,新幹線を海外販売する際に「オタクの国のシンカンセン,保安装置が統一されなくて面倒なんだってナア」と突っ込まれた際に「いえいえ,両方ちゃんと走れる方法も準備してあります」と返答する術を失ってしまった.

欧州系の高速鉄道が各種のシステムを規格化し,統一して,いわゆるインターオペラビリティを向上させてきているのに対し,日本のシンカンセンはガラパゴス化が進み,日本国内ですら自由に走れないほどタコツボ化が進行していることを証明してしまったとさ.

#システムの多様性という点では,青函トンネルにおける在来線との供用区間(三線軌)の存在や,ミニ新幹線システム(=低速在来線との乗入れ),在来線の保安システムへの対応,異なる電源周波数の切替,雪への対応,総二階建て,320km/h運転,2編成併結運転,地下駅の存在,長大山岳トンネル,etc…JR東日本系の新幹線システムの方が,海外から見ればメニューが豊富で魅力的に見えるかもね.

新幹線の速さのイメージ

皆さんの新幹線の速さのイメージというと,こういう感じだろうか?
(音量注意)

 

たぶん,あまり違和感が無かったかと思うが,でも,実はこれ2倍速に編集してあり,x1倍再生だとこうなる.(こっちも音量注意)

 

 

皆さん,かなり高速交通に神経が慣らされてますね.(最初のビデオは先日の講演会の終わりでプレゼン画面に挿入したものだが,倍速編集だということにはあまり気付かれていない模様.)

リニアと新幹線(*)の速度の比はだいたい倍なので,最初のビデオがリニア新幹線実現時の列車通過イメージという感じだろうかねぇ.

(*)GPSで測ってみると,新幹線が本当に最高速度で走っていることは少ない.

 

「米原ルート」の開業時期(3)

さらに話は続く

今日は「JR東海リスク」を回避し,乗入れOKの判断を待って米原ルートを着工することを考えてみよう.

最初に判断結果が変わる可能性があるのは,リニアの名古屋開業である2027年である.この段階までは判断を変える具体的な材料の変化は発生しない.それまでに環境影響評価を終わらせておいて,即着工するとすると2027年着工で2037年開業.これだと小浜-京都ルートを現時点で確定させて着工に向けて財源確保の努力をするのと開業時期は変わらない(か,むしろ米原ルート採用の方が遅い).

2027年段階で色よい返事を得ることが出来ずに2037年まで着工を延期したとしよう.乗入れOKの返事をもらって即着工し,10年で開業させたとすると2047年開業.これだと,財源確保サボタージュ方針の2031年着工で2046年開業の小浜-京都ルートと変わらない(か,むしろ米原ルート採用の方が遅い).

さらに最悪のケースとして,2037年まで着工を延期したものの,乗入れNGの返事が返ってきた場合は,この段階から小浜-京都ルートの建設を開始しなければならなくなる.環境影響評価から開始して工期15年なら2057年開業.当webサイトをご覧の読者の半分くらいは(悪いことをしていなければ)天国から様子をうかがうレベルの時期である.

結局,この最悪の2037年小浜-京都ルート着工や永久米原乗り換えの可能性を考えると,2027年に米原ルート着工というのも実際には採択しにくい.

全体の話をまとめると,米原ルートはJR東海が乗入れOKの返事をいつするかに依存しており,現実的には,2017年の現時点でOKの返事をしていない限り採択しにくい案,ということになる.米原ルート採用は現時点でJR東海を説得していることが必要である.誰か説得できるの?

 

「米原ルート」の開業時期(2)

昨日の話の続きである.

整備新幹線の工事は,それぞれ当初段階ではその時々の資金状況のままだった場合を想定して建設時期が表明されている.だが実際には,これまでの整備新幹線の建設工事では,建設部隊の手が暇にならないように工事事業が連続して発生するように日本全体での新幹線の建設工事工程が組まれるとともに,それを実現すべく資金確保の工夫がその都度行われていると思われる.

ということで,何らかの資金確保が出来て,2031年まで待たずして建設工事が開始できる場合を考えてみよう.おそらくこっちの方が現実に近いと思う.

まず京都-小浜ルートの方を先に考えてみよう.数年の環境影響評価で詳細ルートを確定させた上で,2021年着工としよう.長大トンネルが多くて工期は15年かかるとしよう.そうすると2036年開業となる.リニアの大阪開業の2037年と変わらない,それならばリニアが大阪まで開業すれば東海道新幹線の線路容量が空くので,米原ルートでの大阪乗入れが出来るから,米原ルートでいいではないか,という話になると思う.一応,その話は正しい.ただし,一応,である.

米原ルートの最大のネックは東海道新幹線利用である点だ.現状ではJR東海のトップは乗入れできるかどうか「先のことだからわからない」と発言している.個人的には,2017年の現時点でも毎時1-2本程度は乗り入れ可能だと思っているが,まぁ当の鉄道会社のトップの判断なので,致し方がない.

じゃぁ,「先のこと」ではなくなるのはいつなのかをよく考えてみる.最初のタイミングが訪れるのは現在の2017年ではなくてリニアの名古屋開業である2027年である.この段階で東海道新幹線の旅客数が名古屋以西で段落ちしている分,東海道新幹線の大阪-名古屋間の本数を減じることが可能という判断になれば,目出度く米原から北陸新幹線を乗り入れることが可能となるかもしれない.

次の「先のこと」ではなくなるタイミングは,リニアの大阪開業の2037年ということだ.この時点で東海道新幹線の電車の本数を減じることが可能となれば北陸新幹線を乗り入れることが可能となる.

じゃぁ,米原ルートを現段階でルートとして採用し,2021年頃着工,2031年頃米原まで完成,その段階で乗り入れ可能なら乗入れ,不能ならば数年間は米原で乗り換え,2037年には乗り入れ開始,という段取りが可能かというと,これはリスクを伴う.

どういうリスクかというと,2037年のリニア大阪開業を待っても,いろいろと難癖付けて「乗入れNG」とJR東海が返答する可能性があるからである.こうなれば米原駅で永久に乗換を強いられることになる.

米原ルートの最大の利点は東海道新幹線利用(による工費節減)だが,最大のリスクも東海道新幹線利用(による乗入れ拒否)だということである.

(つづく)

 

「米原ルート」の開業時期(1)

話が長くなりそうなので,3回シリーズである.

北陸新幹線の敦賀-大阪間のルートについては,与党が小浜と京都を経由するルートにする方針であることを表明しているが,これに対してしばしば米原ルートは建設延長が短いので5年程度で出来るという主張がなされている.が,本当にそう簡単なんだろうか?

小浜-京都ルートの完成時期は国交省の資料によると2031年着工で2046年開業とされている.これは2030年度に北海道新幹線が開業した後に手を付ける,という意味であって,資金がその時期にならないと都合がつかないからだということでもある.要するに積極的に資金確保をしないと,そういう時期にしか開業できないという意味でもある.

じゃぁ,米原ルートを採用して若干工期が短くなれば,しないシリーズ姿勢の国交省が早期着手するかというと,JR西日本自身が「ワシが金を出す」とでも言わない限り見通しは明るくない.要するに,基本的には米原ルートであっても2031年着工であろう.福井-滋賀県境にはかつての柳ヶ瀬越え区間があり,工事が容易と言うほどでもないので標準的な10年を工期と見積もれば2041年開業,つまりせいぜい数年早まる程度ではないだろうか.

まぁ,この程度の話は簡単だが,まだまだ込み入った話は続く.

(つづく)

東海道新幹線の浜名湖の件

別途書くと言った浜名湖の件である.

南海トラフ系地震に対する東海道新幹線の浜名湖付近の線路の置かれた状況については,ずいぶん前に書いた.詳しくは,以下の各リンク参照.
東北に行ってみた(水没した地区編)
リニア新幹線整備の理由(東京-名古屋編)
浜名湖を渡る鉄道(今切れ口編)
浜名湖を渡る鉄道(村櫛伝説編)
浜名湖を渡る鉄道(鉄橋観察編)

これに対して当該鉄道会社は公式には「津波の影響はない」と言っており,上のリンクの2つ目の内容を国交省にお知らせした後も内容の訂正は無いようなので,安全だと思い込んでいるようである.2-3年前の時点では『静岡文化芸術大の磯田道史准教授が浜名湖上を通過する東海道新幹線の津波に対する安全性に疑問を投げ掛けていることに関して「どういう根拠で言っているか分からない」』などと少々小馬鹿にした発言をしていたかと思うが,この歴史学者先生,映画「武士の家計簿」の原作者だとか,NHK教育の歴史番組の司会者だと言った方が分かりやすかっただろうか.

さて,今回は浜名湖付近の東海道新幹線が安全かどうかという点の議論ではなく,南海トラフ系の大地震で津波が新幹線の線路を襲うことを前提としたお話である.

東海道新幹線が大地震で不通になることに対しては,東西間交通の確保の観点では中央新幹線が有効であろう.だが,たとえ中央新幹線が開通した後であっても,リニア新幹線の輸送能力が低いであるとか,静岡から愛知県にかけての地域が全国的に見て重要な産業地帯であるという点を考慮すると,東海道新幹線はなおも重要な新幹線である.中央新幹線が完成しさえすれば壊れて消滅してもよいというわけではない.

これに対して鉄道会社は古くなった新幹線インフラの更新を徐々に進めるとともに高架橋の橋脚に鉄板を巻いたりするなどの対策を進めているところである.

だが,浜名湖をわたる線路については流失の可能性があり,国鉄末期にはせめてこの部分だけ線路を付け替えることができないかということで,当時の国鉄総裁が調査を開始しようとした,という話を耳にはさんだことがある.

対津波という点では,橋脚がしっかりしており,橋梁部分が最大波高よりも上ならば東日本大震災においても流失を免れていることから,現線路の北方の湖面上を新橋梁で通過するという方法は有効ではなかろうか.この現線路の北方を通過するというルートは,東海道新幹線建設時に当初計画されたルートであるとともに,国鉄末期に線路付け替えのルートとしても候補になったルートのようである.

じゃぁ,どの程度の費用がかかるのか,勝手に試算してみよう.現線路の北方約1kmを通すとすると,こんなライン取りか?

工事延長約13.3kmなので,工費をちょっと高めの200億円/kmと仮定すると,約2700億円かな.

まさかとは思うが,「津波でこの線路が被災してから,国費で直してもらおう」なんて考えてないよね.もし現線路が津波で被災したら「浜名湖の入り口を新幹線が通るなんて危険きわまりない.線路を直す際には迂回させるべきだ」という議論になるんじゃないだろうか.そうすると常磐線の復旧工事のように内陸迂回路線になり,浜松市の動物園付近から東名高速の付近を経て三ヶ日湖南岸,二川駅付近に達する工事延長30km超の大工事になりかねない.工期は調査を含めて突貫工事で10年か?

いろいろ後手だね.

 

初夢鉄道2016答え合わせ(西日本大震災編−1)

しばらく開いたが「初夢鉄道答え合わせ」の続き.今回は「初夢鉄道2016(西日本大震災編)」の(その1)である.

やはり起きてしまった.大中小の順番でやってくると言われている南海トラフ系の地震,今回は300年ぶりの「大」の番のようである.紀伊半島沖を震源として大規模な震源域がまず東に広がり,次いで東海地震が間髪を置かずして発生,M8クラス後半のようだ.そして数分後,揺れが収まりかけたその瞬間,今度は紀伊半島から西側へと震源域が広がり,さらに日向灘,沖縄方面へと岩盤破壊が進んだ.全部あわせてM9クラスか?紀伊半島の各市町村とは連絡が取れない.四国方面の太平洋岸も同じようだ.

幸い,まだ南海トラフ系の巨大地震は起こっていない.だが内陸地震は2016年も数多く発生し,着々と包囲網は形成されている.ここ何十年も大きな地震が起こっていない地域は徐々に少なくなってきており,「残った地域」についても過去に大きな地震が無い地域かというとそうでもなく,京都や奈良,若狭湾,紀伊半島の内陸,琵琶湖周辺,首都圏や相模湾付近など心配な箇所は多い.

何とか,リニアの東京-名古屋間は開業していたので,迂回ルートの確保はできた.だが,太平洋岸の発電所が停まっているところが多く,所定の本数が走らせられない.捌けない旅客は北陸新幹線経由で移動しているようだ.東海道新幹線は,やはり浜名湖付近の被害が大きい.砂地盤なので,津波と大振動のために地形そのものが変化してしまっている.こうなる可能性は1964年の新幹線開業時からだいたいわかっていたので,国鉄時代に無理をしてでも対策をしておけばという後悔があるが,今さら言っても仕方がない.

大地震は発生してはいないものの,発電所事情については相変わらずである.電力事情の逼迫は何とかしのいでいる感じだが,パリ協定への対応に頭が痛くなりつつある状況だ.日本を名指しで非難する声も出始めている.北陸新幹線はルート選定の話は進んだものの,全線開業が2046年では来たるべき大震災に間に合わない可能性が高い.東海道新幹線の浜名湖付近の件はまた別途考察することにしよう.

この西日本の震災発生から2ヶ月ほどして,何年か前から活発化していた富士山がついに噴火しそうである.大方の予想に反して山頂や宝永火口や南東の側火山ではなくて北東側の側火山が怪しい.リニアが通っている都留市付近まではやや距離はあるので火砕流は大丈夫だが,降灰がどの程度あるか楽観できるような状況ではない.多量の場合は火山灰除去のためにリニア求めなくてはならないかもしれない.

富士山についてもまだ噴火はしていないが,富士山付近の諸観測結果が怪しいのではないかという話は出ては消え,出ては消えしている.世界的スケールで見るとM9クラス地震が発生して数年内に大規模な火山噴火が起こることは常のようなので,今だに大きな噴火が起こっていない日本というのは例外なのか?

(つづく)

 

 

“雑魚な客数のために面倒なことできるかよ!” と返答してJR東海が失ったかもしれないこと(その3)

JR東海がやっちまったかもしれないお話の(その3)である.これは既にJR自身が気付いている点,新大阪駅(と,その近辺)の件である.

新大阪駅に北陸新幹線を乗り入れる場合,可能なら地下よりも地上駅にして東海道山陽新幹線と同じレベルのホームにしたいところである.そうすれば北陸新幹線の線路と山陽新幹線の線路を繋ぎたくなった場合,数キロにもわたるであろう連絡線を建設しなくても現状の西方から20番線(あるいは27番線)への出入りを拡張すればいいだけである.

ところが新大阪駅周辺での地上での線路工事は少々厄介だ.事実上頓挫している路線がある.

新大阪の少し南側に阪急電鉄の京都線が走っている.阪急としては「南方」という駅が新大阪最寄りになるが,いかんせん地下鉄で1駅離れており,とうてい乗換駅にはなり得ない.そこで,梅田の北方にある十三駅から京都線よりも少し北側を通って新大阪に達し,そのまま東進して淡路駅で京都線に戻るという新線の建設を東海道新幹線開業の頃から計画していた.

ところが,地上を走る新線はまかり成らんと住民の反対があったため,計画頓挫.十三から新大阪駅までについてはまだ計画は放棄していないようだが,その先の淡路までについては計画が頓挫してしまった.

…という話はほぼ新幹線建設にもあてはまるであろう話であり,鉄輪新幹線だろうがリニア新幹線だろうが,新大阪に乗り入れる新線建設は地上ではなくて地下線を考えざるを得なくなった.

さて,リニア新幹線はまだ名古屋以西がどこを通るのか公表されていないが,新大阪駅終点だけははっきりしている.誰が見てもほぼ2択で,27番線北隣の阪急保有の土地の地下になるか,20番線南隣の駅前広場地下になるかであろう.現状の新幹線駅ホームの真下という選択肢も無きにしも非ずだが,高架の脚がたくさんあるので,それを受け換えさせながら工事をするのはかなり難工事だ.失敗すると新幹線が止まるというかなりチャレンジャーな工事計画になる.

一方,北陸新幹線についても京都-大阪間が「南ルート」になった場合は新大阪駅付近はリニアとほぼ同じライン取りになりそうであるので,駅そのものの他,路線を地下の浅い部分で通すことになるであろう新大阪駅付近の道路についても地下空間の取り合いになる.新大阪駅ではどちらも山陽新幹線への乗り継ぎ,JR近郊線への乗り継ぎ,地下鉄への乗り継ぎを便利にしたいという点でも目的は同じだ.

目的が同じなら地下空間内でリニアと北陸新幹線の上下2層にすればいいじゃないかと思うが,両者経営が異なるので,おそらく新大阪駅では客用コンコースは別に設けたい,という話になるだろう.かといって,平面上で並べると,近い方はともかく,遠くなる方は移動距離が長くなる.

じゃぁ,「北ルート」なら問題がないかというとそうでもない.線路を地下で平面交差させるわけにはいかないので,やはりどちらかが地下の浅い方,もう一方が地下の深い方になる.当然,深い方が移動には不利.

ということで,地下空間の取り合いだ.

JR東海にとって厄介なのは,おそらくそれだけではない.一般人から見れば単なるJR会社間の調整事項だが,事業としてみると北陸新幹線は(営業予定はJR西日本だが)建設は国の実施する公共事業,もう一方のリニア新幹線はがっつり国策(JR東海はなぜかこの表現を嫌う雰囲気がある)に載っかった全幹法に基づく整備計画路線とはいえ,民間の事業(JR東海はこっちを強調したがる)だ.

公共事業 vs 民間事業.新大阪平成の陣

地下空間の調整の必要性はJR東海は認識しているようであり,最近は地下空間の調整について発言するようになってきた.「コンペティター」に勝つには圧倒的優位に立つのが理想的だろうが,そうでない場合には最初からうまいこと抱き込んでおくという方法もあった.ちょっと前まで,まさかそんな雑魚な話が天下のリニア事業に影響するとは思ってなかったよね.

 

 

“雑魚な客数のために面倒なことできるかよ!” と返答してJR東海が失ったかもしれないこと(その2)

奈良がやっちまったかもしれない話に続いて,JR東海がやっちまったかもしれないお話の(その2)である.今回は山陽直通客について考えてみよう.

リニア開業後の山陽新幹線からの東海道新幹線への直通客の見通しについては詳細は公表されていないが,基本想定としては概ねこんな感じか?

【山陽→京都】短距離なので基本想定としては,そのまま新大阪から東海道新幹線に直通.

【山陽→米原】この区間もそのまま新大阪から東海道新幹線に直通.ただし,従来なら「しらさぎ」に乗り継ぐ客が多少いたが,そういう客は北陸新幹線に移行するので米原駅近辺の客だけに減少

【山陽→岐阜羽島】そのまま新大阪から東海道新幹線に直通.そもそも,少ない客.

【山陽→名古屋】新大阪-名古屋間は東海道新幹線で約50分,リニアだと約25分.ただし,山陽新幹線からリニアへは乗換が必要で,乗り換え1回30分弱相当の心理的抵抗という調査結果もあるので,急がない客はそのまま東海道新幹線,急ぐ客はリニア乗換ということか.
だが,北陸方面から米原駅経由で名古屋駅まで行く場合,直通のしらさぎだと95〜100分,新幹線との乗り継ぎだと約75分であるが,実際に乗ってみると名古屋まで直通で乗り通す客は少ない.東海道山陽新幹線のようにビジネス客の多い路線だと,急ぐ客の方が多いかも.つまり,思ったよりも直通客が少ないかも,ということ.まぁ,自社路線間の移行なので,営業的にはあまり大きな問題ではないだろう.

【山陽→愛知・静岡県下】新大阪-名古屋間だけリニアをはさむこともできるが,乗換が2回になってしまうので,これは山陽新幹線からの乗り通しが標準になるだろう.

【山陽→新横浜】新横浜駅に用事のある人は少ないので,横浜駅で考えてみる.新大阪-横浜間が新横浜乗換で計150分くらい,リニアを使うと新大阪-品川間が67分,10分乗換で18分程度乗車で横浜駅まで計105分.山陽新幹線からだと片道4時間を越えてくることも多いので,ここも思ったよりも乗り通しの直通客は少ないかも,リニア優勢.


さて,山陽新幹線はJR西なので,北陸新幹線が新大阪まで到達するのなら山陽新幹線との直通運転を考える可能性は高い(実際,既にそれっぽい発言はある).現在の新幹線新大阪駅がJR東海の駅であり,山陽新幹線が自由に使えるのは南端の20番線程度で,かなり窮屈であることを考えても自社の新大阪駅を何とか持ちたいと考えるのは自然なことだろう.京都が観光の拠点であることや山陽客が北陸本線特急へ乗り継ぐ場合は京都駅が便利なことを考えると,現時点でも山陽新幹線の電車は京都発着にできないか考えているだろう(「レールスター」の時代からそうしたいらしい,という話は聞いたことあり).

北陸新幹線のルートが新大阪駅の北方から直角に進入してきた場合は山陽新幹線方面に直通させるのはかなり難しそうだが,東側から入ってきた場合には,「JR西日本の新大阪駅」がたとえ地下にあっても山陽新幹線と直通させることは不可能というわけではない.

仮に地下の「JR西日本の新大阪駅」が-40mの位置にあり,ここから西に向かって地下線で進んで徐々に登り,阪神高速11号池田線のあたりまで達するには約4kmある.九州新幹線ではない東海道山陽新幹線だけの電車でも走れるような1.5%勾配だとすると,この間に60m登ることができるので,-40+60=20mの高さまで登れる.ということで,何とか山陽新幹線の高架橋までたどり着けそう.

【山陽→京都】毎時何本か運転しなければならない山陽新幹線の「東京行き」は新大阪駅でそのまま地上駅を通って東海道新幹線に進み,京都駅に達するので乗り通し.九州方面からの山陽新幹線列車は新大阪地下駅を通って北陸新幹線経由で京都駅まで達するようになるかもしれないので,この区間の山陽新幹線から東海道新幹線への乗り通し客は大幅減になるかも.現在においては山陽→北陸線特急の乗り継ぎは新大阪駅よりも京都駅の方が便利なので,この区間の利用客である.だが,北陸新幹線が新大阪まで開通すると,この客は新大阪から北陸新幹線に移行してしまうので,その分の山陽→京都の客も減.

結局のところ,リニアと北陸新幹線開業後の東海道新幹線の名古屋以西の客層としては…

山陽→京都(大幅減),山陽→米原(大幅減),京都→名古屋(リニア乗継ぎ含む),山陽→愛知・静岡県,京都→愛知・静岡県,北陸方面→名古屋以東

つまり,東海道新幹線新大阪-名古屋間はマイナーOD客と京都-名古屋間客用支線状態ということだね.あとはリニアのチケットが満席で買えなかった消極的利用者かな.

JR東海はリニア開業後の東海道新幹線のために沿線に京都を残したのかもしれないが,その京都関係の客についても北陸新幹線の京都-新大阪間が建設されると客を持って行かれてしまう可能性が出てきた.京都は政令指定都市であるとともに,観光地なので,山陽→京都の旅客の量は,雑魚ではない結構な量になるかも.

米原からの乗入れを認めておけば,これは防げたかもしれないが,覆水盆に返らず状態. …さらに,つづく

 

 

北陸新幹線延伸問題、京都商工所は苦渋…

北陸新幹線の大阪延伸問題で、京都商工会議所の立石義雄会頭(オムロン名誉会長)は29日の定例会見で、与党が年内にも決定する延伸ルート案について、「政治的に決定した…

情報源: 「小浜舞鶴ルート案は採算性が最も悪い?」北陸新幹線延伸問題、京都商工所は苦渋…

この記事の最後の部分にこうある.

「北陸新幹線をめぐっては、京都と大阪をつなぐ南北新ルート2案も検討されているが、立石会頭は、府南部のけいはんな地区を経由する「南ルート」案に対し、「リニア中央新幹線(の新駅)との結節点でないと、あまり意味合いがなくなってくる」と述べた。」

えーと,ちょっと補足しておくと,リニアの”奈良市付近”の駅には毎時1本程度の停車,品川まで1時間半ほどかかるので,北陸新幹線の「南ルート」の駅がリニアの接続駅になっても,京都市の人が北陸新幹線の10分ほど乗ってわざわざその駅に行くことは少ないと思います.

京都駅からは東海道新幹線で名古屋まで約35分,リニアが開業しても毎時数本は東海道新幹線の列車は運転されるでしょう.名古屋で乗り換えてリニアで品川まで40分ほど,こちらも毎時数本というのが最速ルート.ということで,京都市の人はこの経路がメインルートになるはず.

じゃぁ,北陸新幹線の「南ルート」とリニアとがこの”奈良市付近”で接続されるとどこが恩恵を受けるのかというと,まぁ京都府南部の人はもちろん恩恵を受けて,奈良市および奈良県北部も恩恵を受けるのだが,北陸新幹線沿線で恩恵を受けるのは小浜〜敦賀あたり.福井市あたりになると乗り換え無しの北回りで東京まで行くのと”奈良市付近”経由が時間的には同程度になり始め,さらに東ではリニア開業後でも北回り有利.

それからまだ見込は立っていないが,山陰新幹線が京都市北方で分岐し,北陸新幹線の「南ルート」経由で大阪まで乗り入れるようになると山陰の各地から東京までの最速ルートは山陰新幹線+リニアを”奈良市付近”で乗り継ぐのが最速ルートになるはず.

例えば鳥取から東京までは,現状では姫路乗換で5時間弱かかっているが,山陰新幹線とリニアを”奈良市付近”で乗り継ぐと約3時間ほどになるはず.(新大阪乗り継ぎと時間変わらず,料金はこちらの方が安いはず)

「北陸新幹線が日本海側と太平洋側を連絡する重要路線であることも考慮し」の意味は実はこの辺にあったりするんだが,国土交通省やJR各社を含めて理解している人は少なそう.国土のグランドデザイン,とはいうものの,鉄道のグランドデザインできる人は日本(東京)にいるのかねぇ?